ポニーテールの勇者様

相葉和

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065 宿屋での危機

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「ミライ。ちゃんと皆さんの言う事をよく聞いて、みんなからはぐれるんじゃないぞ」
「分かってるの!心配しすぎなの!」

ミライの父、ドルフがニューロックの港で最愛の娘との別れを惜しんでいた。

・・・別れといっても三日程度なんだけどね。

ミライは父の過剰な心配に気恥ずかしくなっているようだ。

「ドルフさん。わたし達がちゃんと見ていますから大丈夫です。それにミライちゃんはとてもしっかりしていますから」
「うむ。妾もついている。心配ご無用じゃ」
「ユリさん、ディーネさん、よろしく頼みます!」

わたし達はカークが用意してくれた船に乗り、ロップヤードに向けて出発した。
ドルフは船から見えなくなるまで、ずっと手を振り続けていた。



「父様、恥ずかしすぎるの。もっと娘を信用してほしいの」
「お父上はいつでも娘が心配なのですよ」

頬を赤く染め、怒り気味のミライをノーラがなだめている。
ミライも本気で怒っている訳ではないのだろうが、だいぶ恥ずかしかったらしい。

わたしはそんな二人の様子を、船の後方のデッキに座って眺めていた。
頬に当たる潮風がとても気持ちいい。
天気もよく、波も穏やかで、航海は順調だった。

カークが用意してくれた船は中型のクルーザーのような船で、かなり高速で走る事ができた。
船長の話によると、ロップヤードまでは、順調であれば半日もかからず着くそうだ。

わたしは、オーストラリアのすぐ北ぐらいに、パプアニューギニアがある事を思い出していた。
そして、パプアニューギニアにはいくつかの島があったはずだ。
どの島に向かっているのかも分からないし、パプアニューギニアまでの距離も知らないが、地球の五分の一から六分の一のサイズのこの星ならば、半日程度で到着するという時間は妥当なのかもしれない。

わたし達はクルージングを楽しみ、夕の鐘が鳴るだいぶ前にはロップヤードに到着した。



「私らはこの港に船を係留して、近くの宿に泊まります。お帰りをお待ちしています」
「ありがとう!よろしくお願いします!」

船長とクルーにしばしの別れを告げ、島の中にある町へと向かった。
今日はそこで一泊して、明日の午前中に件のお爺さんに会う予定だ。

町まではそれほど遠くもなく、夕の鐘が鳴る頃には無事に到着した。



「それにしても、よく考えたら、男一人にあとは女の子が三人なのよね」
「それはオレのせいではないし・・・」

宿についたので、とりあえず部屋を借りなければならない。
アドルは一人部屋、女子チームは三人部屋で考えていたが、三人部屋が無く、四人部屋しかなかった。
そして、一人部屋はちょっと割高だった。

かといって、四人部屋を一部屋だけ借りて、アドルも一緒に同じ部屋で寝るのは、乙女としては遠慮したい。
二人部屋を二つ借りるのがコスパ的にも良いのだが、そうなると誰かがアドルと同室になってしまう。
しばし悩むが、アドルがパンッと手を叩き、話をまとめる。

「そんなところでお金をケチっても仕方がないよ。オレが一人部屋、みんなは四人部屋でいいだろう?」

・・・まあそうよね。
合理性よりも乙女の尊厳が大事ね。

しかし、ここで重大な問題が発生した。

「すみませんお客様。実は、一人部屋も四人部屋も全て埋まってしまいまして」
「なんですとー!」
「お客様が悩んでいる間に、一人部屋と四人部屋は他のお客様に先に借りられてしまいまして。後は二人部屋が二つしか無いのです」
「なんてこった・・・」

小さな町なので、他に宿は無いそうだ。
今から港に戻るのも危ないだろうし、港の宿が空いているとは限らない。
なにより、また悩んだ末に、今空いている部屋も無くなってはたまらない。
結局お金に優しく、合理的な二人部屋を二つ借りる事になった。

