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042 事情聴取と戦い再び
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前日の騒動が明けて三日目の朝。
今日も予定通りに出発・・・とはいかなかった。
改めて、自警団の方々に事情聴取をされることになってしまった。
自警団が昨夜の男達を自警団の詰所に連行して、上役の人に事の顛末を話してみたものの、上役の人はすんなりとは信用してくれなかったらしい。
ふたたび自警団の方々が宿に訪れ、わたし達に状況を説明してくれた。
本当にわたしの細腕で五人の男達を倒せたのか、そこが問題なのだそうだ。
もしも町の人たちが口裏を合わせて、寄ってたかって男達をしばいたのなら、それは私刑となり、町の人たちがしょっぴかれる可能性があるそうだ。
面倒くさい話だ。
「ユリ、いっそやっちゃえば?その自警団の人」
「いやいや、それはちょっと・・・」
エスカが乱暴な物言いをする。
さて、どうしたものか。
「どうしたらわたしが一人で対処したと証明できるでしょうか?自警団の皆様が納得できる方法があればいいのですが」
「それなんだが・・・ちょうど今この町にお嬢、じゃない、ノーラさんが修行を兼ねた魔獣退治の仕事で来ていてね。そのノーラさんと手合わせをして欲しいんだ」
「はあ。手合わせですか・・・」
ノーラという方は格闘の達人で、この領地では一、二を争う実力者らしい。
その人と手合わせをして、わたしの実力を測りたいそうだ。
それにしても、一人で魔獣退治ができる人と戦えと?
怖い人ではなければいいけど・・・
「ノーラさんはとても強い。だから手加減はしてもらうので、君には全力で立ち向かってほしい。怪我をしたら責任を持って治療するから」
「全力、ですか・・・」
「ユリよ、分かってると思うのじゃが・・・」
「そうね。上手いことやるわ。本当に強いかも知れないし」
ノーラは今、自警団の詰所にいるそうなので、わたし達はそこまで出向くことになった。
わたしだけが詰所に行って帰ってくるのを待つのは時間がもったいないので、全員で詰所に行くことになった。
用事が無事に済んだらそのままドルッケンに向かえばいいが、わたしのせいで皆に余計な足止めを食らわせてしまって申し訳ない気持ちだ。
なるべく早くご理解いただけるように頑張ろう。
◇
自警団の詰所に着き、そのまま自警団の訓練場に案内された。
ここでノーラと対戦することになる。
「ここが訓練場ですか?何もないんですねえ」
訓練場と言っても、ただ広いだけの空き地のような場所だった。
周囲には柵が張ってあるが、柵の内側は薄く雑草が生えているだけで、固い地面がほとんど剥き出しになっている。
屋根はなく、青天井だ。
やがて、奥から一人の女性が歩いてこちらにやってきた。
「あなたがユリさんね。待っていたわ。女の子だと聞いて興味が湧いたの」
紫の長い髪を三つ編みにし、動きやすそうな長袖長ズボンの運動着のようなものを着た女性が訓練場にやってきた。
この人がノーラだろう。
長身でスラっとしており、美人だ。
そのくせ巨乳だ。
非常に納得がいかない。
「武器は使わないのですってね。使ってもいいけど、どうする?」
「いえ、ノーラさんと同じ条件で構いません」
「そう。自警団から聞いていると思うけど、私はあなたの実力を測って、昨夜起きた事件が報告通りに本当かどうかを見極める。でも本当は、私はあなたの強さが見たいだけなの。私をガッカリさせないでね」
「・・・」
ただの格闘馬鹿ですか。
あんまり痛い目をみるのも嫌だけど、そこそこ善戦した雰囲気で負けようかしら。
勝つのが必要条件ではないしね。
一度、ポニーテールを締め直し、軽くストレッチをしてから、訓練場の中心付近でノーラに向き合う。
「では、ユリさん。始めましょう。かかってきなさい」
「いえ、わたしは受けて反撃するスタイルです。昨日もそうでした。ですからどうぞ攻撃してきてください」
わたしは水の防御を展開する。
通常防御だけにして、魔力による反発防御は無しで防御を展開した。
そして、 昨日と同じく虚式で構え、相手の出方を伺う。
「あら、そう」
フッとノーラの姿が消えた。
どこ?横!?
チラッと影が見えた方をガードする。
ガッと腕に攻撃を受けた感触が残る。
回し蹴りだろうか。
とりあえず足による攻撃を受け止めていた。
受け止めるのが精一杯だった。
その場を飛び退き、ノーラを見るが、既にノーラの姿は消えていた。
「遅いわね」
今度は後ろ!?
