ポニーテールの勇者様

相葉和

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090 コーラル防衛戦その一

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北方の上空に見えているもの、そして尾を引きながら近づいてきているものは、大きな火の玉のようなものだった。
それがニューロックに向かってきているのだった。

ファンタジーRPGにありがちなメテオ的なやつか!
めちゃくちゃマズイじゃないのよ・・・

直径二十メートルぐらいの隕石が落下しただけでも、半径百キロ以上に被害が出るような話を聞いたことがある。
陸上に落ちても地震や衝撃による被害が、海上に落ちても津波の被害が出るだろう。
飛んできている火の玉がどれぐらいの速さとサイズと質量かは分からないけど、衝突したら大変なことになることは間違いない。

「バルゴめ、これが狙いだったか」

アキムは怒りに顔を歪めながら、悪態をついた。

「あの、アキム様、なにかご存知なのですか?」
「あの魔術はおそらく落星の魔術だろう。実際に見るのは初めてだ。召喚の魔道具と同様に失われたと思っていたがな。悪魔の技を復活させよったか」

アキムはそれ以上言わなかった、もしくは言えなかったのかもしれない。
衆目のあるこの場所では制約によって喋ることが出来ない内容が絡むとすれば、かつてこの星に移住する前に先人によって作られた魔道具なのかもしれないと推測した。

「あの術は、対となる魔道具に向かって星の欠片を誘導させて落下させる魔術だったはずだ。おそらく対象はそのグレースの旗艦にあるのだろう」
「だから旗艦だけをここに・・・」

兵士達が死傷することを覚悟の上で、船がボロボロになるのも顧みず、バルゴの指示に従ってミッションをこなしたグレースの太守に敬意を表したくなると同時に、自分は安全な所にいて、部下を死地に送り出したバルゴに改めて怒りを覚えた。

それにしても、誘導式の攻撃なら他にも方法があったんじゃないの?
わたしなら貨物船か何かでこっそりターゲットになる魔道具を密輸するだろうな、と思ったけど、魔道具の輸入品チェックのようなものがあるかもしれないし、特に今はニューロックは厳戒態勢だから、より確実でバルゴが信用できる方法を取ったのかもしれない。
自力でニューロックを落とせればそんなものの出番は無かったかもしれないしね。

わたしがそんな事を考えていると、アキムが動き出した。

「ユリ、あまり時間はない。念のために儂は一度カークの館に戻って対抗できる魔道具を持ってくる。ユリは港にいる全員に退避命令を。アドル達にはなるべくニューロックから離れるように連絡をしてくれ」
「分かりました」

アキムはすぐさまラプターでカークの館へと飛んだ。
わたしと騎士達もアキムの指示を実行するため、動き出した。

わたしは監視のために港にディーネを残し、急いで詰所に向かい、ニューロック艦隊のアドルに連絡を入れた。

「アドル、時間がないの。ニューロックがメテオを食らうわ。すぐに逃げて!」
「『メテオ』?逃げる?分かるように説明してくれ」

・・・ああ、もう、時間がないのに!
でもわたしが説明を端折りすぎたせいだ。
冷静になって説明をやり直した。

「・・・つまり、空から巨大な物体を落としてニューロックを攻撃するのか。直撃だけ避ければいいんじゃないのか?」
「アドル、それでは駄目なの。わたしの知っている知識では、その後の二次災害があるの。だからニューロックからできるだけ離れるか、付近の島に上陸して高台に向かって!できればまだ残っているグレースの艦隊にも教えてあげて!」
「わかった。くれぐれもユリも無理するなよ」

・・・艦隊はこれでよし。
通信を終えると、わたしは急いで港に戻った。

港ではディーネが火の玉と、グレースの旗艦の両方を警戒してくれていた。
他に人影はなく、全員避難が完了したようだ。

「戻ったか、ユリよ・・・その隕石とやらを観察しておったのじゃが、間違いなくその船に向かっておるようじゃ」
「ほんと?とりあえずコーラル直撃じゃなくてよかったよ」
「じゃがな・・・なにか胸騒ぎがするのじゃ」

わたしは背中がぞぞっとした。
大精霊様の胸騒ぎなど、凶報以外の何物でもない。
そんなもの、麻雀で危険牌をつかんだときだけにしていただきたい。

「あ、でも船に直撃するなら、乗員の人は・・・」
「ユリよ、船の中じゃがな・・・生命活動をまったく感じぬのじゃ。すでにもう・・・」
「そう・・・」

ディーネは最後まで言い切らなかったが、言わんとしていることは分かった。
わたしはまたバルゴに対する怒りが再燃してきた。

「ユリよ。隕石が船に向かって落ちてきているのならば、ひとまず船を沖に押し出してみようと思うのじゃ。手伝ってくれるか」
「もちろんよ・・・ご遺体には申し訳ないけど、仕方ないって分かってるし」

