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086 ニューロック海戦その一
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王都からニューロックに向けて討伐軍が出征したという連絡を受けた数日後。
海上に配置していたニューロックの偵察部隊から、敵艦隊を発見したとの連絡が入り、カークが幹部全員を謁見の間に招集した。
「敵部隊の主力はグレース領の軍船らしい。グレース太守の旗艦も確認された。グレース領はバルゴの息のかかった領地だからな。そしてどうやらバルゴは親征していないようだ」
なんだ、バルゴは来ていないのか。
火の精霊無しでも楽勝ってか?
それを聞いたニューロックの騎士達も『舐められたもんだな』とか『バルゴは腰抜けか』などと言っている。
「だが気を抜くなよ。グレースは北方の魔獣共と年がら年中戦っている屈強な軍隊だ。決して弱くはない。それにバルゴの信頼も厚い。バルゴから供与されたこちらの知らない兵器で攻撃してくる可能性もある」
もっとも、こちらも向こうが知らない武器をたくさん用意している。
どんな攻撃をされようが、こっちもやってやるまでだ。
「皆、準備は良いな。このまま接近してくれば、半日後には敵はこちらの射程に入るだろう。各員、配置についてくれ」
「さあ、いこう、ユリ」
「うん!」
アドルに鼓舞され、わたしとディーネ、そしてアドルとアキムは港に向かった。
エスカとエリザ、それと騎士達の一部は義勇兵達を指揮するため、町の港の防衛隊詰所に向かった。
コーラル付近の海上防衛をするために軍船に乗る騎士や兵士達も港に集結し、出航準備を始めた。
カークはコーラルの住人に敵襲を知らせ、港町から退避するように通達した。
それぞれの役割に従い、わたし達は敵を迎え撃つ準備を整えた。
わたし達も迎撃部隊の旗艦に乗り込むと、敵の軍船に向け、隊列を組んで出航した。
◇
「フェイム様、敵軍を発見しました。敵船の数は約三十。現在の進行具合ですと、射程まで半刻ほどです」
「よし、全軍に戦闘配備と、砲撃準備を始めさせろ。敵を包囲するように全軍を展開。射程に入ると同時に敵を叩く」
フェイムは部下に命令すると、司令席に深く座った。
フェイムはすでに勝ちを確信していた。
(約三十だと?そんな数でグレース艦隊に勝てるとでも?敵の船を包囲殲滅してから、ニューロックに上陸して制圧してくれるわ)
バルゴ様への報告は制圧完了報告でも良さそうだな、と思ったところで、部下から急報が入った。
「太守!敵艦隊が砲撃を始めました!」
「何?流石にまだ届かないだろう。威嚇か?」
焦って無駄撃ちか、と思ったが、その考えはあっという間に覆された。
「先頭の艦が被弾!次々に砲撃を喰らっています!こちらの射程では敵が遠すぎて届きません!」
「なんだと!?一時後退だ!隊列を下げろ!それと損害の報告だ!」
フェイムはニューロック艦隊の射程がそこまで長いとは思わなかった。
こちらが手を出せないまま損害を出してしまう事は避けたい。
「太守、味方の損害ですが、軽微な損害は多数あるものの、小破五、中破一。中破した艦は当たりどころが悪かったようで、艦底部に穴が開いて浸水。戦列から一旦外れました」
「そうか・・・つまり、届くだけ、ということか」
敵の攻撃で損害は出たものの、威力が低く、軽微なものだった。
ならばやられる前にやってしまえばいい。
「敵の攻撃は軽い。陣形を整えたら全速前進!肉薄して砲撃を叩き込め!こちらの方が数が多い。二隻で一隻を砲撃せよ!」
(戦いは数よ。多少の被弾を覚悟すれば、最後に生き残るのは俺だ)
フェイムの旗艦と護衛艦は最後尾で戦況を見つつ、戦闘部隊に突撃を指示した。
グレースの艦隊は全速力でニューロック艦隊に迫っていった。
多少被弾し、運悪く行動不能になる艦も出たが、ようやくグレースの艦隊もニューロックの艦隊を射程に収めると、ついに砲撃を開始した。
戦火が交差し、艦が爆発、炎上した。
