偏食の吸血鬼は人狼の血を好む

琥狗ハヤテ

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偏食の吸血鬼は人狼の血を好む・20 (R)

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「へんなにおい」
「変な匂いか。まだお前には早かったな」
「これがいいにおいだって感じる時が来るの?」
「そうだ。我々にとっては大切なシグナルだからな」
「シグナル?」
「ああ、愛と永遠を分かち合うためのな」
「つがいになるってこと? 父さんと母さんみたいに」
「そうだ。お前もちゃんと持ってる」
「何を?」
「愛する者を見つける鼻だ」
「そのにおいを嗅げばわかる?」
「わかるさ、きっと」
「つがいになれる?」
「それはお前次第だな」
「俺は好きでも、好きになってもらえなかったら?」
「その時は…」



「ニル、お前は死ぬだろう」



・人狼は番(つがい)を欲する。種は厭わない。
・番を得ればごく稀に子を成す。だがその命は短命種の方に準ずる。
・人狼同士の番であれば、不老不死の子となり高い戦闘能力を持ち強靭な肉体を得る。
・人狼は番を喪えば、死を迎える。
・人狼同士の番は悠久の後、精霊界へと還る。
・番の愛を失う…それもまた死を得る。





 バカみたいな魔法だ。
「失恋したら死ぬ」なんて、今時ティーンでも起こらない。
 なのに俺の血にはそのルールが組み込まれている。しかも1番濃い人狼同士の血として。強靭な肉体を得ても、愛した者に愛され続けなければ…俺は死ぬ。
 人狼が滅んだのは、そのためだ。
 人間と恋に落ち、老いて朽ちる番と共に死を迎える人狼はいつの時代もいた。元から多くない一族はそうして衰退していった。
 そして先の大災害。
 大勢の人間が死んだ。
 愛する相手を人間とし、番を得て家庭を築いていた人狼達は、それを失ったとき共に死を迎えた。自然へと帰化していた者達も、森と共に消滅した。
 俺が旅をしていたのは、何も身を隠して生きるためだけじゃない。
 生き残りを探していた。
 仲間を。
 だが――もはや、俺は独りなのだと悟った。
 愛を知らない人狼は、俺だけだった。
(それが、こんなところで…まさか…アイツに…)
 俺は顔を両手で覆った。
 なのに感じる匂い。
 フェロモン…レオニスのものだ。甘く俺の鼻腔をくすぐる。遠くの部屋で吐精した香りまでわかるくらい、強く。
 たまらない。
(くそ…)
 雄が痛いほど勃ち上がっている。
 レオニスのフェロモンのせいだ。
 あの、いい香り…俺の理性を焼き切るような。
 俺は勢いで立ち上がった。かまうものか、奴が俺に肉欲を抱くなら相手をしてやればいいんだ。存分に犯してやる。俺ならそれができる。そして俺に溺れさせてやればいい。
 ヒタヒタとレオニスの寝室に近づく。だが、扉はもうすぐというところでピタリと止まる。
 それで、レオニスの愛を得られるのか?
 永遠の愛を。
 吸血鬼の愛を。
 ただの肉欲だけで。
(くそ、くそ…ッ)
 踵を返し、俺は自室に戻る。服を脱ぎ捨て、シャワー室に入り冷水を浴びた。心臓が跳ね上がったが、すぐにわからなくなる。硬く勃ち上がる自身を握り、擦る。
「……っ、…」
 熱が身体を駆け巡る。大理石の壁に片手をついて喘ぐ。肌を冷たい水が滑り落ち、何とか俺に理性を留めてくれていた。
 それでも思い浮かべるのは、さっき触れたレオニスの肌や尻肉の感触だ。以前に見た白い陶器のような肌や、花弁のような乳首、まさに咲きそうな蕾のように色づいた雄。
それが俺の身体の下でうねるのを。
 突き上げるたびにしなる腰を捕まえて、あのほっそりとした首に噛み付く。奴が俺にするように。膝を掴んで開かせ、裂け入る。きっと狭いんだろう…俺を強く締め付ける。
(ああ…)
 レオニスの宝石のような青い瞳…それが恐怖に濡れるのか、それとも享楽に浸るのか。奴が俺を愛することがあるなら、どんな風に見上げる?
 俺はきっとそれに虜になる。
 離れられなくなる。
 それが怖い。
 自ら致死性の高い毒を飲むようなもの。
 それでもいいと…
 その時、俺は思うんだろうか。
 滑る手で雄を乱暴に擦る。イきたいようなイきたくないような、どっちつかずな感覚にイライラする。妄想の中で幾度突き上げても、知らない肉の記憶だ。欲しいものはそこにない。
 それよりも、あの細く白い指が吸血の度に胸を探る感触や、ゆったりと隙間なく重なる身体、首を這う柔らかな唇の感触…血の味に恍惚し小さく喜ぶ吐息…、終われば名残惜しそうに首を舐め、しばらく申し訳なさそうに傷跡をしゃぶる…
 あの舌が。
 俺のを咥える。
「!」
 強張り、吐精する。
 強く根本からこしあげ、絞り出す。
 冷水と罪悪感と共に排水溝に流れてゆく白濁を、息を吐きながら眺めていた。
 最悪だ。
 勘違いだと思いたかった。
 だが、もう無理だ。
 せめて…
 この心が見られないように。
 深く深く俺の中に沈めなければ。
 レオニスが知りさえしなければ、俺は何も失わない。


 きっと、そのはずだ。





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