ポニーテールの勇者様

相葉和

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045 魔道具の作り方

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エスカと一緒に昼食をとりながら、午前中の作業の話をする。

「エスカさん、魔石の精製をしてて気がついたことがあるのですけど、わたし、最初のうちはうまく雑多な魔力を飛ばせなくて。魔石にわたしの魔力も入り込んでしまったのですよ」
「そりゃ、魔力が豊富な人の贅沢な悩みだわね」

手を止めてエスカが答える。

「魔石を無理やり違う属性の魔力で染め上げようとすれば、できないことはないのよ。ただ、普通は、違う属性の魔石を使って、その属性の魔力を移し替える感じね。ものすごい魔力が必要だし、押し込む力も必要ね」
「はあ、なるほど」
「魔石には基本的に、精霊様のお力で最初から何かしらの属性の魔力が宿ってるの。魔石にとってはその状態が普通とされている。あたしらはなるべくその自然な状態で魔石を扱う。わざわざ染め変えたりはしないんだ」
「では、例えば、どうしても必要な属性の魔石がない場合はどうするのですか?」
「お金で解決するか、自分で掘りあてるのが普通ね」

わたしが自分の魔力で少し魔石を染めてしまった時に思ったのだ。
精霊の力を込めれば自分で好きな属性の魔石を作れるのではと。
もっともわたしは水の精霊の魔力しか持っていないので、水の属性の魔石を量産する以外の事は出来ないけど。

エスカが目を天井に泳がせている。
何か思案しているのだろうか。
そして、ふと、わたしの顔を見る。

「ユリは特殊だから忘れているか、単に知らないだけかもしれないけど、あたしらの持ってる魔力は、基本的に属性なんてないのよ?」
「えっ!?」

でも言われてみればそうだ。
魔道具に魔力を流す時に、自分の属性なんて気にしない。
魔道具自体には、属性を持った魔石を並べて構築した魔石回路がある。
そこに起動のために必要な魔力を流すだけ。
わたしは基本的な事に思い至らなかった。

「ユリよ。人の魔力はほぼ無属性じゃ。時折、属性が色濃く出る者もおるが、基本的には無属性と言って良いほど、薄いのじゃ」
「そうなんだね・・・」

だから魔石で魔道具を作ってそれを媒体にし、人の持つ無属性の魔力を多目的に使えるようにするのか。

電力を機械に流して、明かりや熱や動力に変える事と似たようなものだと思うと、ものすごく腑に落ちた。

その明かりや熱をいきなり生み出せるようなわたしのほうが、この世界では異端だということだ。
そもそも異世界人の時点で異端なんだけどね。

「さて、ユリ。午後はどうしようか。魔石の精製が予定より早く終わっちゃったし、発掘に行く?それとも魔石回路でも作る?」
「魔石回路、やりたいです!」

この世界に召喚された日からずっと気になっていた魔石回路だ。
肉体労働よりも、こっちの方がずっと興味がある。
午後は念願の魔石回路の実践学習をする事となった。



「まず、魔石回路の基本からね」
「はい、先生。よろしくお願いします」

昼食を終えて作業小屋に戻ると、早速エスカが、謎の紙と、緑と赤の魔石を作業台の上に持ってきた。

「緑の石は風の精霊様の力、赤の魔石には火の精霊様の力が宿ってる」

ふむ。とてもオーソドックスな話だ。
ファンタジックな話にありがちな要素なので、すぐに覚えられる。

「この紙に書いてあるのは魔法陣で、魔石のどの効果を使うかを示すもの。今は内容を理解しなくていいけど、今回は風の魔石から、動力を取り出すための魔法陣を用意した」

そう言って、緑の魔石を魔法陣で包む。

「火の魔石からは熱を取り出すための魔法陣を使う。同じように包んで、並べる」

魔法陣に包まれた魔石が二つ、机に並んだ。

「今は分かりやすく魔法陣を分けたけど、ひとつの紙に魔法陣を重ね書きしても大丈夫。そうするとまとめて包む事ができるの。単純な機能なら、まとめた方がすっきりするしね」

そう説明しながら、片方に蓋のついた筒を取り出し、包んだ魔石を筒に入れて蓋をしめる。

「中の魔石が落ちないようにして、蓋側から魔力を流してごらん」

筒を受け取り、蓋側から魔力を流す。
すると、反対側の口から、温かい風が出てきた。
まるでドライヤーみたいだ。

「これで魔石回路を使って作った、温風を出す魔道具の出来上がり。簡単でしょ?」
「え?ええっ?」

簡単というか、単純というか。
あっけなく作れた事に驚いた。

「これは分かりやすくするために、ものすごく大雑把に作っただけよ。本気で作る時はもっと小型化したり、安全性を考えたり、意匠を凝らしたりするからね」

原理的には、わたしが流した魔力で火の魔石が活性化して熱を起こし、それを風の魔石が吹き飛ばす事で筒から温かい風が出てきた。
そういう事だ。
エスカさんの分かりやすい説明で原理が理解できた。

しかしそう考えると、わたしの持っているこの『言語理解の魔道具』って、スーパーレア級な物なんじゃない?
どう作ればいいのか、アプローチすら思い浮かばない。
初歩を理解したばかりの素人だから当然だろうけど。