数の暴力に勝るグレースが圧倒する、フェイムはそれを待つだけだった。
しかし、そうはならなかった。
「何故だ!何故こちらの船だけが損害を受けているのだ!」
撃沈されたり行動不能になっている船は全てグレース軍の船だった。
ニューロックの艦隊は軽微な損傷はあるものの、ほぼ無傷と言っていいほど健在だった。
「太守、報告します!敵軍の砲撃はこちらに届いていますが、こちらの砲撃は全く届いていません!」
「何故だ!?こちらも射程内だろうが!」
フェイムは激昂し、艦橋の司令台を握り拳で叩いた。
艦橋に大きな音が響いた。
フェイムの部下はそんなフェイムの様子に怯えながらも、報告を続けた。
「こ、こちらの艦砲射撃は、その、敵艦に届く前に失速して海上に落下したり、方向を逸らされています。逆に敵の砲撃は届く上に距離が近くなったために威力が増しています」
「下手くそが!だったらもっと接近してゼロ距離で打てばいいだろう!何なら体当たりでもしてみせろ!」
「それが・・・敵軍は後退しながら砲撃をしているのですが、こちらの船は何故か最大船速が出せず、一定距離から近づけないのです。潮流がおかしいのです!」
「くそが・・・くそが!」
フェイムは再び司令台に拳を叩きつけた。
もしや水の精霊の仕業だろうか。
海流に小細工をしているとしか思えなかった。
砲撃が届かないのも誤算だった。
一体砲手は何をやっているのか・・・
その時、バルゴから賜り、艦橋に設置した魔道具から青い光が発せられ、魔道具からバルゴの声が聞こえてきた。
『フェイム、戦況はどうか』
フェイムの全身から血の気が引いた。
今すぐ戦線を立て直さなければいけないこの状況で、バルゴと会話している時間は無い。
それどころか、会戦直後から戦況が不利であることをバルゴに報告するなど、フェイムにはできなかった。
(まだ立て直せる・・・まだ立て直せるのだ)
「・・・バルゴ様。たった今、ニューロックの叛徒共との戦端が開きました。負けるとは思いませんが、まずは戦いに集中したく思います。また後ほど連絡いたします」
冷や汗をかきながら、フェイムは魔道具に向かってそう報告した。
『そうか・・・吉報を待つ』
「はっ!」
魔道具から光が消えた。
フェイムは一度深く息を吐き、ひとまずこの場を凌いだ事に安堵したが、すぐに湧きあがった屈辱に耐えつつ、全軍に指示を出した。
「後退せよ!隊列を立て直す!」
グレースの艦隊は、一度突撃を指示した直後に後退の指示を出すことになり、艦隊は混乱と無秩序をきわめた。
隊列を立て直し、安全圏に後退するまでにグレースの艦隊は半数を失い、残りは四十隻ほどになっていた。
◇
「うむ。最初の戦闘はこちらの勝ちだな。うまくいったようだ」
「そうですね、さすがアキム様です!」
「妾もユリも頑張ったのじゃ」
「そうだね、ディーネちゃん。わたし達も頑張った!」
グレース艦隊の攻撃を退けたニューロックの艦隊、その旗艦の艦橋では、最初の交戦の勝利に盛り上がっていた。
わたしとエスカで作った新型銃『ラファルズ』を参考にして改造した艦砲は、従来の艦砲よりも高精度な遠距離攻撃を可能にしていた。
もちろん、ただ届くだけでは大した被害は加えられないが、威力が弱いだけと思わせることには成功したようで、グレース軍はこちらの思惑通りに数の暴力で突撃してきた。
敵の射程にギリギリ入ってしまうが、それと同時にこちらの艦砲が威力的にも十分な射程になった所で、風の精霊が強烈な局地的突風を起こした。
敵の艦砲の威力を向かい風で下げたり逸らしたりすると同時に、追い風となるこちら側は艦砲の威力を上げ、敵艦を次々に破壊していった。
さらにディーネと協力して、海流を制御することで、敵艦の前進を妨げて一定距離を保つように艦隊運用ができたことも大きい。
あまり肉薄されてはいくら突風を吹かせても敵の艦砲にやられてしまう可能性が高かった。
敵と付かず離れずで、こちらに有利な距離で戦えたことが初戦の勝利につながった。
「しかしまだ敵のほうが数は多い。油断はできぬ。第二回戦と行こうか」
「そうですね・・・ディーネちゃん、アドル。やろう!」
