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わたしの国民証発行作業は失敗に終わった。
正しくは『既に発行済みなのでもう一度発行することはできなかった』というだけのことだが。
わたしはもう一度手のひらに国民証を出現させて、王都監察官シュマーの前で国民証をピラピラさせた。
「ね?偽物なんかではなく、本物の国民証だったでしょ?」
「・・・・・・・・・・」
シュマーは何も言わず、わたしの顔と国民証を交互に見ている。
シュマーのおでこは静脈瘤を心配させるほどの迷宮状態になっていたが、沈黙のまま時間が経つと冷静を取り戻したのだろうか、徐々に青筋は引いていった。
「・・・なるほど、確かに本物のようですね。大変失礼しました」
「納得いただけたようで何よりですわ」
「ええ、ひとまず納得いたします・・・そうですね、少し休憩いたしましょう。軽く食事を取ってから・・・一刻程後に港でお会いしましょう。船を見せていただきたく思います。カーク殿、よろしいですか?」
「うむ、承知した」
カークが応じ、ひとまずこの場は解散となった。
シュマーと王都の兵士達は先にさっさと役所を出て行ってしまった。
「・・・自由行動になっちゃいましたけど、いいんですかね?」
「まあ、我々が逃げるとは思っていないのだろう。実際その通りだろうしな」
さっきの兵士達による包囲網は監視というよりも、わたしが国民証を作ることを拒否した場合に取り押さえるつもりだったのかもしれない。
さっきの兵士全員を伸すぐらいのことは容易いが、揉め事を起こすのは後々面倒になりそうなので、穏便に済ませるに越したことはない。
国民全員が人質に取られているような状態に変わりはないし、正面から王都に入れるチャンスをみすみす逃すこともないわけで。
役所の職員に騒がせたお詫びをしてから、わたし達も役所を後にして『星の翼』号へと戻った。
船の食堂で食事を取りつつ、この後シュマー達が船を見に来ることを皆に伝える。
「船の検分の際には協力的な姿勢でお願いします。変に逆らって怪我したり、最悪殺されるようなことにならないようにくれぐれも気をつけてね」
食堂に集まった全員にそう伝えた後、わたしはミライを呼んで一緒にカークとエリザの所に行った。
「カークさん、エリザさん。ミライちゃんはわたしと一緒にいたほうがいいと思うの。いいかな?」
「それは構わないが、部屋に籠もっている方が良いのではないか?」
「シュマーさんが検分と言った以上、すべての船室まで確認する可能性があります。その時にミライちゃんを部屋に一人で残しておくほうが心配ですから」
もしもミライが船室に閉じこもっていたら『なぜ隠れていた!』とケチをつけられるかもしれないし、一人でいるところに子供だと思って乱暴でもされたりしたら大変だ。
・・・兵士のほうが。
もちろんミライの身が一番心配ではあるが、ミライは危険排除用最終魔道具『近寄らないで!』を持っている。
それを使われるような事になれば後々めんどくさいことになる。
「・・・なるほど、それもそうだな。そういえばアフロ殿は一緒でなくて良いのか?」
「アフロちゃんはサラちゃんと一緒にいるそうです。少し体調がすぐれないとかで」
「精霊様にも体調不良があるのか!?」
「いや、わたしも良く分かりませんけど、魔力的な要因じゃないかと思っています。土の精霊なのにずっと海の上にいたからかも?」
自分でそう言ったものの、まったく的はずれな気はしている。
海底をズンズン歩いてくる能力すらある土の精霊が、ちょっと海上にいたぐらいで調子を崩すとは思えない。
何か理由があるのかもしれないが、アフロが素直に言ってくれるとも思えないので無理に聞こうとはしないつもりだ。
「ひとまず承知した。よろしく頼む」
「はい!そんなわけでミライちゃん、わたしから離れちゃダメだよ」
「うん!分かったの!」
◇
シュマーと兵士の一団が『星の翼』号にやってきた。
「ほおお・・・」
「なんと立派な・・・」
兵士達は『星の翼』号のデッキに上がるやいなや、感嘆の声を上げている。
『星の翼』号はエスカ主導、サポートに助手のルル、そしてアドルとメティス、さらにアドバイザー兼、技術と魔力の提供者としてアフロとミネルヴァが携わっているのだ。
この星で最も魔改造されている船と言っても過言ではない。
「シュマーさん、いかがです?ニューロックが誇る旗艦、『星の翼』号は」
「・・・いやいや、素晴らしいですね。それと同時に・・・」
「何です?」
「いや、失礼。お話は検分をしてからですが・・・ところで勇者殿。その子供は?」
「え?この子の名前はミライです。出頭指示にも含まれていますよ」
シュマーが名簿を取り出し、名前を確認していく。
名簿をなぞる指が止まり、名簿とミライを交互に見比べる。
どうやら名前を見つけたようだ。
「ふむ、確かに名前はありますね。名簿には年齢まで書いてありませんので。勇者殿の娘なのですか?」
「いやいや、違いますよ!わたしまだ独身ですから!」
「ほう、そうなのですか。そのぐらいの子供がいてもおかしくない年齢とお見受けしますが、独身でしたか・・・それは大変失礼しました」
・・・その物言いのほうがよっぽと失礼だよ!
