ポニーテールの勇者様

相葉和

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132 やっぱり面倒な光の精霊

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「うう・・・なんであたしがこんな目に・・・」
「ほう。まだお仕置きが足らないのかしら?」
「そんなことないわよ!反省してるし!すごく反省してるし!」

アフロによって暗黒の箱に閉じ込められていた箱入り娘・・・光の精霊が開放されたのは、閉じ込められてからたっぷり一時間ほど経過した後だった。
開封された時の光の精霊は、体育座りで膝に頭をくっつけて小さく震えていた。
ちょっと気の毒に思ったが、猛省していただかなければ意味がないので良しとする。

「光。貴方、反省したと言っても、もしもまたユリやメティスを害するようなことがあれば、今度は二度と出れないようにするわよ」
「はあ・・・もうそんな気も失せたわよ。大丈夫、もう手出ししないわ。それに、あたしが反省したと踏んだからこそ出してくれたんでしょ?」
「違うわよ、貴方の助けが必要になったからユリの命令で出したのよ。ワタシはずっと箱に入れたままニューロックに連れ帰るつもりだったわ」
「この鬼畜!」

光の精霊が猛烈にアフロに抗議するが、アフロは例によって腕を組み、薄笑いを浮かべて光の精霊を見下ろしている。
まるで年の離れた姉妹の喧嘩のようだ。
しかしそんな微笑ましい光景をずっと見ている訳にはいかない。
本当に必要だったから光の精霊を解放してもらったのだ。

「ねえ、光の精霊さん。お願いがあるのは本当なの。お願いというか、わたしの勝利報酬の話よ。で、この魔道具なんだけどね・・・」

わたしが掌にのせている魔道具はもちろん、壊れてしまったメティスの魔道具だ。
装飾の破損以外に、幾つかの魔石が割れたり損失したりしている。
光の精霊を軟禁している間に、皆の力も借りてなんとか直そうとしてみたが、やはりアキム謹製の魔道具はかなり複雑である上に部材も不足しているため、わたし達だけでは手に負えないという結論に至った。

「ディーネちゃんやアフロちゃんも魔道具作りには詳しいんだけど、光の精霊さんはもっと詳しいって聞いたので、この魔道具を直すのを手伝ってほしいの。同額相当で弁償してもらうというのも考えたんだけど、やっぱりメティスちゃんにはこの魔道具が必要だから・・・」

そのメティスは今、サラを抱き枕にして眠っていた。
カピバラの体毛は硬めなので枕にするにはチクチク、ゴワゴワするように思うが、メティスはそんなことを構わずによく眠っている。
朝から長距離移動、謎解き大会、そして戦いに巻き込まれた挙げ句に魔道具まで壊されるという散々な一日だったので疲れがピークに達していたのだろう。
なお、抱っこされていれるサラもまんざらでは無さそうだ。
表情は読めないけれども、嫌ならば振りほどいているだろうし。

「あの子、目と耳が不自由って言ってたわよね」
「うん。だからこの魔道具を使って、視覚と聴覚を補助しているの」
「なるほどね・・・そうね、多分直せるわよ、でもねえ・・・」

光の精霊がなにやら考えている。
技術的な問題点はなんとかなりそうな雰囲気だったが、別の何かがあるのだろうか。

「光の精霊さん、修理をするために何か必要なものがあるなら教えて。純度の高い魔石なら町でなんとか調達してみるし、今ここにいる精霊の属性の魔石なら高純度のものが作れると思うの」
「いや、そうじゃないんだけど・・・この人間がまた見聞きできるようになったら、せっかくあたしが時間をかけて考えた理論とか問題がパパッと解かれちゃうわけでしょ?それが気に入らないというか・・・ひいっ!」

光の精霊が全力で後ずさる。
たぶん今、わたしの後ろでアフロが睨みを効かせたのだろう。
まだそんな小学生みたいな事を思っているのならば、発想を転換させてやることにする。

「ねえ、光の精霊さん。メティスちゃんはとっても優秀よ。そのへんの人間には簡単に真似のできない、素晴らしい能力がある。分かるわよね?」
「分かるわよ。だから癪なんじゃない」
「だからこそよ。メティスちゃんはきっとあなたの良い助手になると思うわ」
「助手?」

光の精霊が首を傾げる。

「例えば、光の精霊さんが新しい理論を証明したい時や、こんな問題を作りたいと思った時にメティスちゃんに相談すれば、メティスちゃんが一緒に調べてくれたり、計算の手伝いをしてくれると思うわ。光の精霊さんの研究がとっても捗ると思うの」
「・・・この人間をあたしにくれるってこと?」
「いやいや、物じゃないから!助手って言い方が悪かったのかな・・・でも雇用関係という意味でも悪くないわね。例えば貴方が雇用主になって、お手伝いをして貰う代わりに賃金を払うの」
「なるほどね・・・うん、うん・・・あー、でも、やっぱり嫌かも」

まだ渋るのか!
どうしたって気に入らないってか。

「うーん、そこまでメティスが目障りなら、とりあえず魔道具を直してもらえれば二度と関わらないように・・・」
「違う!そうじゃなくて!」
「?」
「・・・一緒に研究をしてくれる人なら、もっと対等な感じがいいというか・・・」

光の精霊がモジモジしている。
どうやら共同研究者になる人は対等な立場がいい、みたいに考えているようだ。

「そっか。光の精霊さんは、メティスちゃんと友達になりたいって事ね」
「友達・・・うん、そうかもしれない。友達・・・いいね、それ」

あ、なんか嬉しそう。
きっと自分でも気がついていなかったのかもしれないが、同じ興味を持つような友達が欲しかったのだろう。
おまけに精霊さんだし、そんな知り合いなど余計に作りにくそうだし。
・・・あ、そういうこと?