「そうじゃな。派手にやろうかの」
「分かった。各艦に準備させるよ」
第二回戦はこちらから仕掛けるつもりだ。
それで懲りたら、出来れば逃げ帰ってくれると助かるなあ・・・
◇
艦隊を下げ、一旦集結したグレースの艦隊は被害状況を確認していた。
約半数の艦隊が損壊し、うち戦闘可能な艦数は四十隻弱となっていた。
「どうしてこうなった・・・くそが!」
フェイムの怒りは未だ収まらなかった。
艦隊の半数を失い、攻める手立ても見つからない。
ニューロックの艦隊など、物量に任せて押し切れるはずだった。
圧倒的な力の差を見せつけて、服従させるはずだった。
それなのに何という有様か。
「フェイム太守、一度この海域を離れて敵艦隊を迂回し、南東方面からニューロックに上陸するのはいかがでしょうか」
「敵を恐れて逃げろというのか!」
「い、いえ、そういうわけでは・・・」
しかしフェイムも分かっていた。
敵艦隊に相対してもまたやられるだけだ。
それに先の戦闘よりも艦の数は少なく、余計に不利な状況だった。
「・・・やむを得ぬ。バルゴ王にお伺いを立てよう」
フェイムにとって苦渋の選択だったが、敵に敗北する事に比べればまだましと思えた。
フェイムは魔道具を起動して、バルゴとの通信を開いた。
「・・・フェイムか。状況はどうだ?」
「はっ・・・それが・・・」
フェイムはバルゴに現在の状況を簡潔に説明した。
「・・・いたずらに艦と兵士を失いました。申し開きのしようもございません」
「そうか・・・ニューロックの叛徒共もそれなりにやるようだな」
「全ては私の不徳の致すところです。ですが、このまま敗北する事だけは私の矜持が許しません。出来ますれば、恥を忍んで、王のお知恵をお借りたいと存じます」
フェイムはそう言うと、バルゴからの叱りも覚悟で、バルゴの言葉を待った。
「・・・そうか、矜持か。分かった。では策を授けよう」
バルゴはフェイムに策を授けると、通信を切った。
フェイムはバルゴから指示された策の有効性に若干の疑問を抱いたが、ひとまず王からの指示に従って動くことにした。
「これより旗艦は単独行動にて戦闘海域を迂回し、ニューロックの首都に向かう。他の艦は敵との戦線を維持し、旗艦行動の陽動を行え!」
海上に配置していたニューロックの偵察部隊から、敵艦隊を発見したとの連絡が入り、カークが幹部全員を謁見の間に招集した。
「敵部隊の主力はグレース領の軍船らしい。グレース太守の旗艦も確認された。グレース領はバルゴの息のかかった領地だからな。そしてどうやらバルゴは親征していないようだ」
なんだ、バルゴは来ていないのか。
火の精霊無しでも楽勝ってか?
それを聞いたニューロックの騎士達も『舐められたもんだな』とか『バルゴは腰抜けか』などと言っている。
「だが気を抜くなよ。グレースは北方の魔獣共と年がら年中戦っている屈強な軍隊だ。決して弱くはない。それにバルゴの信頼も厚い。バルゴから供与されたこちらの知らない兵器で攻撃してくる可能性もある」
もっとも、こちらも向こうが知らない武器をたくさん用意している。
どんな攻撃をされようが、こっちもやってやるまでだ。
「皆、準備は良いな。このまま接近してくれば、半日後には敵はこちらの射程に入るだろう。各員、配置についてくれ」
「さあ、いこう、ユリ」
「うん!」
アドルに鼓舞され、わたしとディーネ、そしてアドルとアキムは港に向かった。
エスカとエリザ、それと騎士達の一部は義勇兵達を指揮するため、町の港の防衛隊詰所に向かった。
コーラル付近の海上防衛をするために軍船に乗る騎士や兵士達も港に集結し、出航準備を始めた。
カークはコーラルの住人に敵襲を知らせ、港町から退避するように通達した。
それぞれの役割に従い、わたし達は敵を迎え撃つ準備を整えた。
わたし達も迎撃部隊の旗艦に乗り込むと、敵の軍船に向け、隊列を組んで出航した。
◇
「フェイム様、敵軍を発見しました。敵船の数は約三十。現在の進行具合ですと、射程まで半刻ほどです」
「よし、全軍に戦闘配備と、砲撃準備を始めさせろ。敵を包囲するように全軍を展開。射程に入ると同時に敵を叩く」
