ポニーテールの勇者様

相葉和

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087 ニューロック海戦その二

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グレース艦隊との最初の交戦はこちらの勝利となり、グレース艦隊は一時後退した。
こちらもその間に第二回戦の準備を整え、今度はこちらからグレース艦隊に攻撃を仕掛けるべく、グレース艦隊に向けて艦隊を進めていた。

「アキム様、敵も近づいてきました!」
「そうか、向こうからも来るとはな。だが構わん。ユリ、ディーネ、アドル、作戦開始だ」
「分かりました。いくよディーネちゃん!」
「うむ、心得たのじゃ」
「ユリ、気をつけて。こっちは任せろ」

わたしとディーネは艦橋を出て、甲板に向かって走った。
甲板に出ると、そのまま甲板を縦断して船の先端に向かった。

船の先端に着き、念のためにロープで体と柱を結び、船から落ちないように体を保定したらわたしの準備は完了だ。

・・・みんなを守るためだ。
早く戦闘を終わらせるんだ。

「ディーネちゃん、魔力全開!」
「承知」

わたしは船の全面に防御魔法を展開した。
そしてディーネは、海に向かって魔力を放出した。

敵艦のやや手前の海上に、不自然な渦が生じた。
現れた渦はひとつではなかった。
複数の渦が横並びに生じ、徐々に大きくなっていった。

「さあ、水の精霊の本領発揮じゃ」

ディーネが気合の入った声を上げると、渦の中心から大きな水柱が上がった。
水柱の高さは三十メートル以上はあるだろうか。
全ての渦から水柱が上がったその光景は、さながら大掛かりな水芸のような美しさと、自然現象ではありえない脅威を目の当たりにした怖さがあった。

水柱は徐々に太さを増していき、隣の水柱と触れるほどの太さになると、水の柱は水の壁と化した。
そして水の壁はそのまま敵艦に向かって襲いかかった。

海流の乱れと大津波のような大波を喰らった敵艦隊は混乱し、艦隊制御に集中せざるを得なくなった。
数隻は大波に飲まれて沈んだようにも見えた。

こちらの旗艦とその周囲も、ディーネが起こした大波の影響を多少は受けているものの、わたしとディーネで波の影響を緩和し、艦隊運用に支障をきたすような事は起きていなかった。

「ふう、妾はこれで一旦休憩じゃ。久しぶりの大技じゃった」
「ありがとう、ディーネちゃん。お疲れ様!」

大仕事を終えたディーネが、ふと上空に顔を向けた。

「ほう。アドルも動いたようじゃの」
「さすがアドル、いいタイミングね!」



グレースの艦隊は大混乱に陥っていた。

「司令代理!隊列が維持できません!」
「三、四番艦隊が波に飲まれました!四隻が沈没、戦闘不能です!」
「前方に展開していた船が軒並み損傷しています!後退の許可を求めています!」
「うろたえるな!馬鹿者共!この海の荒れ様なら敵もこちらを攻撃しにくいはずだ。海がある程度落ちついた所で全艦で主砲斉射、敵の足止めをしてから各個撃破だ!まずは船の制御に魔力を集中させろ!」

フェイムの指示で現場を引き継いだ艦隊司令が怒号を上げて部下を鼓舞した。

「まだだ、まだ負けていない・・・」

この海の荒れ具合は尋常ではなかった。
こんなものが連発されてはたまったものではないと艦隊司令は考えていたが、第二撃がすぐに来る様子はなかったので、体制を整えたら予定通り艦砲による一斉攻撃をするつもりだった。
しかし、その間は与えられなかった。

「し、司令代理・・・」
「なんだ!今度はどうした!」

海の様子はまだ荒れているものの、ニューロック軍の船からの攻撃はまだ起きていない。
司令代理はこの部下がなぜ慌てているのか怪訝に思ったが、とにかく報告を聞く事にした。

「その・・・空に、鳥のようなものが無数に・・・」
「鳥だと?何を慌てているのかと思えばこの馬鹿が!そんなものは放っておけ!我々の敵は鳥ではなく敵の・・・」

突然の爆発音と衝撃に司令代理は最後まで言葉を言うことができなかった。

「甲板被弾!主砲も破損しました!被害状況を確認します!」
「左舷に損傷あり!浸水に備えます!」

敵の艦砲攻撃では無かった。
しかし明らかに攻撃を受けていた。
何事が起きたのか?

「司令代理!空です!敵は空から攻撃しています!」
「なんだと!?」

司令代理は艦橋の窓から上空に目を向けた。
確かに大きな鳥のようなものが旋回している。
敵は鳥を操って爆弾を投下しているのだろうかと考えた。
艦隊司令は目を凝らして鳥を見た。

「なんだ・・・なんなのだあれは!」



「よーし、第一陣の攻撃は成功だな」

アドルは敵の艦隊を見下ろしながら、攻撃の成功に安堵していた。
アドルは『ラプター』に乗り、敵艦隊の上空を飛んでいた。

ラプターは、由里の異世界の知識を基に、由里とエスカとアドルで開発した、この星で初めての有人航空機だ。
ヘリコプターの飛行原理に魔石回路を組み合わせ、魔力を動力として飛行するこのラプターを、エスカはカークの館で量産していた。
さらにラプターはエスカによって改良され、魔力の効率化や、飛行速度の向上、通信機能の搭載、そして爆弾投下やラファルズによる銃撃機能などの攻撃機能が備わっていた。

アドルの先導によって、各艦に搭載していたラプターは飛び立ち、ディーネの大技によって混乱している敵艦の上空に到達すると、そこから敵艦にむけて爆撃を行ったのだった。
海が荒れて、お互いに船からの艦砲射撃がままならない状態であっても上空は関係ない。
まずこれがひとつめの狙いだった。