「・・・もしかして、洞窟に問題を置いて解けないと進めないようにしたのは、同じ興味を持つ人を探すため?」
「!!いやっ!そんなことっ・・・あたしはただ静かにここで一人で邪魔されないようにって・・・」

きっとそれは嘘だ。
この部屋に入った時に、大学の研究室みたいだと思った印象が腑に落ちた。
個人の研究室ではなく大学の研究室にあるもの・・・
もちろん研究室のカラーによっては差異はあるだろうが、中央に広いテーブル、使われていないたくさんの椅子、壁側には複数の作業机、ちょっとした水場、よく見たら食器棚のようなところに幾つもの食器まである。
更に奥には扉があり、おそらくは仮眠ができるような場所になっているのではないだろうか。
あきらかに、光の精霊が一人で使うには過剰すぎる設備だ。
そもそも精霊には不要なものまであるし。

「いつかここで、志を同じくするような人間と一緒に研究したかったんだね?」
「うっ・・・」
「だから、ろくに苦労せずに完全数の問題を解くようなメティスちゃんが気に入らなかった。そうでしょう?」
「・・・」

光の精霊はそっぽを向いて黙り込んだ。
どれもこれも図星だったのだろう。

「ねえ、光の精霊さん。メティスちゃんだってなんの苦労もせずに生きてきたわけではないのよ。メティスちゃんは事故で目と耳の自由を失った。その時はすごく苦労したと聞いたわ。いえ、魔道具を手に入れた今でも色々な苦労をしている。メティスの能力は、生きるためにメティスが頑張ったからこそ授かった素敵な能力なのよ」
「・・・」
「それにその能力だって完璧じゃない。メティスちゃんは何でも答えを出せる計算機ではないの。無意識かもしれないけれども、きっと自分なりに頭を使って答えを導いているのだと思う」
「・・・」
「メティスちゃんはあなたが出題した問題に感銘を受けているわ。だから光の精霊さんとメティスちゃんはお互い気持ちが通じ合えると思う・・・きっといい友達になれるわ」

メティスがハッとして顔を上げる。
それからわたしの言葉を噛みしめるように小さくうんうんと頷き、そしてキッとこちらに顔を向けた。

「・・・魔道具。直すわよ。みんな、こっちに来て」

光の精霊は奥の部屋を指さした。



「なんですかこれは・・・」
「凄いのじゃ・・・」
「よく集めたわね」

寝ているメティスと抱き枕のサラを残して、わたしとディーネとアフロは光の精霊に連れられて奥の部屋に入った。
寝室かと考えていた奥の部屋は、物置だった。
いや、乱雑に物が置かれているという意味では物置だろうが、さすがに表現が適さない。
そこには、純度の高い大小様々な魔石、見たこともない魔道具やまだ作りかけの魔道具のようなもの、魔石回路の設計図などが散乱していた。
むしろ、お宝いっぱいの宝物庫だった。

「これ、全部売ったら幾らになるんだろう・・・」
「さあね。人間の金銭感覚なんて分からないわ」
「ふむ・・・ユリよ。田舎の領地ぐらいならまるごと買えるのではないかと思うのじゃ」
「ひええ・・・」

ロリで美少女で巨乳で大富豪かよ!
人生大勝利じゃないの!
精霊だけど。

「足りない部材は無いと思うわ。ここにあるもの全てを使って直すわよ。魔石回路に詳しい風と土にも手伝ってもらうけど、いい?」
「ディーネちゃんじゃ」
「アフロよ」
「名前なんてどうでもいいから!」

光の精霊は部屋をガラガラと漁り、魔石や元のサークレットに使えそうな部材をアフロ達に渡していく。

・・・光の精霊に名前なんてどうでもいいと言われたが、やっぱり名前が無いと不便よね。
光の精霊の名前と言えばなんだろうか。
光の神様だと、アポロン?天照大神?
うーん、ちょっと違う気もする。
光・・・ひかり・・・コウ・・・みつ・・・みつこ・・・みつこと言えば・・・

「ユリ、あんたはこの工具を持っていって。磨いたり削ったりするぐらいはできるでしょう?」
「うん。分かったわ、ミっちゃん」
「は?ミっちゃんって誰よ!あたしに変な名前をつけないでよ!」
「ふむ、光の精霊の名はミっちゃんとな。良い名なのじゃ」
「そうね、覚えやすくていいわよ、ミっちゃん」
「ちょっと、あんた達まで!」

というわけで、光の精霊の呼び名はミっちゃんに決まった。
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