夕食をとりながら部屋割りの相談をする事になり、ひとまず食事の時間まで待つ事にする。
今、アドルは一人で二人部屋の片方の部屋に、もう片方の部屋に、わたしとミライ、ディーネがいる。
ノーラは日課のトレーニングをするため、外に出ていた。

「はあ、どうしよう部屋割り・・・」
「ユリお姉ちゃんは、アドルと一緒の部屋はイヤなの?」
「わたしは、その、決してイヤでは無いけど、恥ずかしいと言うか・・・」

その言葉を聞いたミライが、天井に目をやり、何かを考えているようなそぶりを見せた後、わたしの顔を見た。

「ユリお姉ちゃん、アドルが好き?嫌い?」
「え?うん、好きよ。別に嫌いじゃ無いわよ」
「違うの!父様と母様みたいに、結婚したいほど、好きかって聞いてるの!」

ミライちゃんの迫力が凄い。
むしろちゃんと答えないわたしに怒っているように見える。

うう、どうしよう。
真面目に、答えるか・・・
中途半端に誤魔化しても、なんか誤魔化しきれない気がするし。
ミライは妙に鋭いところがあるし・・・

「・・・好きよ、とても。大好き。わたしは、アドルの事が、結婚したいくらいに大好きよ」

わたし自身、初めて言葉にした『好き』に、顔と手がめちゃくちゃ熱くなった。
両手で顔をパタパタして、熱を冷ます。
ディーネも羽根でパタパタしてくれた。

わたしの答えを聞いたミライは、満足そうにわたしに笑顔を向けた。

「うん。分かったの!」
「分かったのはいいけど、絶対に誰にも言っちゃダメよ!絶対よ!」

もちろん芸人の『振り』ではない。
この世界に、そんなお約束を知っている人がいないのは幸いだ。

そして扉がノックされ、宿の人に夕食の準備ができたことを告げられた。



トレーニング中のノーラにも声をかけて戻ってきてもらい、みんなで夕食を食べながら部屋割りについての相談を始めた。
アドルから無難な提案が出された。

「オレとミライで同室にしよう。子供だし、そんなに気を使う事もないから。悪い意味じゃないぞ?」
「分かってるわよ。ミライちゃん、それでいいかな?」
「イヤです」
「えっ?」

ミライに断固拒否された。

「父様に、男の人と二人きりになるのは絶対ダメだと言われてミライは育ちました。父様の言葉は絶対です。断固拒否します」
「えーと、じゃあ、どうすれば・・・」

ミライがダメとなると、ノーラかわたししかいない。

「あ、私は無理ですよ。アドル殿と同室になるぐらいでしたら野宿します」
「カークさんの娘さんにそんなことさせられる訳がないだろう・・・」

アドルが頭を抱える。
そこに、ミライが元気よく提案をしてきた。

「仕方ないので、ユリお姉ちゃんがアドルと同じ部屋になってください!ミライはノーラお姉ちゃんと一緒のお部屋がいいです!魔獣が来ても安心なので!」
「ミライ殿。お任せください。私が夜もお守りいたします」

ミライの指名にノーラが俄然やる気を出した。
ミライもノーラもお互い譲らない姿勢だ。

・・・ミライちゃん、謀ったわね。
先のわたしとの会話のせいに違いない。

かくして、わたしとアドルで同室になった。
まあ、ディーネちゃんもいるから大丈夫だろう。たぶん。



夕食を食べ終えて、お風呂をいただき、お風呂ではノーラさんの巨乳に圧倒されつつ、わたしとディーネはアドルと同室となる二人部屋に戻ってきた。
既にわたしは緊張している・・・

アドルは自分のベットの上で明日の準備をしていた。

「明日は変わった爺さんに会いに行く訳だからね。まさかとは思うけど、いきなり攻撃された時のための準備だけはしておこうと思って」
「そうなんだー」
「それと、胃薬と、二日酔いの薬をね」
「ふーん」