行き遅れの基準がこっちと地球では違うんだから仕方ないでしょうよ。
「ミライ殿・・・そうですか、こんな幼い子供まで・・・」
シュマーが腰をかがめて、無表情のままジッとミライを見る。
ミライは怯えるようにわたしの後ろに隠れた。
「あの、わたしはミライちゃんの親ではないですけれども、わたしも保護者の一人みたいなものなので、ミライちゃんを怖がらせるようなことは・・・」
「ああ、すまない、怖がらせるつもりではなかったのだ。ミライ殿、大変失礼した。では検分を始めるとしましょう」
シュマーは立ち上がると、兵士たちを連れて船内へと入っていった。
船内の案内はアドルとエリザとエスカが担当し、シュマーの指示に従って隅々まで検分が行われた。
案の定、武装周りについては特に念入りに調べられているようで、検分には時間がかかりそうだった。
検分が終わるまで暇になったわたしとミライは、かつてこの地で誘拐されたエスカを助けるために知力勝負を行った酒場に向かってみたのだが、そこにはもう酒場は無かった。
しかし、代わりに『仕事斡旋所 職業訓練の実施も相談可』といった看板の建物が建っていた。
「あの時のゴロツキ共・・・あれからちゃんとした本業にしたんだねえ」
「ねえ、何の話?ミライにも教えて!」
「うん、じゃあ、あそこの茶店でお茶でも飲みながら説明してあげるね」
まっとうな事業を起こした事も嬉しいが、エスカが誘拐された事がきっかけかもしれないと思うと、なんだかおかしくもなってくる。
あの時の勝負を懐かしく思い出しながらミライに話し、検分が終了するまでゆったりとした時間を過ごした。
◇
「そんな・・・困ります!」
「困るのはこちらです。指示には従っていただかないと」
船に戻ると、エリザとシュマーが口論していた。
二人を中心にピリピリとした緊張感が伝わってくる。
わたしは慌ててエリザの元に行き、何が起きているのかを聞いた。
「武器や装備を、全てここに捨てていけと言われているのよ」
「いやいや、捨てろとは言っていません。この港に置いていってほしいと言っているのです。倉庫や資材置き場は提供しますので、武器、弾薬のすべてをそこに置いていってください」
シュマーの、あの気持ち悪い笑顔が復活していた。
本来、武装解除での出頭を命令されている手前、論破できるような材料はすぐに見つけられそうもなかった。
シュマーもそれが分かっているのか、勝ち誇るような、清々しくほどに気持ち悪い笑顔だ。
「いいですか。私共は貴方達を拘束し、船倉に放り込んで王都に連行するつもりはありません。そのためにも、船からの攻撃手段を持たせておくなどもっての外なのです」
「それは、そうかもしれませんが・・・」
「たとえ一隻であっても、この船の武装は大変な脅威だと判断しました。もしも指示に従えないのであれば、この船ごと廃棄して貴方達を拘束し、我々の船で連行することにしますが、どちらを選びますか?」
「・・・」
「幼い子供も船に乗っているようですが、特別扱いはいたしません。同じ扱いで衰弱死するような事があっても仕方ありません。私の本意ではありませんが・・・」
「ねえ、エリザ。ここは従おうよ。仕方ないよ・・・」
・・・せめて身体の自由は確保しておかないと。
いざという時に何もできないのは困るから。
それに、武装は見えている範囲だけじゃないのよ・・・
エリザもわたしの意図を理解したのか、わたしの提案に頷いてくれた。
「・・・分かりました。指示に従い、武装を船から撤去させます」
「ご理解いただき、大変嬉しく思います。既に解除すべき箇所についてはこちらでも調べがついていますので、兵士達の指示に従ってすべてを陸に降ろしてください。後ほど倉庫をご案内します」
「承知しました」
「それと・・・船体下層前方のここと、ここ。それから後方のこの部分と、底部の・・・」
シュマーはエリザから入手した船の図面を広げながら、次々に図面上を指差した。
その図面上には数箇所に、赤字でマークとコメントが記入されていた。
「これらの場所については今から再度検分させてください。おそらく隠し扉のようなものがあると推測しますが、無ければ無いで壁を破壊して確認します」