振り向き様に腕を交差してブロックできたが、今度は殴られたのか蹴られたのかすらもわからない。
転がるようにしてその場から離脱する。
ノーラが三メートルほど離れた所に立って、こちらを見ている。
・・・わざと声をかけて居場所を知らせてくれた?
余裕って事かな。
まあ、わたしの実力を見たいって話だから、わざと声をかけてくれたのかもしれない。
舐められたものだわ。
「ユリさん、打たれ強さはあるようね。でもそれだけじゃ闘えないわよ」
・・・やるしかないか。
水の防御を、反射防御に切り替えて構える。
目は逸らさない。後の先だ。
体制を崩した所に一発叩き込んでやる。
ノーラは真っ直ぐに突っ込んできて、急停止し、素早い蹴りを繰り出してきた。
それを腕で受け、魔力で跳ね返す。
「なっ!」
予想外の反撃にノーラの体制が崩れた。
チャンス到来だ。
魔力による衝撃を叩き込むために、わたしはノーラの体に手を伸ばす。
触れればわたしの勝ちだ。
しかしノーラは弾き飛ばされた足の方向に体を捻るとそのまま距離を取り、素早く体勢を整えた。
・・・触ることができない。
これが本当の格闘の達人か。
エセ格闘家のわたしとは大違いだね。
素人のわたしの攻撃では、全部さばかれるか、かわされる気がする。
いっそ、なんとかして捕まえることができれば・・・
そして、ふと、一つ、試してみたい技を思いついた。
ノーラ相手に使うにはひどい技だから、やるのは気がすすまないけど。
とはいえ、これ以上試合に時間がかかってしまっては、出発できない皆にも迷惑がかかってしまう。
・・・やってみよう。
まずは、準備だ。
わたしは魔力反射の防御をやめ、通常防御に切り替えた。
そして、追い詰められるフリをして柵の角まで後退する。
今のわたしは、逃げ場がない状態だ。
しかし、攻撃方向を正面に絞る事は出来る。
ノーラの攻撃をガードしてひたすら耐える。
まあ水の防御のおかげで痛くはないんだけど。
そして、顔面を狙うストレートだけをひたすら待つ。
ちょっと隙を見せたりしてパンチを誘い、ストレートがくる事を信じて、待つ。
そしてついに待望の右ストレートが来た。
失敗はできない。
瞬きするな!
当たっても痛くない!
集中しろ!
・・・今だ!
ノーラの拳が顔面にヒットした。
しかし、わたしは、顔面にヒットした拳に、角度をつけた魔力反射を発動していた。
顔面を捕らえたと思ったノーラの右腕が、予想外の方向に力を加えられ、わたしの顔の右側に向けて滑っていく。
その勢いで、ノーラの体はわたしに接近してくる。
ノーラが腕と体を引いて体勢を立て直そうとするが、立て直される前に、わたしがやる事はひとつ。
後ろ側の足に魔力を込め、地面を強く蹴る。
そしてその勢いで一気に前に飛び出す。
本来の震脚の使い方に近い手法だ。
突然、ものすごい勢いで肉薄してきたわたしに対して、ノーラは反射的に顔面をガードした。
むしろ都合が良い。
わたしは頭を下げ、少し低い体勢でノーラにタックルし、両手でガシッとノーラの胴にしがみついた。
全てはこの瞬間のためだけにタイミングを計っていた。
ノーラの胴を両腕で抱きしめたわたしは、そのまま両腕に魔力を集中して、力を込めていく。
つまるところ、プロレス技のベアハッグだ。
焦ったノーラが、わたしの後頭部や背中を殴りつける。
全身防御を展開しているわたしは、ノーラの攻撃などお構い無しだ。
わたしは両腕に込める魔力を増やしていき、ノーラの胴の内側へと圧をかける。
そしてノーラの背骨を、肋骨を、腹を圧迫し、呼吸を阻害する。
そしてノーラの動きは徐々に鈍くなり、ついには気絶し、動かなくなった。
「わたしの、勝ね」
わたしは息を切らしながら、勝利宣言をした。
顔面を殴られようが、全身を蹴られようが、水の魔力による全身防御で耐えられるわたしだからこそ出来る攻撃だった。
そして、魔道具無しで様々な魔術の攻撃ができるわたしだからこそ出来る技だった。
・・・しかしひどい技だった。
美人の巨乳に顔を埋めて力を込めるなんて、屈辱でしかないよ・・・
今日も予定通りに出発・・・とはいかなかった。
改めて、自警団の方々に事情聴取をされることになってしまった。
