ポニーテールの勇者様

相葉和

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029 念願の技

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「そんなわけで、船の動力の魔道具の魔力がほぼ満タンになりまして」
「ユリの魔力はそんなにバカ容量なのか!?」
「ええ、まあ、容量だけは・・・」

・・・なんかデジャブを感じる会話だ。

艦橋でエリザに燃料補充の報告をする。
エリザも動力の残量計を二度見して確認した。

「この船は中型の貨物船を基本に、王国の連中とも戦えるように色々小細工をしててな。もちろん荷物の輸送は出来るし、寄港できるように正式な貨物船登録もしてある」

正式に登録していないと海賊扱いされたり、他の地方の港に接岸できないそうだ。

「そして動力の魔道具は、軍船に負けないように大型船に匹敵するだけの大出力・大容量に換装してあるんだよ。それを満タンにするとは、半端ねーな!」
「少しはお役に立てたようでよかったですよ」
「少しどころじゃないよ。財政危機が一発解消したよ。助かった!ありがとうな!」

エリザにお礼を言われ、艦橋の皆からも絶賛される。
わたしは照れ笑いを浮かべた。

燃料問題が解決したのを受けて、操舵手の人がエリザのほうを振り向き、航路について相談する。

「燃料が足りるなら、このまま一気にニューロックに向かうかい?」
「いや、予定通り、一度寄港する。物資の調達はしておきたい。それにエスカを乗せる」
「あ、そっか。博士ね」
「博士?」
「研究馬鹿のエスカだ。この船の設計にも関わってるし、武装の大半はそのエスカとアドルが考えたものだ」

へー。頭がいい人なんだ。
しかし随分と遠くにいるんだね。

「王都でちょっとやらかしてな。捕まる前に逃亡したんだわ」

どちらかというとマッドサイエンティストの方かな・・・

「エスカに連絡はしてある。到着次第、迎えにいくとな」
「では予定通り、イスカータ領のスラッジ諸島に行くって事で、了解!」
「到着して、エスカと合流したら、浮いた燃料代で宴会やろうぜ!」

エリザの提案に、船内は大いに盛り上がった。



翌日。

わたしとミライは今日も甲板で魔力の使い方の練習をしている。

わたしは魔石への魔力供給の練習を繰り返し、魔力の放出の仕方についてはマスターできたっぽいので、次の段階へ進むことにした。

「ユリお姉ちゃんはやっぱりすごいの!」
「うふっ。ありがとうね、ミライちゃん」

わたしの魔力の使い方練習の進み具合を、ミライに褒められた。
素直に嬉しい。

ミライにはアドルがついて魔力の使い方を教えている。
ミライも筋はいいそうだ。

わたしは水の精霊にお願いして、次の段階の練習を開始することにする。

(今度は魔石は使わぬ。魔力だけで形を作る練習じゃ。これが出来るようになれば、妾の依代を作ることが出来るようになるのじゃ)
「それはなかなか難しそうね・・・」

今までは魔石が仲介していた魔力の流れを、今度は何も使わず、発現するというものだ。
形を作ると言われても、粘土みたいにグニョグニョした感じ?

(魔力そのものに与えたい力を念じて、放出するのじゃ)

なんか余計にわかりにくくなった。
実演が見たい。

「ねえ、アドルはできる?」
「何が?」

わたしがやりたい事を伝えると、アドルは少し考えてから、魔石を床に置き、立ち上がった。
アドルは掌を水平にして下に向けると、魔石が飛び上がって、手にすっぽりと収まった。

「すごい、アドル!超能力者みたい!」
「チョウノウリョクシャが何かわからないけれども、こういう事かなと思って」

アドルは、魔力を掌から下に伸ばし、魔石を掴んで持ち上げるイメージで、魔力を放出したそうだ。

「すごいよ、だって遠くのものを取ったり、動かしたりできるのでしょ?」
「できないよ?」
「だって魔石が取れたじゃない」
「取れたよ」
「えっ?」

なんだこの噛み合わない会話は。

どうやら、対象が魔石でなければ、飛ばした魔力は働かず、掴む事ができないらしい。

(ユリよ。普通の人間は、必ず魔石を通して魔術を発現する。自らの魔力だけでは基本的には何もできないのじゃ)
「なるほど、そういうことですか・・・」

わたしの中の、水の精霊の魔力の核による影響で、魔石無して魔術が発現可能なわたしの状態が特殊なのだそうだ。
つまるところ、水の精霊の御力のおかげという事だ。

それでもアドルが見せてくれた、魔力の遠隔放出のデモンストレーションは参考になったと思う。

「今はこんな芸当をする人は少ないね。魔石に直接触れて魔力を流して、普通に魔道具を使うほうが便利だし、効率的だから」

もはや誰もやろうとしない、廃れたテクニックらしい。
遠隔でできるほうがすごいと思うのに、なんかもったいない。
遠隔放出を使った、便利で効率的な活用方法を考えたくなる。