「ちょっと!そこまでする必要は・・・」
「そこまでする必要があるのです。隠し持っていられては困りますので」
・・・バレてたか。
ちくせう。
さすが、王都の監察官を名乗っているだけのことはあったか・・・
もしかしたら何らかの魔道具で検知したのかもしれないが、シュマーは的確に隠し武器庫の場所を指摘しやがった。
しかも武装解除承知の言質を取られた後では抵抗もできない。
かくして隠し武器庫の武器も全て白日の下に晒され、回収された。
それから夜まで武器の運び出し作業が行われ、艦砲や『れえるがん』、艦載機として使える『ラプター』や個人所有の武器も含めて『星の翼』号の武装は完全に剥ぎ取られた。
「エリザ殿、そして運び出しをしてくださった皆様、大変お疲れ様でした。本日はゆっくりとお休みください。出発は明日です。我々の船が貴方達の船を先導して王都までご案内いたします。最後の船旅をどうぞお楽しみください」
「はいはい、そりゃどうも。よろしくお願いしますわね!」
エリザの毒吐き気味な返答に、シュマーの笑顔は深みを増すばかりだった。
◇
「・・・じゃあ、ディーネちゃん、サラちゃん。そんな感じで、ひとつよろしく!」
「うむ、承知したのじゃ」
「こういうの、なんとかって言ってたわよね、何だっけ?」
「あー。えっと、『マッチポンプ』?」
「そう、それよ!『マッチポンプ』作戦ってことね」
「ド直球な作戦名だけど・・・まあ、いっか」
「アナタ達、楽しそうね・・・」
「アフロちゃんも悪い顔になってるわよ?」
「そう?まあ、お手並みを拝見させてもらうわ」
正しくは『既に発行済みなのでもう一度発行することはできなかった』というだけのことだが。
わたしはもう一度手のひらに国民証を出現させて、王都監察官シュマーの前で国民証をピラピラさせた。
「ね?偽物なんかではなく、本物の国民証だったでしょ?」
「・・・・・・・・・・」
シュマーは何も言わず、わたしの顔と国民証を交互に見ている。
シュマーのおでこは静脈瘤を心配させるほどの迷宮状態になっていたが、沈黙のまま時間が経つと冷静を取り戻したのだろうか、徐々に青筋は引いていった。
「・・・なるほど、確かに本物のようですね。大変失礼しました」
「納得いただけたようで何よりですわ」
「ええ、ひとまず納得いたします・・・そうですね、少し休憩いたしましょう。軽く食事を取ってから・・・一刻程後に港でお会いしましょう。船を見せていただきたく思います。カーク殿、よろしいですか?」
「うむ、承知した」
カークが応じ、ひとまずこの場は解散となった。
シュマーと王都の兵士達は先にさっさと役所を出て行ってしまった。
「・・・自由行動になっちゃいましたけど、いいんですかね?」
「まあ、我々が逃げるとは思っていないのだろう。実際その通りだろうしな」
さっきの兵士達による包囲網は監視というよりも、わたしが国民証を作ることを拒否した場合に取り押さえるつもりだったのかもしれない。
さっきの兵士全員を伸すぐらいのことは容易いが、揉め事を起こすのは後々面倒になりそうなので、穏便に済ませるに越したことはない。
国民全員が人質に取られているような状態に変わりはないし、正面から王都に入れるチャンスをみすみす逃すこともないわけで。
役所の職員に騒がせたお詫びをしてから、わたし達も役所を後にして『星の翼』号へと戻った。
船の食堂で食事を取りつつ、この後シュマー達が船を見に来ることを皆に伝える。
「船の検分の際には協力的な姿勢でお願いします。変に逆らって怪我したり、最悪殺されるようなことにならないようにくれぐれも気をつけてね」
食堂に集まった全員にそう伝えた後、わたしはミライを呼んで一緒にカークとエリザの所に行った。
「カークさん、エリザさん。ミライちゃんはわたしと一緒にいたほうがいいと思うの。いいかな?」
「それは構わないが、部屋に籠もっている方が良いのではないか?」
「シュマーさんが検分と言った以上、すべての船室まで確認する可能性があります。その時にミライちゃんを部屋に一人で残しておくほうが心配ですから」
もしもミライが船室に閉じこもっていたら『なぜ隠れていた!』とケチをつけられるかもしれないし、一人でいるところに子供だと思って乱暴でもされたりしたら大変だ。