自警団が昨夜の男達を自警団の詰所に連行して、上役の人に事の顛末を話してみたものの、上役の人はすんなりとは信用してくれなかったらしい。
ふたたび自警団の方々が宿に訪れ、わたし達に状況を説明してくれた。
本当にわたしの細腕で五人の男達を倒せたのか、そこが問題なのだそうだ。
もしも町の人たちが口裏を合わせて、寄ってたかって男達をしばいたのなら、それは私刑となり、町の人たちがしょっぴかれる可能性があるそうだ。
面倒くさい話だ。
「ユリ、いっそやっちゃえば?その自警団の人」
「いやいや、それはちょっと・・・」
エスカが乱暴な物言いをする。
さて、どうしたものか。
「どうしたらわたしが一人で対処したと証明できるでしょうか?自警団の皆様が納得できる方法があればいいのですが」
「それなんだが・・・ちょうど今この町にお嬢、じゃない、ノーラさんが修行を兼ねた魔獣退治の仕事で来ていてね。そのノーラさんと手合わせをして欲しいんだ」
「はあ。手合わせですか・・・」
ノーラという方は格闘の達人で、この領地では一、二を争う実力者らしい。
その人と手合わせをして、わたしの実力を測りたいそうだ。
それにしても、一人で魔獣退治ができる人と戦えと?
怖い人ではなければいいけど・・・
「ノーラさんはとても強い。だから手加減はしてもらうので、君には全力で立ち向かってほしい。怪我をしたら責任を持って治療するから」
「全力、ですか・・・」
「ユリよ、分かってると思うのじゃが・・・」
「そうね。上手いことやるわ。本当に強いかも知れないし」
ノーラは今、自警団の詰所にいるそうなので、わたし達はそこまで出向くことになった。
わたしだけが詰所に行って帰ってくるのを待つのは時間がもったいないので、全員で詰所に行くことになった。
用事が無事に済んだらそのままドルッケンに向かえばいいが、わたしのせいで皆に余計な足止めを食らわせてしまって申し訳ない気持ちだ。
なるべく早くご理解いただけるように頑張ろう。
◇
自警団の詰所に着き、そのまま自警団の訓練場に案内された。
ここでノーラと対戦することになる。
「ここが訓練場ですか?何もないんですねえ」
訓練場と言っても、ただ広いだけの空き地のような場所だった。
周囲には柵が張ってあるが、柵の内側は薄く雑草が生えているだけで、固い地面がほとんど剥き出しになっている。
屋根はなく、青天井だ。
やがて、奥から一人の女性が歩いてこちらにやってきた。
「あなたがユリさんね。待っていたわ。女の子だと聞いて興味が湧いたの」
紫の長い髪を三つ編みにし、動きやすそうな長袖長ズボンの運動着のようなものを着た女性が訓練場にやってきた。
この人がノーラだろう。
長身でスラっとしており、美人だ。
そのくせ巨乳だ。
非常に納得がいかない。
「武器は使わないのですってね。使ってもいいけど、どうする?」
「いえ、ノーラさんと同じ条件で構いません」
「そう。自警団から聞いていると思うけど、私はあなたの実力を測って、昨夜起きた事件が報告通りに本当かどうかを見極める。でも本当は、私はあなたの強さが見たいだけなの。私をガッカリさせないでね」
「・・・」
ただの格闘馬鹿ですか。
あんまり痛い目をみるのも嫌だけど、そこそこ善戦した雰囲気で負けようかしら。
勝つのが必要条件ではないしね。
一度、ポニーテールを締め直し、軽くストレッチをしてから、訓練場の中心付近でノーラに向き合う。
「では、ユリさん。始めましょう。かかってきなさい」
「いえ、わたしは受けて反撃するスタイルです。昨日もそうでした。ですからどうぞ攻撃してきてください」
わたしは水の防御を展開する。
通常防御だけにして、魔力による反発防御は無しで防御を展開した。
そして、 昨日と同じく虚式で構え、相手の出方を伺う。
「あら、そう」
フッとノーラの姿が消えた。
どこ?横!?
チラッと影が見えた方をガードする。
ガッと腕に攻撃を受けた感触が残る。
回し蹴りだろうか。
とりあえず足による攻撃を受け止めていた。
受け止めるのが精一杯だった。
その場を飛び退き、ノーラを見るが、既にノーラの姿は消えていた。
「遅いわね」
今度は後ろ!?
