ポニーテールの勇者様

相葉和

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111 上陸、早々に厄介事

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ライオット領へ向かう船旅は順調だった。
高速仕様の『星の翼』号は、途中の島などで停泊すること無く、最短航路でライオット領に向かった。
停泊できる島を経由するとどうしても遠回りになるし、船の動力源となる魔力の補給はわたしと大精霊で受け持つことで補給の時間も費用も浮かせていた。
わたしたちが同乗しているからこそできる、インチキ臭・・・合理的な運用だった。
とはいえ、早く着き過ぎてもいらぬ疑惑を向けられるので、途中で釣りや甲板バーベキューなどを楽しんだりして、のんびりお気楽に進行した。
なお、わたしの変装、といっても髪型と色を変えただけだが、三日もすれば皆も慣れて今ではちゃんと私と認識されていた。

てか、三日もかかった意味がわからないし、何なら今でも着ている服や、ディーネとサラが同行しているかどうでわたしだと認識されているような気がするけれども被害妄想かもしれないので自ら触れないことにする。

ニューロックを出港して七日。
わたしは艦橋から外を眺めた。
艦橋から見える大海の先に、うっすらと陸地が見えていた。

「みんな、いよいよライオット領に上陸するわよ」
「おおー!」

エリザの掛け声に、艦橋のクルーも元気よく応えた。

「ねえエリザさん、ライオット領ってどんな領地なのですか?」
「んー、わたしも詳しいことは知らないんだけどね」

クルーの中にライオット領出身の人はいなかったので、噂話だけになるけど、と前置きをして話をしてくれた。

「武術や踊りみたいな、体を動かす文化が盛んだと聞いたことがあるわね。陽気な人達が多いみたいよ」
「年に一度のお祭りが凄いらしいですよ」
「酒がうまいって聞いたな」
「ネーチャンが綺麗らしいぜ」

エリザに続き、他のクルーが持っている知識と噂話を次々と披露してくれた。
まとめると、陽気でおおらかで祭り好きな人達?
ライオット領は地球の地理に当てはめると南米の位置だ。
南米でお祭りと聞いて一番最初に思い浮かんだのはリオのカーニバルだ。
あんまり暑苦しいのは苦手だけど、陽気で明るい人々の雰囲気を想像して、上陸が楽しみになった。



そんなふうに考えていた時期がわたしにもありました。

ライオット領の港に着き、港湾利用申請と領地内滞在の手続きをするために港湾地区の事務所に向かったエリザとアドルとわたしは、事務所の入領管理官にものすごくぞんざいな扱いを受けていた。

「ニューロックは今封鎖してるんだろ?お前らは外から人を入れないくせに、他所に行くのは好き放題なのか?お前らが勝手に決めた法か?ええ?」
「いえ、違います、そんなことはありません。こちらをご覧ください。太守からいただいた入領と港湾使用の許可をいただいた証明書です」
「・・・うちの領地の太守の許可も揃ってるようだな。・・・偽装じゃないだろうな?」
「もちろん本物です。正式にいただいているものです」
「ちょっとそこで待ってろ。確認してくる。おい、お前ら。逃亡しないようにこいつらを見張っとけ!」

入領管理官は他の職員らしき人達に声をかけると、事務所の奥に引っ込んでいった。
残されたわたしたちを職員が黙ったまま見ている。
腰には武器らしいものをぶら下げており、もしもわたしたちが不穏な動きでもしたらすぐに攻撃をしてくるのだろう。

「・・・ねえエリザさん、アドル、ここって本当に陽気でおおらかな領地なの?(超小声)」
「・・・個人差はあるんじゃないかしら(超小声)」
「・・・これも仕事だろうし、仕方ないんじゃないか?(超小声)」

しばらく待った後、入領管理官が戻ってきた。
めちゃくちゃ不機嫌そうな顔をしている。

「太守の城に連絡したところ、お前らの来訪の確認は取れた」

よかった・・・
しかしわざわざ太守の館に問い合わせまでするとは。
しかし無事に確認が取れたことで不機嫌になるとか、わたしたち、どんだけこの人に嫌われているのだろうか。

ん?そういえば今、館ではなく城って言った?
ここの太守は結構いいとこに住んでるのかな?