物理学で重力加速度を習ったばっかりの子が、特殊相対性理論をすぐに理解しようとしたって無理な話だ。

「それでね。今、あたしは、ユリの先日の言葉を参考に、『ファルズ』の改良をしてるの。改良の目処が立ったら量産よ」

エスカが腰にぶら下げている銃のような物を取り出した。
見覚えがあるそれは、先日、魔獣ブルクロスの討伐に使った銃だ。ファルズという名前だったのか。

「いろいろ試してみて、ダメだったら現行のもので量産するけど、ユリにも時間ができたしね。アタシが考えた魔石回路を組むのを手伝って欲しいんだ」

魔石回路を組むのを手伝いながら、わたしの疑問や質問にも答えてくれるらしい。
なんて素敵な先生だ。

早速、指示に従い、魔石回路を作る。
試作なので少し大きめに、大雑把で良いと言われたが、わたしも凝り性なので、余計な時間をかけない程度には丁寧に作る。
ディーネも興味があるのか、わたしの隣で作業台の上を覗き込んでいる。
かわいい。癒される。
昔、会社で忙しく仕事をしている時に、ハシビロコウの写真を見て一息ついていた頃を思い出す。

わたしは指示通りに魔石回路を作り、疑問に思った事を聞きながら、せっせと作業を進めていった。



「おーい、ユリ、エスカ、晩飯だぞ!」
「えっ?」
「えっ?」
「え、じゃないって。とっくに夕の鐘は鳴ったよ」

アドルが小屋に迎えに来ていた。
夕の鐘の音なんて聞こえなかった。

「ごめん、小屋の中にいたから鐘の音が聞こえなかったみたい。呼びに来てくれてありがとう」
「聞こえないわけないだろう。小屋の中にも鐘の音を流す魔道具があるんだから」

アドルがスピーカーのようなものを指さす。これも魔道具の一種だろう。
そういえば昼には鳴っていたような気がする。

「あら、そうなの?気がつかなかったわ。ほほほ・・・」
「集中してたらあたしは何も聞こえなくなる。アドルは知ってるだろ?」
「まるでエスカが二人になったみたいだな」

アドルはため息をついて、わたし達に今日の仕事を切り上げて、夕食に来るよう促した。



「で、採掘の方は順調なの?」
「まあ、順調ではあるけどね。少し偏ってる」

アドル達と同じテーブルに座り、双方の情報交換をする。

「火と土の魔石の採掘量だけは多いんだよ。悪いことではないんだけど、他が少ない。特に光と闇の魔石があまり採れていない。水の魔石も少ないかな」
「それは妾のせいじゃな。すまない」
「あ、いや、そういうつもりで言ったんじゃないんだ。オレこそすまない」
「いいんじゃよ。事実じゃ」

水の精霊が結界に引きこもっていた期間は、この星への水の精霊力の供給が完全に途絶えていた。
その影響と思われる事らしい。

「元はと言えばバルゴのせいなんだ。早くなんとかしなくちゃいけない」

周りに聞こえないほどの小さな声でアドルが呟く。

「ねえ、光と闇の魔石が少ない理由は何か見当がついてるの?」
「予測でしかないけど、光と闇の精霊も、どこかで結界でも張って隠れているんじゃないかな」

元々、光と闇の魔石は産出量が少ない部類らしい。ただし用途も特殊なので、一般には大量に使わないそうだ。

闇はよくわからないけど、光の魔石って、感覚的には明るそうなイメージなので、ライトに使ったりするのではないのだろうか。

「光の魔石って明かりに使うんじゃないの?ほら、この宿の明かりにしても、光の魔石を使ってたりしない?」
「もちろん明かりにも使えるけど、火の魔石と土の魔石でも明かりの魔道具は作れるんだ」
「ふーん、そうなのね」

光の魔石を使うよりもその方が安上がりらしい。
そのため、一般家庭では火の魔石と土の魔石を使った魔道具のほうが普及しているそうだ。
魔道具、奥が深い。

ちなみに、『姿隠しの魔道具』には闇の魔石を使うらしい。
それはなんとなくそんな気がする。

「で、エスカ達はどうなんだ?準備は進んでる?」
「進みまくってるわよ。なんなら今日採掘した魔石、全部持ってきていいわよ。すぐに精製するから」
「すぐにって。まだ持ち込んだやつが残ってるだろ?」

これぐらいの量があったはずだ、と、アドルが問いただす。
そんなに捌けるはずがない、持ち込んだ魔石を見落としてないか、とまで言われる。

「その量であってるわよ。それ、ユリが午前中に全部片付けちゃったのよ」
「なっ!?」

話を聞いていた全員がどよめいた。 

「ふふん、すごいでしょ」

わたしは胸を張って、褒めなさいアピールをする。

「ユリ・・・やっぱり君は見た目以上に・・・」
「いい加減、その言い方はやめてちょうだい!」

初めて出会った時からその言い方をされてきた。
見た目って何よ!どこみて言ってるの?
まさか胸じゃあるまいな?

その後、アドルの弁明によると、小さい頃から親に「お前は見た目以上に賢いな」といった褒め方をされていて、普通に褒める時の冠言葉だと思っている節があったらしい。
知らんわ!
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