ポニーテールの勇者様

相葉和

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020 市場

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ドルフの家に泊めていただき、翌朝を迎えた。

「んー、いい朝だね~」
(やっと起きたか。ユリはよく寝る娘じゃのう)
「睡眠不足はお肌の大敵なのよ。質の良い睡眠はお肌を潤わせるのよ」
(妾の表面はいつでも潤っておるよ)
「はいはい、そりゃそうでしょうよー」

水の精霊との掛け合い漫才モドキをしつつ、着替えを済ませてリビングに行くと、ミライは既に起きて朝食の準備をしていた。

「父様は朝早いの。もう仕事に行ったの」
「やだ、わたしが一番遅くまで寝ていたなんて、恥ずかしいわ・・・」
「ユリお姉ちゃんは疲れているみたいだからゆっくり寝かせてやれって言われたの」
「・・・お心遣い、大変感謝いたします」

朝食を済ませ、お出かけの準備をする。
まずは市場。それからお墓参りをして、夕の鐘までに帰宅する。
今日のミッションを確認して、玄関の扉を開ける。

「ミライちゃん、本当に大丈夫?無理はしなくていいよ?」
「大丈夫。ユリお姉ちゃんと一緒だから」

キュッと手を繋がれ、笑顔を向けられる。
・・・守りたい、この笑顔。
わたしとミライは元気よく家を出発し、ナーズの市場に向かって歩き出した。



ナーズの市場に向かって、ミライと手を繋いで街道を歩く。
街道は人が多く行き来し、時折馬車も通る。

・・・なんか馬の頭に角とか生えてるけれども、見てくれは馬だ。
その角、ちょっと触ってみたい。

「あのあたりが市場なの」
「おお、アーケード商店街みたい!」

ミライが指をさす方を見ると、少し遠くにアーケード街の屋根のようなものが見える。

思ってたより栄えてるんじゃない?

市場に近づくにつれ、露店も増えてきた。
親子連れやカップルも多く、なかなか賑わっている。

わたし達も仲の良い姉妹に見えたりするかな?
この星の結婚適齢期が早めなら親子だろうか?

そんな事を考えながら歩いていると、魔石を売っている露店を見つけた。
大小様々な石が並べられているが、わたしには価値が全く分からない。

「お嬢さん、買っていくかい?どれでも千トールだよ」
「んー、そうねえ・・・」

初めてお金の単位を聞いた。トールね。覚えた。
ちょっと眺めてみたものの、お金がないので買いようもない。
曖昧な返事ではぐらかし、適当に立ち去ろうとした。

(ユリよ)
「ん?」

脳内会話はハタから見るとただの危ない人だ。
ちょっと明後日の方向を向いて小さく答える。

(そこに並んでいる魔石の、下から二列目の左から三番目のくすんだ青い石、かなりの上等品じゃ)
「ほほう」
(表面がクズ魔石で覆われている故、店主は気が付かなかったのであろうな)

上等な魔石が紛れている事は分かった。
だがわたしにはお金がない。
店主に軽く会釈して、露店を後にする。

「ユリお姉ちゃん、魔石が欲しかったの?」
「うん、まあ、お姉ちゃん、魔石を使うのがあんまり上手じゃなくてね」
「ふーん」

質問の答えにはなっていないが、ミライちゃんも何となく聞いただけかもしれない。

「ところでミライちゃん、恥を忍んで教えて欲しいんだけど、千トールってどれくらいの価値なのかな?ほら、わたしの地元とここではお金の価値が違うかもしれないし」
「んー、千トールなら、パン二十個くらいよ」

なるほど、ざっくりベースで百トールは五十円から百円ぐらいってとこかな。
パンの価格が異様に高かったり安かったりしなければ。

「魔石がひとつ千トールってのは安いのかな?」
「ミライもまだ魔力を使えないから分からないけど、多分安いと思うの。すごい魔石はすごい高いって父様が言ってた」

魔力を使えない?
この星の人は皆、少なからず魔力を持っていると言っていた。
使えないとはどういう事だろうか。

「ちゃんとした魔力の使い方は街で先生に習うの。でもミライはまだ習ってないの。十歳ぐらいになったらだいたいみんな習い始めるの。ミライも来年には習いたいの」

なんでも、あまり小さい頃から無理に魔力を使うと、成長に影響が出るらしい。
習える年齢になったら、私塾に通ったり、家庭教師を呼んで学ぶそうだ。
物事の善悪が分かってから魔力の使い方を教えるとか、そんな理由がありそうだなと思った。

ミライに色々と教えてもらいながら歩き、アーケード街の市場に到着した。

「すっごい人だねー」
「今日はお得市の日なの。だから人も多いの」

ドルフの言ってた通り、どうやら今日はたまに行われる市場のお祭りらしい。
売り物以外にも、催し物が開催されるそうだ。

何も買えないが、賑やかな市を見ているだけでも楽しい。
・・・買えればきっともっと楽しいけど。

鶏そっくりな鳥や、牛のような大きい生き物を丸ごと売っている店があったり、何に使うのか分からない道具が並んでいる店もある。
色とりどりの果物や野菜を並べているのは、いわゆる八百屋だろうか。
リンゴに似ているようなものや、全く見たことのないものもある。
どんな味がするのか想像もつかない。
魚は少ない感じ?
ミライに聞いたところ、魚は、港の方に専門の魚市場があるそうだ。

そんな感じでいろいろな商品を見て回る。
言語理解の魔道具のおかげで文字も読めるが、名前と物の感覚が一致しないので覚えにくい。
値札と商品を見て、金銭感覚だけでも養っておく事にする。

物珍しさに心を躍らせながらアーケードを進んでいくと、何やら開けた場所にステージのような物があり、ステージに立っている女の人が大きな声で催し物の案内をしていた。

「今回も開催いたします、ナーズの市場恒例、計算大会!優勝賞金は五万トール!商売に大切な事はなんと言っても計算能力!誰でも参加自由ですよ!」

何ですと?



「ユリお姉ちゃん、本当に出るの?」
「誰でも参加自由なのでしょう?だったら出てみても良くない?」
「・・・」
「ミライちゃん、何か心配でも?」
「だってユリお姉ちゃん、頭が良くないでしょう?無理は良くないと思うの」
「ええええ!何で?何でそんなイメージが!?見た目ですか?わたしは頭が悪そうに見える子ですか!?」

よくよく聞いたら「溺れて記憶を無くしたりしてて、頭の具合が良くないのだから、頭を使うような無理はしない方がいいのでは」という事だった。

純粋無垢な少女に、見た目で頭の悪い子認定されたら、立ち直れないところだっだよ・・・
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