ポニーテールの勇者様

相葉和

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181 炎の洗礼

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「ユリ、左じゃ!」
「分かってる!」
「次は上じゃ!」
「はいよっ!」

バルゴの放つ魔力を帯びた剣撃を、続けて火の精霊が撃つ魔力弾を魔力障壁で弾き返す。
直後にこちらも一発魔力弾を御見舞するが、バルゴはそれを難なく剣で切り落とす。
バルゴとの戦いはロングレンジでの撃ち合いから始まった。
以前戦った時とは違い、今のところはバルゴの攻撃を凌ぎきれている。
前回はアフロを奪われた後での戦いだったが、今はアフロと再契約できたおかげで土の精霊力もふんだんに使え、わたしの攻撃力も防御力も格段に上がっていた。
それでもやっといい勝負、いや、どちらかと言えば防戦気味だった。

「参っちゃうわね。バルゴのあの剣、たぶん魔道具よね・・・」
「そうじゃの、今ので思い出したのじゃ。あれは歴代の王が所持している魔道具の剣なのじゃ。そうでなければ、あれほどあれほど容易く魔力を斬れぬのじゃ」

ディーネ曰く、あの剣は自身の魔力を効率よく引き出し、魔力を攻撃力に変えて撃ち出すこともできるし、魔力攻撃を撃ち落とすこともできる代物だそうだ。
火の精霊の魔力が利用できるバルゴがその剣を持てば、それこそ天下無敵の代物と言えるだろう。
エスカがあの剣を見たら分解したいと思うだろうな・・・などと余計なことを思い浮かべつつ、バルゴの攻撃を凌いでは合間に反撃を行うが、こちらの攻撃はいとも簡単に防がれる。
バルゴ一人を相手にするだけでもしんどい状況なのに、バルゴの攻撃だけに集中してもいられない。
バルゴの攻撃を躱すと同時に、わたしの背を狙って火の精霊が放った炎の弾が飛んで来ていた。
わたしは気がつくのが遅れたものの、その攻撃はアフロが張ってくれた魔力盾によって防がれた。

「ユリ、無駄打ちしない!慎重に!後ろにも目をつけなさい!」
「分かってるわよ!後ろに目は無理だけどね!」

アフロがわたしに檄を飛ばしつつ、バルゴと火の精霊に向けて牽制攻撃を放つ。
アフロは防御も攻撃もこなす遊撃のポジションで、バルゴを撹乱する役目を担っている。
わたしはどちらかと言えば攻撃役なのだが、なかなかどうしてバルゴに隙が生まれない。
攻めあぐねていたその時、上空から強力な魔力を感じ取った。
火の精霊が巨大な火の弾を放ってきたのだ。

「アフロちゃん!」
「任せなさい」

アフロが手を突き出し、その掌に魔力を集中させる。
そして掌から魔力を迸らせ、わたしと火の弾の間に素早く防御結界を張る。
濃密な魔力で構築された防御結界は火の弾を受け止め、さらにそのままバルゴの方に向けて滑り飛ばした。

「おおー、アフロちゃん、うまい!」
「あの攻撃は何度も受けたからね。コツを掴んだのよ・・・でも、駄目みたいね」

火の弾はバルゴに向かっていったものの、途中でかき消えてしまった。
バルゴが斬った様子もないので、おそらく火の精霊自身が火の弾を消失させたのだろう。
消えた火の弾の向こうに立つバルゴは、感心したような表情を浮かべていた。

「ふむ。以前より戦えているじゃないか、小娘」
「ええ。おかげさまでね!」
「だが、いつまで保つかな?」

一瞬、バルゴがニヤッと笑う。

「では、どちらの魔力が先に尽きるか、我慢比べと行こうか」

そこから、バルゴによる魔力弾の連続攻撃、そして火の精霊による絨毯爆撃が始まった。
正面のバルゴ、そして上空の火の精霊から間断なく魔力攻撃が繰り出される。
魔力障壁全開で攻撃をブロックするが、防ぐのが精一杯で、こちらから手を出すことが出来ない。
それに攻撃されているのはわたしだけではなかった。
アフロも同様に攻撃されており、魔力結界で自身を守っていた。

「ちょっ!あぶなっ!こっちは中継で忙しいのよ!おやめなさい!」

無論、サラも同様に攻撃にさらされていた。
サラは放映の魔道具を手放すことなく、攻撃をかわし続けている。
まるで戦場カメラマンを彷彿とさせるその根性と心意気は素晴らしいが、放映の魔道具には手ブレ防止機能など無い。
中継を見ている人達が画面酔いしなければいいと思うが、わたし自身、そんな心配をしている余裕はない。
当たり前だが、わたしとディーネは最も激しく攻撃にさらされている。
魔力障壁を維持するのが精一杯だ。

「ユリよ、どうするのじゃ!?」
「どうするって、どうしようか?向こうの魔力って底なしなのかな?」
「そんなことはないのじゃ。ただ、このままではこちらのほうが先に尽きるのじゃ」
「作戦通りではあるんだけれども、これはキツイねえ・・・」
「上手くいくと良いのじゃがの。この『時間稼ぎ作戦』がの」