フェイムは部下に命令すると、司令席に深く座った。
フェイムはすでに勝ちを確信していた。
(約三十だと?そんな数でグレース艦隊に勝てるとでも?敵の船を包囲殲滅してから、ニューロックに上陸して制圧してくれるわ)
バルゴ様への報告は制圧完了報告でも良さそうだな、と思ったところで、部下から急報が入った。
「太守!敵艦隊が砲撃を始めました!」
「何?流石にまだ届かないだろう。威嚇か?」
焦って無駄撃ちか、と思ったが、その考えはあっという間に覆された。
「先頭の艦が被弾!次々に砲撃を喰らっています!こちらの射程では敵が遠すぎて届きません!」
「なんだと!?一時後退だ!隊列を下げろ!それと損害の報告だ!」
フェイムはニューロック艦隊の射程がそこまで長いとは思わなかった。
こちらが手を出せないまま損害を出してしまう事は避けたい。
「太守、味方の損害ですが、軽微な損害は多数あるものの、小破五、中破一。中破した艦は当たりどころが悪かったようで、艦底部に穴が開いて浸水。戦列から一旦外れました」
「そうか・・・つまり、届くだけ、ということか」
敵の攻撃で損害は出たものの、威力が低く、軽微なものだった。
ならばやられる前にやってしまえばいい。
「敵の攻撃は軽い。陣形を整えたら全速前進!肉薄して砲撃を叩き込め!こちらの方が数が多い。二隻で一隻を砲撃せよ!」
(戦いは数よ。多少の被弾を覚悟すれば、最後に生き残るのは俺だ)
フェイムの旗艦と護衛艦は最後尾で戦況を見つつ、戦闘部隊に突撃を指示した。
グレースの艦隊は全速力でニューロック艦隊に迫っていった。
多少被弾し、運悪く行動不能になる艦も出たが、ようやくグレースの艦隊もニューロックの艦隊を射程に収めると、ついに砲撃を開始した。
戦火が交差し、艦が爆発、炎上した。
数の暴力に勝るグレースが圧倒する、フェイムはそれを待つだけだった。
しかし、そうはならなかった。
「何故だ!何故こちらの船だけが損害を受けているのだ!」
撃沈されたり行動不能になっている船は全てグレース軍の船だった。
ニューロックの艦隊は軽微な損傷はあるものの、ほぼ無傷と言っていいほど健在だった。
「太守、報告します!敵軍の砲撃はこちらに届いていますが、こちらの砲撃は全く届いていません!」
「何故だ!?こちらも射程内だろうが!」
フェイムは激昂し、艦橋の司令台を握り拳で叩いた。
艦橋に大きな音が響いた。
フェイムの部下はそんなフェイムの様子に怯えながらも、報告を続けた。
「こ、こちらの艦砲射撃は、その、敵艦に届く前に失速して海上に落下したり、方向を逸らされています。逆に敵の砲撃は届く上に距離が近くなったために威力が増しています」
「下手くそが!だったらもっと接近してゼロ距離で打てばいいだろう!何なら体当たりでもしてみせろ!」
「それが・・・敵軍は後退しながら砲撃をしているのですが、こちらの船は何故か最大船速が出せず、一定距離から近づけないのです。潮流がおかしいのです!」
「くそが・・・くそが!」
フェイムは再び司令台に拳を叩きつけた。
もしや水の精霊の仕業だろうか。
海流に小細工をしているとしか思えなかった。
砲撃が届かないのも誤算だった。
一体砲手は何をやっているのか・・・
その時、バルゴから賜り、艦橋に設置した魔道具から青い光が発せられ、魔道具からバルゴの声が聞こえてきた。
『フェイム、戦況はどうか』
フェイムの全身から血の気が引いた。
今すぐ戦線を立て直さなければいけないこの状況で、バルゴと会話している時間は無い。
それどころか、会戦直後から戦況が不利であることをバルゴに報告するなど、フェイムにはできなかった。
(まだ立て直せる・・・まだ立て直せるのだ)
「・・・バルゴ様。たった今、ニューロックの叛徒共との戦端が開きました。負けるとは思いませんが、まずは戦いに集中したく思います。また後ほど連絡いたします」
冷や汗をかきながら、フェイムは魔道具に向かってそう報告した。
『そうか・・・吉報を待つ』
「はっ!」
魔道具から光が消えた。
