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第2話 ポインセチア帝国

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 怪しい行商だと思っていたのに。
 驚きのあまり言葉を失ったわたし。こんなことってあるんだ。

 こんな大きくて獰猛どうもうそうなフェンリルを飼いならしているし、本物で間違いないと思った。
 というか、ホムンクルスを扱えるのは“A級以上”の錬金術師と聞いていたから間違いない。

「ごめんなさい、わたしはとんでもない勘違いを……」
「いえいえ、良いのです。私自身このような怪しい格好をしていますからね。それより、ポインセチア帝国はもう目と鼻の先。このまま向かいませんか?」

「そ、その……便乗しても良いんですか?」
「もちろんですよ。あと、良ければ街を案内しますよ」
「そこまでしていただけるんですか!」
「ええ、お嬢さんひとりでは不安でしょう」
「あ……そうでした。わたしはアザレアです。どうか名前で呼んでください」
「アザレアさんですね。よろしくお願いします」

 握手を交わす。
 このチャンスを逃すわけにはいかない。
 今のわたしは、右も左も分からないし、帝国内のことも詳しくない。錬金術師にもどうやってなればいいか分からない。頼れるのは目の前の宮廷錬金術師イベリスだけ。
 彼を頼るしかない。
 というか、宮廷錬金術師と出会たことが奇跡すぎるっ。

 再び馬車へ乗り、帝国まで向かうことに。

「イベリスさん、改めてお礼を」
「お礼などいいのです。それより、どうして帝国へ?」
「錬金術師になりたくて!」
「ほお、錬金術師ですか! それは素晴らしい目標をお持ちです。今、帝国では錬金術師が不足しているんですよ」
「そうなのですか?」
「実は、国家試験が難関でして不合格者が続出しているんです」
「こ、国家試験があるのですか!?」
「ええ、年々難易度が上がっていますよ。だから、勉強あるのみです」

 そ、そんな……勉強が必要だなんて。
 当然か。錬金術師になるのは高度な知識が必要。様々なスキルも扱うし、ポーションとか調合するし。
 うん、がんばろう……!

 詳しいことを教えてもらいつついると、いつの間にか街中に入っていた。

 朝でも、こんなに多くの人がいるだなんて。わたしの住んでいた田舎とは大違い。
 視界に入るだけで百人以上はいた。
 エルフとかドラゴン族、天使族も歩いている。凄い、こんなに多くの種族がいるんだ。
 馬車は街の大通りを走り続けていく。
 わぁ、露店がいっぱい。
 ポーションとかアイテムの取引をしている光景が視界に入る。あんな風に、わたしもアイテムを売買してみたいなぁ。

 そんな風に思っていると、馬車は大きな邸宅の前で止まった。

「ま、まさかこの大きな家がイベリスさんのお宅です?」
「そんなところです。さあ、ゆっくり降りてください。家へ案内しますから」

 ……こんなお城みたいな邸宅に住んでいるんだ。凄すぎて言葉を失った。これが宮廷錬金術師の家なんだ。

 馬車を牽引けんいんしていたフレイムフェンリルは、小型化。子犬になった。

「か、可愛いですねっ」
「名はゼフィランサスといいます。良かったら抱いてやってください」
「いいのですか!?」
「どうぞ」

 フレイムフェンリルのゼフィランサスを抱いた。小さくてモコモコで毛並みも凄い。このコがホムンクルスだなんて信じられない。

 ゼフィランサスを抱いたまま、広い庭を歩いていく。
 玄関に辿り着いて、わたしはただただ驚くしかなかった。なにもかもが大きい。廊下も広い。壁側には甲冑の置物や、絵画が並んでいる。


「お帰りなさいませ、イベリス様」


 静かに主を出迎えるメイドさん。って、メイドさんもいるんだ。わたしと同い年くらいのメイドさんだった。


「戻りましたよ、ドラセナ。今日はお客さんがいますので、お茶を」
「分かりました」

 メイドさんは静かに去っていく。
 足音がしていないような……?

「アザレアさん、こちらへ」
「あ……はい」

 ついていくと広い部屋に案内された。舞踏会でも出来そうな大広間だった。すご……お庭も花が咲き乱れていて綺麗。


「どうぞ、座ってください」
「ありがとうございます」


 その前にゼフィランサスを床へ。
 それから、わたしは椅子に座った。
 しばらくしてメイドさんが紅茶を運んできてくれた。静かに置かれるティーセット。音がまったくしていない。

「それでは、ごゆっくり」

 紅茶とお菓子のいい香りがする。
 こればかりは実家を思い出す。
 よくティータイムを楽しんでいた光景を。
 ……だ、だめよ、わたし。
 帰りたいとか考えてはいけない。
 せっかくここまで来たのだからっ。

 紅茶をいただくと、とても上品で芳醇な味わいに感動した。帝国の紅茶ってこんなに美味しいのね。

 ゆっくりと味わっていると、イベリスがこう言った。


「アザレアさん、あなたを私の弟子にしようかと思います」
「ぶっうううううう!?」


 突然の提案に思わず紅茶を噴いたわたし。

 え、え、ええッ!?

 し、信じられない。

 宮廷錬金術師の弟子にしてもらえるってこと……?

 夢のような話に、わたしはパニックに陥った。けど、落ち着かなきゃ。はしたない姿を見せるわけにはいかないっ。……もう遅いか。

「驚かせてしまって申し訳ないです。でも、さきほども申した通り、錬金術師が不足しているんです。そこで弟子を取ろうと思ったのですよ」
「でも、わたしは素人ですよ……?」
「大丈夫。丁寧に教えていきますから」

 優しい笑みを浮かべるイベリス。ひまわりのような表情され、わたしはぼうっとなってしまった。彼には人を惹きつけるような魅力があるみたい。

 もちろん、わたしは同意した。

「よろしくお願いします!」
「良かったです。私はいずれ宮廷錬金術師を引退しようと思っていので、この地位をあなたに譲るためにも全力で教育させていただきますね!」

「え……?」

 予想外すぎる理由が返ってきて、あたしはまたパニックになった。

 ちょ……ええ~!?

 この日から、地獄のような勉強と錬金術師としての知識を頭に詰め込む日々が始まった……。
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