ポニーテールの勇者様

相葉和

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037 世界地図

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エスカとルルが船に合流し、ここからは一路、ニューロックを目指して船を進める事になった。

当初の予定では動力の魔力補給の為に、途中でもう一箇所寄港するつもりだったらしいが、燃料問題が解決したおかげで、寄る必要が無くなったらしい。

今日の魔力練習を終えたわたしとミライとディーネは、エスカに借りた練習用の魔石を返しに、エスカの部屋に来ていた。

エスカはあてがわれた部屋を研究室がわりにして、早速何やら作り始めていた。
ルルも助手として楽しそうに働いているようでなによりだ。

わたし達が来たのでエスカは作業の手を止め、一息つくことにして、皆でお茶を飲みながら休憩する事にした。
ライラ島でのゴロツキ達の話から談笑が始まった。

「あんなゴロツキ連中に武器を作ってやるほど、あたしの腕は安くないのよ」
「じゃあなんで引き受けて、前金を受け取ったんですか?」
「引き受けたなんてあたしは一言も言わなかったよ。あいつらが勝手にお金を置いて行ったんだ」

・・・もしかしてそのまま持ち逃げする気だったとか?
いや、まさかね。
なお、前金については帰り際に返却済みである。

「ユリ達がライラ島に来るのがあと一日早ければ、丸儲けだったのにね」

持ち逃げする気だったよ!

イタズラっぽく笑うが、どこまで本気で言っているのか分からない。

「魔道具の価値がわからないやつにくれてやる魔道具は無い。そのへんの石でも投げてりゃいいのさ」
「エスカさんは色々な魔道具が作れるんですよね?どんな物があるんですか?」

そうだね、と言いながら、荷物置き場から何やらゴソゴソと探すと、幾つかの謎道具を持ってきた。

最初の道具は長手袋っぽいものだった。
肘のあたりで縛って固定するような紐がついており、腕を覆う部分的には小さめの魔石がきれいに並んでいる。

「例えばこれは、手に装着して魔力を流すと、腕力と握力が増す。接近戦用の魔道具だね。建築工事とかの肉体労働でも使える。この魔石回路の配置がなかなか芸術的なんだよ」

省スペース、かつ、美しく設計できている事をアピールしているが、わたしには凄さのポイントが分からない。
魔石回路の仕組みを知ればきっと驚愕できるのだろう。

「こっちは飛び道具。筒に風の魔石を入れて、後ろから魔力を流すと、魔石に移動力が発生して筒から飛び出して、相手を撃つ。あんまり精度が高くないし、毎回魔石が消費されるので、勿体無いんだけどね」

筒の後ろのほうに握りがあって、その中に魔石回路があり、魔力を流し込むと筒に入れた魔石が飛んでいく仕組みらしい。

わたしはその飛び道具を手に取り、いろいろな角度から眺めてみる。

「要するに銃みたいなものよね。筒の内側に螺旋状の溝を掘って魔石が回転するようにすれば方向が安定するかも。大きさが不揃いな魔石のままではなく、円錐形かせめて真球に魔石の形を変えればもっと良さそうね」

続けて、弾についても思った事を口に出す。

「打ち出す魔石も、魔石自体を『火薬』みたいに考えて、推進力を生み出す部分として使うようにすれば小さい魔石で足りるかな。それを別の固い素材の弾の後ろにくっつけるの。なんなら、一瞬だけ凄い力で押し出したり、筒の中で別の爆発を起こして弾だけ吹き飛ばせば、魔石を飛ばす必要も無くなって、コスパも良くなるんじゃ・・・何ですか?」

思った事をそのまま口から垂れ流していたわたしに、エリザが肉薄していた。そして肩をガッと掴まれる。

「それはいわゆる君の世界の知識ではないかな?実に興味深い。洗いざらい吐いて魔道具の性能向上、いや、新兵器の製作に協力してくれないか?いやするべきだ。君にはそれをしなければならない義務がある!」