しかし安心できたのもつかの間。
入寮管理官から想定外の言葉が告げられた。

「だが、太守次官からの通達がある。領地内に入るのはお前ら三人だけか?」
「いえ、事務所の外で待っている護衛を含めて、十名ちょっとになると思いますが・・・」
「五人だ」
「はい?」
「五人までにしろとのことだ。よそ者が大勢ウロウロするのは気に入らないそうだ」
「よそ者って・・・それにそんな少数では我々も不安が・・・」
「この領地は安全だ。信用ならねえのか?信用できねえならとっとと帰るんだな」

・・・なんか、胡散臭さがビンビンだ。
次官っていうのはきっと太守の右腕みたいな人だろう。
その人が、わたしたちの安全を確保するどころか、人数制限?
この管理官、本当に太守の関係者に聞いてくれたのだろうか?
実はこの人の独断なんじゃないの?
だとしても、なんでそこまでわたしたちが気に入らないのだろうか。

アドルも困り顔をエリザに向けた。

「どうする、エリザ?」
「・・仕方ないわ。ここはひとまず従いましょう」

エリザはそう言うと、入領管理官に承諾の回答をした。

「わかりました、五人だけで領地に入らせていただきます。他の者は船に残りますが、せめて港湾施設だけは使わせてもらえないかしら?補給や食事ぐらいはかまわないでしょう?」
「・・・ああ、構わないが、勝手に港湾施設から出た場合、命は保証しない。いいな」

そういうと、入寮管理官は書類を持ってきてサインをした。

・・・この人の名前かな?
えーと、『サンバ』?
名前だけは陽気かよ!

エリザが書類を受け取り、わたしたちは事務所から退出した。
なお、上陸するメンバー五人は再びこの事務所に来て、顔見せをしなければならないそうだ。

わたしたちはひとまず船に戻って荷物の準備と、上陸するメンバーを決めることにした。
船に戻る道中、管理官に対する文句を垂れ合った。

「それにしても歓迎されなさすぎですよね。そこまでひどい態度を取らなくてもいいと思いませんか?」
「ああ、全くだな。それに人数制限とはね。エリザ、これはどういうことだと思う?」
「アタシ達を監視しやすくするためか、捕まえやすくするため・・・そう思っておいたほうがいいわね」

十分な警戒と護衛の人選を慎重にする必要がある、とエリザは付け加えた。

ある意味、わたし自身に護衛は必要ない。
自分の身は守れるし、ディーネやサラも一緒にいるから・・・ってあれ?
五人に絞られた場合、動物ってどうすれば?
まあ、ディーネとサラは大きさを変えられるので体を小さくしてもらうとか、あるいは上空を飛んでこっそりついてきてもらうという手もあるけど、目撃されたら面倒そうだ。

「あの、エリザさん。ディーネちゃんとサラちゃんって人数に含まれますかね?」
「・・・動物だし、人数には含めなくても構わないのではないかしら?」
「オレもエリザと同意見だけど、結局、判断するのは管理官だよな」

まあ、わたし達だけで結論を出せることではなさそうだ。
だったらいっそ・・・



「失礼します。入領管理官のサンバさんはいらっしゃいますか」
「ああ、お前らか。領地に入るんだな。ちゃんと人数は五人以内に・・・こいつらはなんだ!?」

入領管理官のサンバの前に並んだのは、わたしとエリザとアドル、そしてディーネとサラだ。
つまり、三人と二匹、合わせて五人(?)だ。

「動物じゃねえか!しかも何の動物だ?見たことがないぞ」
「はい、こちら、ニューロックで最近見つかった新種の動物で、人懐こくて荷物持ちにも便利なのです。もしも太守が気に入ったら献上しようかと・・・」