ディーネの言う通り、今わたしは『時間稼ぎ』を主とした戦いをしている。
バルごとの戦いが始まったと同時に、わたしはさらにバルゴと距離を取るように下がった。
そして、そこからわたしとディーネとアフロで同時に魔力による攻撃をバルゴに向けて撃ち出した。
これによって『ロングレンジからの魔力の打ち合い』という様相にうまく持ち込むことには成功した。
ただでさえミドルレンジや近距離ではこちらの分が悪い。
バルゴには、先日のタイマンでわたしを倒した時に使って見せた『火の精霊の力を取り込み、目にも留まらぬ速さで繰り出す斬撃』がある。
今ならば土の魔力を乗せた全力防御で防げるかもしれないが、絶対とは言い切れない。
できればその技を使わせたくないという点でも距離をとったことは有効だった。
しかし、これらの目論見があっさり破綻しそうな事態が生じつつあった。

「ユリよ、バルゴが・・・」
「まあ、そうよね、そうするよね・・・」

こちらからはろくに反撃できないと判断したのか、バルゴが攻撃の手は緩めぬまま、ゆっくりとこちらに近づいてくるのが見えた。

・・・そりゃ黙ってみている必要はないもんね。
有効射程は分からないけど、あの斬撃だけはマズイ。
とはいえ、こっちも動けないし・・・

「ディーネちゃん。火の精霊の注意はお願い。わたしはバルゴに集中するから」
「承知したのじゃ」

ひとまずわたしはバルゴの動きに集中することにした。
怪しい動きをしたらすぐに対応できるように身構える。
ジリジリと距離を縮めてくるバルゴだったが、やがてその足が止まった。
わたしとの距離はまだ二十メートルほどはある。
しかし、件の斬撃の射程に入ったのだとしてもおかしくはない。
バルゴは魔力弾による攻撃の手を止め、右手に持った剣を肩に担ぐように構えた。

・・・あの斬撃が来るのか!?

嫌な汗が頬と背中を伝う。
防御障壁を過信せず、とにかくまずは躱すことに注力しなければならない。
わたしは両足のつま先に均等に体重をかけ、軽く膝を曲げ、いつでもどこにでも動けるように構えた。
そのバルゴは、肩に剣を担いだまま、今度は左手に炎を纏わせると、その左手を自身の顔の前にかざした。
その炎は徐々に大きく広がっていく。
その様子に、ディーネがわたしに注意を促す。

「ユリよ、あの炎・・・」
「斬撃に炎を纏わせて威力を上げるつもりかしらね?」
「違うと思うのじゃ」
「えっ?」

わたしは最初、ディーネの言う意味が分からなかった。
しかし、バルゴの表情を見た瞬間、ハッと気づいた。
バルゴは当惑の表情を浮かべているように見える。
つまりそれはバルゴにとって、意図していないことが起きているということだ。
そしてそれはバルゴの叫びで確信に変わった。

「何だ・・・何なのだこの炎は!!・・・火の!お前、一体俺に何をした!?」
「・・・」
「答えろ!火のぉぉぉ!ぐおあああっ!!」

バルゴが火の精霊に向かって怒号と、そして苦悶の声を上げる。
しかし火の精霊は何も言わず、ただじっとバルゴを見ていた。
やがて火の精霊の攻撃の手も止まり、王城の屋上はバルゴの叫び声だけが響いていた。

・・・バルゴさん、素の一人称がうっかり出ちゃうほど慌ててるね。
じゃあ、教えてあげましょうかね。

「バルゴ。その炎はね、貴方がしてきたことの報いよ!」
「・・・どういうことだ」
「分からないの?散々この星の人々を殺してきた貴方が?」
「・・・まさか・・・だが、どうやって・・・」
「そうよ、人体発火よ!」

バルゴの体を蝕んでいる炎、それはバルゴが火の精霊力を使って自ら生み出したものではない。
人体発火魔術によってバルゴを焼き尽くそうとする炎だ。
当然、その炎はバルゴを苦しめ、バルゴを死へと向かわせている。
人体発火魔術は自身の魔力の核に作用する術。
発動すれば防ぐすべはない。

・・・この作戦のために、わたしは時間を稼ぎたかった。
正直うまくいくかどうかは賭けだったけど、やってやったわ!

わたしは狼狽するバルゴに向けて、ビシッと人差し指を突きつけた。
今こそ、勝ちの台詞を決めてやる瞬間だ。

「さあ、バルゴ・・・」
「なんとなんと!ついにユリが形勢逆転!ユリがバルゴに仕掛けたのはあの人体発火!罪のない国民の人の命を無差別に奪った、あの極悪非道なバルゴの人体発火魔術をバルゴ自身に食らわせてやったのです!なんと痛快なことでしょう!」
「え、ちょっと待って、サラちゃ・・・」
「さあバルゴ!せめてもの罪滅ぼしは、己の技で己が焼かれ苦しむことです!そしてその身をもって国民に謝罪しなさい!」
「ずるいよ、サラちゃん!最後はわたしが決めたかったのに!!!」
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