・・・ピンポンダッシュとか?
悪ガキには便利で効率的だけど、駄目だな。

そういえば、『便利で効率的』で一つ思い出した。

「ねえアドル。計算機ももしかして魔道具?」
「計算機?ああ、そうだよ」
「計算機ってみんな使ってるの?簡単な計算の時とかでも」
「そりゃ、計算する時は必ず計算機を使うだろ?」
「そいつはけしからんですな・・・」

わたしの世界にも電卓はあるが、超複雑な計算をする時や、経理で一円の間違いも許されない計算をするために使うのは当然だと思う。
だけど、最低限の計算能力くらいは身につけるべきだと思っている。

まあ、計算機の事は置いといて、今は練習だ。
やり方のイメージは分かった。

アドルにデモンストレーションを見せてもらったことに礼を言うと、アドルはミライの練習指導に戻っていった。

まずはわたしも、アドルと同じ事をしてみる。
足元に魔石を置いて、魔石に向かって魔力を投げる事をイメージする所から始める。

・・・魔力の手を作って、魔石を握って、掴んで持ち上げて、掌にすっぽり。

このイメージを、足下の魔石に向かって、投げる!はいっ!

メキッ!

(ユリよ・・・加減を覚えるのじゃ)
「ユリ、出来たのかい?」
「んあ!?一応!一応できたわよ!ほほほ・・・」

アドルから出来栄えを聞かれたので、手に握った魔石を振り、成功をアピールする。

・・・魔石の下の床板ごとえぐり取ってしまい、甲板の破片を握りしめているのがバレないように、手を激しく振りながらアドルに返事をしているのは秘密だ。

「さ、気を取り直して行こう!」
(・・・前向きなのは良いことじゃ)

しかし、また失敗して甲板に穴を開けるわけにはいかないので、最初にやろうとしていた魔力で形を作る練習をすることにする。

手から魔力を放出して、球とか、直方体とかのイメージを作ってみる。

できている・・・感じだけはする。

「目に見えないし、結果が伴わないからわかりにくいのよねー」
(色をつけてみてはどうじゃ?)
「なるほど、さすが先生!」

その発想は無かった。
そう言われて気がついた。
魔術の発現は発想力なのではないかと。
「こうしたい」「こんな能力で発現したい」それを明確にして放つ。

ならば、試す事はやはり、アレだ!

・・・でもやる前に一応お伺いは立てよう。

「ねえ、精霊さん、例のあの技・・・できる気がするのだけど、やってみていい?」
(例のって、アレか。ふむ・・・船の横方向に、海に向かってやってみると良い)

わたしは甲板の左端に移動した。
海は穏やかだが、念の為に柵と身体を紐で縛り付け、落ちないようにする。

・・・恥ずかしいので人が来る前にちゃちゃっとやろう。

両手の手首同士をくっつけて、そのまま右の脇腹に添える。
腰は軽く落として、魔力の塊を掌に集める感じでイメージする。

魔力の塊。球の形。薄く金色に光る・・・

ポッ

両手の掌の中に、小さい、金色の魔力の球が浮かんでいる。

できた!金色の球!ちゃんと見えるよ!
そのまま掌大まで大きくしてみる。

続けて、金色の球を放出するイメージをする。
手から放たれた球が、今わたしが視線を当てている海水面に飛んでいくイメージだ。
距離は二十メートルくらいだろうか。
そこに球が飛んでいき、仮想敵を倒す!

「いっけー!波ぁーーー!」

両手を大きく突き出し、放出する。
指は竜の顎を意識した形のままだ。

思い通りに金色の球が飛ぶ!
できた、できたよ!野菜の星の人の技が!
長年の夢が叶ったよ!

そして、金色の球が目標の位置に近づき、そのまま海水面に着弾する!
さあフィナーレだ!

ぽちゃん!

「・・・」

待てど暮らせど、何も起きない。
爆発までのディレイタイム?

「精霊さん、うまくいったと思うのだけど、爆発したり、海水がどぱーんみたいな衝撃が起きないんだよ」
(思っていた威力が出ないという事ならば、単に研鑽の問題じゃ。今のは光るだけの魔力の球を投げだだけじゃ)
「あ、そゆことですか」
(仮に人が食らったら、なんかモワッとしたものが通り抜けただけと思う程度じゃろう。牽制にはなるかも知れんな)

わたしがスーパーな野菜の人の技をマスターするには、まだまだ修練が足りないようだ。

とりあえず普通に魔力形成の練習に戻る事にして、元の練習場所に戻ると、人だかりが出来ていた。

「これは一体・・・」
「重たいものを落とした感じ、ではないよな」
「なんかえぐり取られたって感じよね」

・・・甲板に穴を開けた場所だ!
やばい、見つかった!
怒られる!

回れ右をして逃げようと、後ろを振り向くと、目の前にアドルが笑顔で立っていた。

「ギャーーーー!」
「ちょっ!オレの顔を見てギャーとは失礼だろ、こら、待ちなさい!」

わたしは秒で捕まり、甲板に穴を開けた事を自白し、怒られ、アドルに手伝ってもらって穴の空いた甲板の修理をした。
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