そして、この星にはまだ航空戦力というものが無かったため、上空を狙うための仰角を取る艦砲射撃が難しいという点にも勝機を見出していた。
当然、敵はラプターの存在を知るはずもなく、変な鳥が飛んできたぐらいに思ったかもしれない。
しかし実体は戦闘力を持った、空を自由に駆ける武器だ。
当然のことながら敵艦隊は対空専用兵器など持っておらず、上空から接近するラプターを食い止めることもできないまま、こちらは有利に攻撃を展開することができた。
これが二つ目の狙いだ。
この二つの狙いが見事に噛み合い、敵艦隊に被害を与えることに成功していた。

「ラプター部隊の第一陣は帰投!第二陣、攻撃開始!」

アドルの通信指示によって、攻撃を行ったラプター隊の第一陣は補給のために艦に戻っていった。
そして第二陣がやって来ると、敵艦の上空から爆撃を開始した。
続けて第三陣、第四陣、そして補給を終えた第一陣が再び攻撃する。
これを何度も繰り返し、間断無く攻撃を行った。

ラプター隊による攻撃は、ほぼ一方的に敵艦にダメージを与え、次々に戦艦を破壊、あるいは行動不能に追い込んでいった。

海上の荒れが落ち着き、艦砲射撃による戦火の応酬も始まったが、ニューロック艦隊の長射程と、上空からの同時攻撃にグレースの艦隊は翻弄され、戦いの旗色はニューロックに傾いている事は明白だった。

上空に残り、ラプター部隊の指揮をとっていたアドルの目には、ニューロックとグレースによる海戦はニューロックの勝利でほぼ決着し、あとは掃討戦の様相が見えていたが、妙な違和感も感じていた。

「そういえば敵の旗艦はどこだ?ディーネの波で沈んだのかな?」

護衛艦らしきものはまだ健在のようだが、慌てている様子もない。
むしろその様子が気味が悪いほどだ。
アドルが思案していると、旗艦から通信が入った。

「アドル殿!コーラルの沿岸にグレースの旗艦が迫っているそうです!アドル殿は急いで旗艦に帰投してください!」
「なんだって!?」

ひとまずアドルはラプター隊に攻撃の継続を指示すると、旗艦に向けて急いで向かった。

「別働隊か?でも『グレースの旗艦』と言ったよな。この海域から一隻で抜け出したのか?しかし、なぜ接近に気が付かなかったんだ?陸地からも海上の監視はしているだろうに・・・」

ラプターで旗艦に向けて飛びながらアドルは独り言で自問自答をするが、答えは見つからなかった。
それに敵の旗艦一隻がニューロックの首都であるコーラルに向かったところで、何ができるというのか。
アドルは妙な胸騒ぎを感じながら、旗艦に着艦するとすぐさま艦橋に向かった。



わたしは艦橋にやってきたアドルに、コーラルに敵が迫っていることを告げた。

「アドル!コーラルの警備隊から連絡があったの。グレースの旗艦が突然コーラルの近くの海域に現れたって!」
「ユリ、詳しく教えてくれ」

コーラルの警備隊からの連絡によると、コーラルの沿岸から海上を監視していた時に、不自然な波の動きを見つけたので、大型の海棲魔獣でも泳いでいるのかと思って念のために警戒していたそうだ。
そして、突如、敵の戦艦が現れたのだという。

「もしかして水中船だったのか?」
「そう思ったアキム様も同じ質問をしていたけど、どうも水中船では無さそうなの」

本当に唐突に船影が現れた、というのだ。
わたしにも状況が分からず、これ以上説明できずにいると、アキムが見解を話してくれた。

「敵の旗艦は、最初は間違いなくこちらの戦闘海域にいた。最初から別行動をしていたわけでは無い。そして、もしもこの海域から離脱して単独行動を取ったのであれば、我々は気がついたはずだ」

わたしもそう思う。
見逃すとは思えない。

「ユリよ。これは推測だが、敵は船ごと隠蔽するような魔道具で隠密行動をしたのではないだろうか。もちろん普通なら気がつくだろうが、その時は既に開戦状態で、こちらは正面の戦闘に集中していた。さらに大魔術によって海も荒れていた」

こちらの大技が仇になったのか・・・
それにこちらは上空からの攻撃作戦に注力していて、前方と上ばかり見ていたかもしれない。
結果的に、完全にこちらの裏をかかれてしまったわけか。
策士策に溺れる的な?
なんかくやしい。

アキムの説明に一応納得はいくが、それでも分からないことがある。

「しかし、アキム様。旗艦一隻がコーラルに向かったところで、敵は一体どうする気ですか?」

敵の船一隻がコーラルに着いたところで、どうにもならない気がする。
陸からの攻撃部隊だってちゃんと揃えたし、義勇兵の皆さんもいる。

「それは儂にも分からんが、嫌な予感はある。この海域の戦闘を囮にしてまで旗艦がコーラルに肉薄したのだとしたら。もしも得体の知れない魔道具で何かを企んでいるのだとしたら・・・」

アキムの見解を聞いた私は、全身に寒気が走った。
もしも何が良からぬ事を企んでいるとしたら・・・

「ユリよ。この海域での戦闘はもうアドル達に任せて良かろう。儂とユリは急いでコーラルに戻るとしよう」
「分かりました、アキム様。ラプターで急ぎましょう!アドル、こっちはお願い!」
「ああ、分かった。ユリ達は急いで行ってくれ!」

そしてわたしとアキムは、ラプターの最大速度でコーラルに向かった。
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