フェイムは一度深く息を吐き、ひとまずこの場を凌いだ事に安堵したが、すぐに湧きあがった屈辱に耐えつつ、全軍に指示を出した。
「後退せよ!隊列を立て直す!」
グレースの艦隊は、一度突撃を指示した直後に後退の指示を出すことになり、艦隊は混乱と無秩序をきわめた。
隊列を立て直し、安全圏に後退するまでにグレースの艦隊は半数を失い、残りは四十隻ほどになっていた。
◇
「うむ。最初の戦闘はこちらの勝ちだな。うまくいったようだ」
「そうですね、さすがアキム様です!」
「妾もユリも頑張ったのじゃ」
「そうだね、ディーネちゃん。わたし達も頑張った!」
グレース艦隊の攻撃を退けたニューロックの艦隊、その旗艦の艦橋では、最初の交戦の勝利に盛り上がっていた。
わたしとエスカで作った新型銃『ラファルズ』を参考にして改造した艦砲は、従来の艦砲よりも高精度な遠距離攻撃を可能にしていた。
もちろん、ただ届くだけでは大した被害は加えられないが、威力が弱いだけと思わせることには成功したようで、グレース軍はこちらの思惑通りに数の暴力で突撃してきた。
敵の射程にギリギリ入ってしまうが、それと同時にこちらの艦砲が威力的にも十分な射程になった所で、風の精霊が強烈な局地的突風を起こした。
敵の艦砲の威力を向かい風で下げたり逸らしたりすると同時に、追い風となるこちら側は艦砲の威力を上げ、敵艦を次々に破壊していった。
さらにディーネと協力して、海流を制御することで、敵艦の前進を妨げて一定距離を保つように艦隊運用ができたことも大きい。
あまり肉薄されてはいくら突風を吹かせても敵の艦砲にやられてしまう可能性が高かった。
敵と付かず離れずで、こちらに有利な距離で戦えたことが初戦の勝利につながった。
「しかしまだ敵のほうが数は多い。油断はできぬ。第二回戦と行こうか」
「そうですね・・・ディーネちゃん、アドル。やろう!」
「そうじゃな。派手にやろうかの」
「分かった。各艦に準備させるよ」
第二回戦はこちらから仕掛けるつもりだ。
それで懲りたら、出来れば逃げ帰ってくれると助かるなあ・・・
◇
艦隊を下げ、一旦集結したグレースの艦隊は被害状況を確認していた。
約半数の艦隊が損壊し、うち戦闘可能な艦数は四十隻弱となっていた。
「どうしてこうなった・・・くそが!」
フェイムの怒りは未だ収まらなかった。
艦隊の半数を失い、攻める手立ても見つからない。
ニューロックの艦隊など、物量に任せて押し切れるはずだった。
圧倒的な力の差を見せつけて、服従させるはずだった。
それなのに何という有様か。
「フェイム太守、一度この海域を離れて敵艦隊を迂回し、南東方面からニューロックに上陸するのはいかがでしょうか」
「敵を恐れて逃げろというのか!」
「い、いえ、そういうわけでは・・・」
しかしフェイムも分かっていた。
敵艦隊に相対してもまたやられるだけだ。
それに先の戦闘よりも艦の数は少なく、余計に不利な状況だった。
「・・・やむを得ぬ。バルゴ王にお伺いを立てよう」
フェイムにとって苦渋の選択だったが、敵に敗北する事に比べればまだましと思えた。
フェイムは魔道具を起動して、バルゴとの通信を開いた。
「・・・フェイムか。状況はどうだ?」
「はっ・・・それが・・・」
フェイムはバルゴに現在の状況を簡潔に説明した。
「・・・いたずらに艦と兵士を失いました。申し開きのしようもございません」
「そうか・・・ニューロックの叛徒共もそれなりにやるようだな」
「全ては私の不徳の致すところです。ですが、このまま敗北する事だけは私の矜持が許しません。出来ますれば、恥を忍んで、王のお知恵をお借りたいと存じます」
フェイムはそう言うと、バルゴからの叱りも覚悟で、バルゴの言葉を待った。
「・・・そうか、矜持か。分かった。では策を授けよう」
バルゴはフェイムに策を授けると、通信を切った。
フェイムはバルゴから指示された策の有効性に若干の疑問を抱いたが、ひとまず王からの指示に従って動くことにした。
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