近い!顔が近い!肩痛い!指が食い込んでるから!
このマッドサイエンティストめ・・・

魔石回路にも魔道具開発にも興味はあるが、圧が強すぎる今は逃げた方が良いと本能が警告している。

「今日のところはやる事があるので、また今度!ではごきげんよう!」
「あっ、ユリお姉ちゃーーーん!」
「ユリ、こら、置いていくでない!」

わたしは脱兎の如くエスカの部屋を飛び出し、逃げ去った。
ミライとディーネなら問題ないだろう。
そのまま遊んでいてくれたまえ。
わたしは避難場所として艦橋を選んだ。



「そういえば、ニューロックには何をしに行くのですか?」

艦橋に来てふたたび一休みをしていたわたしは、何となくエリザに問いかけた。

王都から脱出して三週間ちょっと。
ニューロックへの到着はもうすぐだ。
エリザの故郷である事は聞いていたが、具体的に何をしに行くのかは聞いていなかった。

・・・魔獣を食べに行くのですか、という冗談は冗談で済まないだろうからやめておこう。

「ニューロックで武器を量産する。ニューロックは魔石の産出量が領土別に見ても上位なんだよ」

それが第一の目的、と言った。
魔石の発掘と精製を行い、それで武器を作る。
エスカを連れてきたのはそのためらしい。

「それと、できればニューロックの太守と話をしてみようと思う。今の王をよく思っていないともっぱらの噂なので、出来れば協力を取り付けたい。ただ、危険も伴うので、無理はしない」

ニューロックの太守が噂通りの王反対派であれば、協力の糸口が掴めるかもしれないが、そうでなければ捕縛されてしまう可能性がある。
そのため、事は慎重に進めるつもりだそうだ。

「ニューロックは資源も豊富で、土地も広い。要は田舎の土地なんだけど、住んでいる人達は豪快で、おおらかだ。そして人とのつながりを大事にする。味方に出来れば心強い」

エリザが、自身がニューロック出身である事を誇るように、力強く故郷を語る。
故郷が大好きなんだろうな。

・・・わたしも実家に帰りたいな。
今頃実家はどうなんだろう。
今年の夏もまた暑いのだろうか。

「そういえば、ニューロックって気温はどんな感じですか?暑いですか?」
「や、たぶん王都とそんなに変わらないと思うぞ。多少日差しは強いかもしれないけど」

てことは、大体初夏から盛夏ぐらいの気温って事かな。
王都はそんな感じだった。
夏は好きなので多少暑くても問題ない。

「そういえばこの星には『四季』ってあるんですか?例えば、時期によって寒かったり暑かったりするような」
「シキ?聞いた事ないな。だいたいいつもこんな感じだぞ」
「えーと、では、寒い領地とかは無いんですか?」
「火の精霊の影響が弱い領地は寒いね。例えばグレース領なんかはわりと寒い。あとは他の領地でも、山の上の方ならすこし寒い所があるね」

なるほど精霊様の影響が関係するのか。
さすが地球とは常識が違うね。

「地理にはアドルが詳しいんじゃないか?」
「まあ、常識程度には知ってるけど」

話を振られたアドルが一枚のポスターのような紙を取り出し、作戦台の上に広げた。

「この星の地図だよ。見てみるかい?
「見たい!すっごく見たい!」

おお、初めて見れるよこの星の地図が!
ロールプレイングゲームとかでも、世界地図を手に入れるとワクワクしたね。
まだ行けてない地域がどれぐらいあるとか、絶対ここあやしい場所だよなとか、ここの地形、地球のどこかに似てるな、とか。

そんな事を思いながら、早速地図を見せていただく。

「・・・」
「どう、ユリ。面白いかい?」
「・・・」
「ユリ?」

地図を持つ手が震える。
衝撃で声も発せない。

・・・なに、これ。
どういう事なの?
訳がわからない。
いや、わかる。
わかるけど、わかりすぎる・・・
だって、ありえない。これって・・・

「これって、地球の地図だよ・・・」

わたしが見ているこの星の世界地図は、わたしの星、地球の世界地図とそっくりだった。

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