振り向き様に腕を交差してブロックできたが、今度は殴られたのか蹴られたのかすらもわからない。
転がるようにしてその場から離脱する。
ノーラが三メートルほど離れた所に立って、こちらを見ている。
・・・わざと声をかけて居場所を知らせてくれた?
余裕って事かな。
まあ、わたしの実力を見たいって話だから、わざと声をかけてくれたのかもしれない。
舐められたものだわ。
「ユリさん、打たれ強さはあるようね。でもそれだけじゃ闘えないわよ」
・・・やるしかないか。
水の防御を、反射防御に切り替えて構える。
目は逸らさない。後の先だ。
体制を崩した所に一発叩き込んでやる。
ノーラは真っ直ぐに突っ込んできて、急停止し、素早い蹴りを繰り出してきた。
それを腕で受け、魔力で跳ね返す。
「なっ!」
予想外の反撃にノーラの体制が崩れた。
チャンス到来だ。
魔力による衝撃を叩き込むために、わたしはノーラの体に手を伸ばす。
触れればわたしの勝ちだ。
しかしノーラは弾き飛ばされた足の方向に体を捻るとそのまま距離を取り、素早く体勢を整えた。
・・・触ることができない。
これが本当の格闘の達人か。
エセ格闘家のわたしとは大違いだね。
素人のわたしの攻撃では、全部さばかれるか、かわされる気がする。
いっそ、なんとかして捕まえることができれば・・・
そして、ふと、一つ、試してみたい技を思いついた。
ノーラ相手に使うにはひどい技だから、やるのは気がすすまないけど。
とはいえ、これ以上試合に時間がかかってしまっては、出発できない皆にも迷惑がかかってしまう。
・・・やってみよう。
まずは、準備だ。
わたしは魔力反射の防御をやめ、通常防御に切り替えた。
そして、追い詰められるフリをして柵の角まで後退する。
今のわたしは、逃げ場がない状態だ。
しかし、攻撃方向を正面に絞る事は出来る。
ノーラの攻撃をガードしてひたすら耐える。
まあ水の防御のおかげで痛くはないんだけど。
そして、顔面を狙うストレートだけをひたすら待つ。
ちょっと隙を見せたりしてパンチを誘い、ストレートがくる事を信じて、待つ。
そしてついに待望の右ストレートが来た。
失敗はできない。
瞬きするな!
当たっても痛くない!
集中しろ!
・・・今だ!
ノーラの拳が顔面にヒットした。
しかし、わたしは、顔面にヒットした拳に、角度をつけた魔力反射を発動していた。
顔面を捕らえたと思ったノーラの右腕が、予想外の方向に力を加えられ、わたしの顔の右側に向けて滑っていく。
その勢いで、ノーラの体はわたしに接近してくる。
ノーラが腕と体を引いて体勢を立て直そうとするが、立て直される前に、わたしがやる事はひとつ。
後ろ側の足に魔力を込め、地面を強く蹴る。
そしてその勢いで一気に前に飛び出す。
本来の震脚の使い方に近い手法だ。
突然、ものすごい勢いで肉薄してきたわたしに対して、ノーラは反射的に顔面をガードした。
むしろ都合が良い。
わたしは頭を下げ、少し低い体勢でノーラにタックルし、両手でガシッとノーラの胴にしがみついた。
全てはこの瞬間のためだけにタイミングを計っていた。
ノーラの胴を両腕で抱きしめたわたしは、そのまま両腕に魔力を集中して、力を込めていく。
つまるところ、プロレス技のベアハッグだ。
焦ったノーラが、わたしの後頭部や背中を殴りつける。
全身防御を展開しているわたしは、ノーラの攻撃などお構い無しだ。
わたしは両腕に込める魔力を増やしていき、ノーラの胴の内側へと圧をかける。
そしてノーラの背骨を、肋骨を、腹を圧迫し、呼吸を阻害する。
そしてノーラの動きは徐々に鈍くなり、ついには気絶し、動かなくなった。
「わたしの、勝ね」
わたしは息を切らしながら、勝利宣言をした。
顔面を殴られようが、全身を蹴られようが、水の魔力による全身防御で耐えられるわたしだからこそ出来る攻撃だった。
そして、魔道具無しで様々な魔術の攻撃ができるわたしだからこそ出来る技だった。
・・・しかしひどい技だった。
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