サンバが遠巻きにしてディーネとサラを見ている。
ディーネとサラもサンバを見ている。

わたしの提案で、護衛のメンバーは連れて行かないことにした。
ライオット領の太守と話をする上で中心人物たるエリザとアドルにはついてきてもらわないと困る。
少人数だと危険な目に遭う確率が上がるかもしれないが、気心知れたこの二人ならばわたしとディーネとサラで守れると思うし、人数が変に増えたらむしろ護衛のほうを守れない気がする。
そう考えた末、本当に最低限の人数で行動することにしたのだった。
ホークスとエスカは同行できなくてとても残念そうだったけれども仕方がない。

そんなわけであとは管理官の判断だけだ。
この世界には検疫という概念は特に無いそうなので、エリザが言うには『危険生物と判断されなければおそらく大丈夫だろう』とのことだ。

サンバはジリジリとディーネとサラに近寄っていくと、そっと手でディーネとサラに触れた。
ディーネとサラは動かない。
事前の打ち合わせで、ディーネとサラには極めて大人しく振る舞ってもらうことにしていた。
しかし、もしもサンバがディーネ達に危害を加える素振りを見せれば、わたしは他領の管理官だろうと容赦はしない。
もっとも、わたしがどうこうする前にディーネ達に返り討ちにあうだろうけれども。

固唾を飲んで見守ることしばし。
サンバはフッと息を吐くと、小さく呟いた。

「・・・かわいいな」
「はい?」
「この動物・・・かわいいじゃねえか!特にこの鳥の目、最高だ。こっちの獣も大きすぎず小さすぎず、それでいてこのずっしり感が実にいい。今度来る時は俺にも融通してくれないか?」
「あはは・・・」

ハシビロコウとカピバラの良さに気がつくとは・・・
本当はこの人、いい人じゃないの?

サンバはひとしきりディーネとサラをワシャワシャした後、エリザに問いかけた。

「あんたがリーダーで、こっちの二人が護衛兼、動物使いって事でいいのか?」
「ええ、そうです。この人員で領地に入らせていただきますが、問題ないですか?」
「分かった。いいだろう・・・ところで聞きたいんだが、お前、噂の『異世界の勇者』か?」

サンバの言葉にわたしはドキッとしたが、サンバの質問の相手はわたしではなくエリザだ。
わたしはポーカーフェイスのまま口を挟まずに、エリザに回答を任せた。

「アタシ?いや、違いますよ。違いますし、今回の渡航には同行していません。ニューロックに残っています」
「そうか、いないんだな。ならばいい。もう行って構わん」

サンバはクルッと向きを変えて事務所に戻っていった。
事務所の中からは他の職員がサンバとわたし達のやりとりを見ていたようだが、追加の横槍を入れられたり引き止められることもなく、わたしたちはライオット領の港町に入り、そのまま領主の館のある方へと街道を進んでいった。

「・・・無事に入れたし、まずは一安心ね。アドル、ユリ、三人しかいないけどよろしく頼むわね」

アタシが一番戦力にはならないからね、とエリザが苦笑した。

「しかしこの人数だけとはなあ・・・」
「いいじゃないアドル。それにわたし、エリザさんと一緒にこうやって外で行動するのは初めてだから嬉しいわ」
「あら、ユリ、わたしも嬉しいわ。でもアタシがいなければアドルと二人でお泊り旅行ができたでしょうに。お邪魔じゃないかしら?」

エリザが口元を手で隠してニヤニヤしている。

「なっ!エリザ!?」
「ちょっとエリザさん!?わたしはそんなこと考えたことすらないですよ!むしろわたしの身の安全ために同行してくれて助かります!」
「オレは野獣か何かかよ!やっぱりホークスにもついてきてもらうんだったかなあ・・・」
「ユリよ、人の種の存続のためには・・・」
「ディーネちゃん、少し黙ってて」
「ユリ、私とディーネはさっきあの男に触られるのを黙って我慢してたんだから、少しは喋らせなさいよ」
「あ、はい、サラちゃん。ゴメンナサイ・・・」


三人と二匹の道中はなかなか賑やかになりそうだった。

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