・・・兵士のほうが。
もちろんミライの身が一番心配ではあるが、ミライは危険排除用最終魔道具『近寄らないで!』を持っている。
それを使われるような事になれば後々めんどくさいことになる。
「・・・なるほど、それもそうだな。そういえばアフロ殿は一緒でなくて良いのか?」
「アフロちゃんはサラちゃんと一緒にいるそうです。少し体調がすぐれないとかで」
「精霊様にも体調不良があるのか!?」
「いや、わたしも良く分かりませんけど、魔力的な要因じゃないかと思っています。土の精霊なのにずっと海の上にいたからかも?」
自分でそう言ったものの、まったく的はずれな気はしている。
海底をズンズン歩いてくる能力すらある土の精霊が、ちょっと海上にいたぐらいで調子を崩すとは思えない。
何か理由があるのかもしれないが、アフロが素直に言ってくれるとも思えないので無理に聞こうとはしないつもりだ。
「ひとまず承知した。よろしく頼む」
「はい!そんなわけでミライちゃん、わたしから離れちゃダメだよ」
「うん!分かったの!」
◇
シュマーと兵士の一団が『星の翼』号にやってきた。
「ほおお・・・」
「なんと立派な・・・」
兵士達は『星の翼』号のデッキに上がるやいなや、感嘆の声を上げている。
『星の翼』号はエスカ主導、サポートに助手のルル、そしてアドルとメティス、さらにアドバイザー兼、技術と魔力の提供者としてアフロとミネルヴァが携わっているのだ。
この星で最も魔改造されている船と言っても過言ではない。
「シュマーさん、いかがです?ニューロックが誇る旗艦、『星の翼』号は」
「・・・いやいや、素晴らしいですね。それと同時に・・・」
「何です?」
「いや、失礼。お話は検分をしてからですが・・・ところで勇者殿。その子供は?」
「え?この子の名前はミライです。出頭指示にも含まれていますよ」
シュマーが名簿を取り出し、名前を確認していく。
名簿をなぞる指が止まり、名簿とミライを交互に見比べる。
どうやら名前を見つけたようだ。
「ふむ、確かに名前はありますね。名簿には年齢まで書いてありませんので。勇者殿の娘なのですか?」
「いやいや、違いますよ!わたしまだ独身ですから!」
「ほう、そうなのですか。そのぐらいの子供がいてもおかしくない年齢とお見受けしますが、独身でしたか・・・それは大変失礼しました」
・・・その物言いのほうがよっぽと失礼だよ!
行き遅れの基準がこっちと地球では違うんだから仕方ないでしょうよ。
「ミライ殿・・・そうですか、こんな幼い子供まで・・・」
シュマーが腰をかがめて、無表情のままジッとミライを見る。
ミライは怯えるようにわたしの後ろに隠れた。
「あの、わたしはミライちゃんの親ではないですけれども、わたしも保護者の一人みたいなものなので、ミライちゃんを怖がらせるようなことは・・・」
「ああ、すまない、怖がらせるつもりではなかったのだ。ミライ殿、大変失礼した。では検分を始めるとしましょう」
シュマーは立ち上がると、兵士たちを連れて船内へと入っていった。
船内の案内はアドルとエリザとエスカが担当し、シュマーの指示に従って隅々まで検分が行われた。
案の定、武装周りについては特に念入りに調べられているようで、検分には時間がかかりそうだった。
検分が終わるまで暇になったわたしとミライは、かつてこの地で誘拐されたエスカを助けるために知力勝負を行った酒場に向かってみたのだが、そこにはもう酒場は無かった。
しかし、代わりに『仕事斡旋所 職業訓練の実施も相談可』といった看板の建物が建っていた。
「あの時のゴロツキ共・・・あれからちゃんとした本業にしたんだねえ」
「ねえ、何の話?ミライにも教えて!」
「うん、じゃあ、あそこの茶店でお茶でも飲みながら説明してあげるね」
まっとうな事業を起こした事も嬉しいが、エスカが誘拐された事がきっかけかもしれないと思うと、なんだかおかしくもなってくる。
あの時の勝負を懐かしく思い出しながらミライに話し、検分が終了するまでゆったりとした時間を過ごした。
◇
「そんな・・・困ります!」
「困るのはこちらです。指示には従っていただかないと」