もはや、ご遺体は回収できない。
仕方ないことだけれども、きっとご遺族は悲しむだろう。
でもこれ以上の悲しみを増やす訳にはいかない。

ディーネは海戦で行った大魔術で消費した魔力をそこそこ回復したようだが、まだ十分では無いと判断して、わたしの魔力も使うことにした。
わたしはディーネと手をつなぎ、魔力のパスを繋ぐ。

「ではいくのじゃ」

ディーネが海に向かって魔力を放出すると、大きな海流を起こし、グレースの旗艦をゆっくりと沖に向かって押し流し始めた。
既に破損箇所も多い船は、徐々に沈みながらも、なんとか完全沈没はすることなく、どんどんコーラルの港から離れていった。

「ユリよ、ここまでじゃ。もうじき、隕石が衝突するのじゃ。今度は港を守る事に専念しよう」

グレースの旗艦は、かなり沖の方まで流されていった。
これで軌道が変わってくれれば幸いである。
しかし、そうはいかなかった。

「ユリよ、残念なお知らせじゃ。隕石の軌道は変わっておらん」
「・・・そっか。でも少しだけそんな気はしてたよ」

既に発動済みの魔術だ。
標的が移動しても、既に指定済みの座標は変わらなかったのだろう。

その時、アキムの乗ったラプターが港に着陸した。

「ユリよ、待たせたな。ギリギリ間に合ったか」
「アキム様!」
「まもなく衝突だな。幸い火の玉はおもったほど大きくないようだ。儂とサラは落下地点付近に結界を展開して衝撃を緩和する。ディーネは波をコントロールして港に波が押し寄せるのを防いでくれ。できるか?」
「うむ、完全には出来まいが、軽減ぐらいはできるであろう」
「よし。ユリは儂らが吹き飛ばされないように衝撃緩和の防御を頼む」
「分かりました!」

分担を終え、アキムは火の玉落下予定地点に結界を展開した。
わたしはアキム達を囲むように防御魔術を展開した。
火の玉がだいぶ近くなったなと思った時、魔道具の機能によるものかは分からないが、火の玉は急激に加速し、コーラルの沖に突っ込んできた。

「全力防御だ!」

アキムが叫んだ。

言われなくとも、やってやりますとも!
全力展開!
火の玉が着弾する位置の正面に、全力で防御魔術を行使した。
ドーム型の防御障壁がわたしを中心に展開された。

火の玉が着弾した。
サラの結界が破壊されたせいか、甲高い音が響き、耳がキーンとなった。
すぐさま衝撃波が陸を襲い、防御魔術に守られていない場所の港の木々はなぎ倒され、建屋は窓が割れ、屋根が飛ばされた。
火の玉によってサラの結界が破られた後は、サラもわたし達の防御に回ってくれたようで、
わたし達の周囲だけは穏やかだった。
しかしその外側は巨大台風が直撃したような、暴風と大波でえらいことになっていた。
港のそばに立てていた監視台は破壊され、港に停泊していた船は転覆していた。

しばらくすると、港は元の穏やかさを取り戻した。
町に被害をもたらした傷跡はあるものの、海も風も穏やかになった。

グレースの旗艦の姿は見えなくなっていた。
直撃でなかったとはいえ、今度こそ海に沈んでしまったのだろう。
コーラルの港町は一応健在だ。
嵐が過ぎ去った後の港町の様子は散々たるものだったが、ディーネとサラのお陰で、被害を最小限に抑える事ができたのだと思う。

この程度で済んでよかった、と正直思った。

「ふー。やりましたね、アキム様!」
「ああ・・・してやられたな」
「ですよね!・・・え?」

してやられた?
してやったり、とかじゃなくて?
聞き間違えかなと思ったが、そうではなかった。

アキムが苦い表情を浮かべていた。

「なるほどな・・・本命はこっちか。してやられたわ」

アキムが見ている先は、さっきの火の玉が飛んできたほうだ。
わたしもアキムが見ている北の空を見た。

度を超えた驚愕に、わたしは悲鳴の声も出なかった。

わたしの見ている先には、先の火の玉とは比べようもないほど巨大な火の玉が飛来してきていた。
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