よし、まずは普通に会話できた!
あんまり内容が頭に入ってこなかったけど。

わたしは、自分の寝るベッドに腰掛ける。

・・・まずい、ベッドに座ったらドキドキしてきた。

(落ち着け。ただ寝るだけ。ただ横で寝るだけなのよ。だから落ち着きなさい。そうだ、先に寝ちゃう?でもそれってなんか誘ってる感じに思われない?寝顔を見られるのもちょっとアレだし、もしも寝込みを襲われたりしたら、イヤイヤ、アドルがそんなことをするはずないけど、健全な男の子だし、ありえないなんてことはありえないって、鋼の人も言っ)

「ユリ」
「ふぁい!?」

考え中に声をかけられ、わたしは素っ頓狂な声を出した。

「すぐ戻るから、ちょっと部屋にいてくれるかい?留守番をしててほしいんだ」
「うん、わかった」

そう言うと、アドルは部屋を出て行った。
わたしは両手で顔を押さえ、唸った。

「うををを、緊張したあ・・・」
「寝る前から何を緊張しておるのだ」
「だって、ディーネちゃん、アドルと二人きりで夜を明かすんだよ?」
「ユリよ。人の営みは種の繁栄に必要じゃ。妾に気を使う必要はないぞ」
「ちょっ!ディーネちゃん!?」

その時、扉がノックされ、わたしの返事を待たずに扉が勢いよく開けられた。

「ディーネちゃんがいないと寝られないのです!」
「ミライちゃん!?」
「そんなわけでディーネちゃんを借ります。ありがとうございます。ではおやすみなさい」

嵐のようにミライがやってきて、ディーネを引きずり、連れて行ってしまったでござる・・・

いやいや、今までディーネちゃんとミライちゃんが一緒に寝たことなんてほとんどないよね?
なんで今日だけ急に!?

「今のはなんだ?ディーネがミライに攫われたように見えたけど」

入れ替わるようにアドルが何かを抱えて戻ってきた。
そして扉に鍵をかける。

・・・ミライちゃんに完全にしてやられた!
ミライちゃん、将来、物凄い軍師になるんじゃないかな?
いやいや、今はそんなことはどうでもいい。

ディーネもいなくなってしまった今、正真正銘の二人きりだ。
しかも鍵かけたよね!?
逃げ場もないじゃん!

観念するしかないか・・・
でも、それも悪くない、かも・・・

「ユリ、飲まないか?宿の人から買ってきた。この島のビアはかなり旨いらしいぞ」

アドルが持ってきたのは、この島特産のビアの瓶だった。
かなり数が多い。
わたしでも飲み切れるかどうか怪しい。

「オレはあんまり酒に強くないけど、ユリはビアが好きで、おまけにものすごく酒に強いんだろう?オレが酔い潰れるまで、付き合ってよ」

わたしの目が点になる。

今から飲むの?二人で?
そりゃビアは好きだけどね。
アドルが弱いのも知ってるし。
だからといって無理して飲まなくても・・・
ああっ!

・・・さっきの会話。
胃薬と二日酔いの薬ってそういう事・・・

アドルの提案は、つまり『一緒に酒を飲んで、アドルが先に酔い潰れて寝るから、わたしは安心して寝ろ』って事だ。

・・・まったく、アドルは。
本当に優しいんだから。
気を遣いすぎなのよ。
きっといっぱい考えて、この自滅作戦を立てたんだろうね。
そういうところが、たぶん、その・・・好きなんだと思うわ。

・・・ありがとう。

わたしはアドルに感謝と、素直な気持ちを心の中だけで伝え、アドルに挑戦的な笑顔を向けた。

「いいわよ、アドル。受けて立つわ。大いに飲みましょう!」



翌日。
昨夜見事に酔い潰れ、まだ起きてこないアドルを部屋に残したまま、わたしは荷物を持って女子部屋に移動した。

女子部屋に来たわたしに、ミライが頭をかしげながら、わたしに言った。

「えーとディーネちゃん、なんて言うんだっけ?あ、思い出したの。『おはようございます。ゆうべはおたのしみでしたね!』」
「ディーネ、そこに座りなさい。正座で」
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