船に戻ると、エリザとシュマーが口論していた。
二人を中心にピリピリとした緊張感が伝わってくる。
わたしは慌ててエリザの元に行き、何が起きているのかを聞いた。
「武器や装備を、全てここに捨てていけと言われているのよ」
「いやいや、捨てろとは言っていません。この港に置いていってほしいと言っているのです。倉庫や資材置き場は提供しますので、武器、弾薬のすべてをそこに置いていってください」
シュマーの、あの気持ち悪い笑顔が復活していた。
本来、武装解除での出頭を命令されている手前、論破できるような材料はすぐに見つけられそうもなかった。
シュマーもそれが分かっているのか、勝ち誇るような、清々しくほどに気持ち悪い笑顔だ。
「いいですか。私共は貴方達を拘束し、船倉に放り込んで王都に連行するつもりはありません。そのためにも、船からの攻撃手段を持たせておくなどもっての外なのです」
「それは、そうかもしれませんが・・・」
「たとえ一隻であっても、この船の武装は大変な脅威だと判断しました。もしも指示に従えないのであれば、この船ごと廃棄して貴方達を拘束し、我々の船で連行することにしますが、どちらを選びますか?」
「・・・」
「幼い子供も船に乗っているようですが、特別扱いはいたしません。同じ扱いで衰弱死するような事があっても仕方ありません。私の本意ではありませんが・・・」
「ねえ、エリザ。ここは従おうよ。仕方ないよ・・・」
・・・せめて身体の自由は確保しておかないと。
いざという時に何もできないのは困るから。
それに、武装は見えている範囲だけじゃないのよ・・・
エリザもわたしの意図を理解したのか、わたしの提案に頷いてくれた。
「・・・分かりました。指示に従い、武装を船から撤去させます」
「ご理解いただき、大変嬉しく思います。既に解除すべき箇所についてはこちらでも調べがついていますので、兵士達の指示に従ってすべてを陸に降ろしてください。後ほど倉庫をご案内します」
「承知しました」
「それと・・・船体下層前方のここと、ここ。それから後方のこの部分と、底部の・・・」
シュマーはエリザから入手した船の図面を広げながら、次々に図面上を指差した。
その図面上には数箇所に、赤字でマークとコメントが記入されていた。
「これらの場所については今から再度検分させてください。おそらく隠し扉のようなものがあると推測しますが、無ければ無いで壁を破壊して確認します」
「ちょっと!そこまでする必要は・・・」
「そこまでする必要があるのです。隠し持っていられては困りますので」
・・・バレてたか。
ちくせう。
さすが、王都の監察官を名乗っているだけのことはあったか・・・
もしかしたら何らかの魔道具で検知したのかもしれないが、シュマーは的確に隠し武器庫の場所を指摘しやがった。
しかも武装解除承知の言質を取られた後では抵抗もできない。
かくして隠し武器庫の武器も全て白日の下に晒され、回収された。
それから夜まで武器の運び出し作業が行われ、艦砲や『れえるがん』、艦載機として使える『ラプター』や個人所有の武器も含めて『星の翼』号の武装は完全に剥ぎ取られた。
「エリザ殿、そして運び出しをしてくださった皆様、大変お疲れ様でした。本日はゆっくりとお休みください。出発は明日です。我々の船が貴方達の船を先導して王都までご案内いたします。最後の船旅をどうぞお楽しみください」
「はいはい、そりゃどうも。よろしくお願いしますわね!」
エリザの毒吐き気味な返答に、シュマーの笑顔は深みを増すばかりだった。
◇
「・・・じゃあ、ディーネちゃん、サラちゃん。そんな感じで、ひとつよろしく!」
「うむ、承知したのじゃ」
「こういうの、なんとかって言ってたわよね、何だっけ?」
「あー。えっと、『マッチポンプ』?」
「そう、それよ!『マッチポンプ』作戦ってことね」
「ド直球な作戦名だけど・・・まあ、いっか」
「アナタ達、楽しそうね・・・」
「アフロちゃんも悪い顔になってるわよ?」
「そう?まあ、お手並みを拝見させてもらうわ」
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