ギフト『モンスター撃破ボーナス』で最強スローライフ!

桜井正宗

文字の大きさ
上 下
8 / 21

美人三姉妹、現る

しおりを挟む
「ユーファさん、洗い物ですか? そこに置いておいてもらえれば私がやっておきますよ」

 調理場で明日の下準備をしていたバルトロにそう声をかけられて我に返った私は、慌てて彼に声を返した。

「あ、いいえ、自分で洗うから大丈夫よ。あなたも忙しいでしょう?」

 そう断って薬湯の椀を洗い物用の水桶に浸けながら、先程の出来事がぐるぐる頭の中を回って、その余韻に頬を染めずにはいられなかった。

 あんなふうにおやすみのキスをされるの、初めてだった。子どもの頃だってあんなことしてきたことなかったのに―――。

 思い出すと全身が火照ってくるので、私はそれを頭の片隅に追いやりながら自分自身に喝を入れた。

 色々とすごいことがあった気がするけれど、しっかりしなきゃ―――今はそれどころじゃないんだから。

 うん、明日が終わるまで、余計なことは考えない! 今は目の前のことに集中する!

 そう言い聞かせて無理やり気分を入れ替えた私はバルトロに尋ねた。

「ねえ、確かネロリのつぼみを乾燥させたものがあったわよね。あれってまだある?」
「はい、そこのカウンターの上に置いてある容器の中に」
「あれね。少しもらっても大丈夫?」
「ええ、どうぞ」

 柑橘系の植物であるネロリの花には、様々な精神的ストレスを緩和してくれる効能がある。このつぼみを乾燥させたものを軽く潰して茶葉にすると、微かな苦みと優しい味わいが特徴のハーブティーになるのだ。心の苦しみを和らげてくれる妙薬として昔から重宝されているハーブだ。

 気休め程度かもしれないけれど、これをスレンツェに淹れてあげたい。そしてフラムアークのアドバイス通り、あなたを心配しているのだということを素直に彼に伝えよう。

 お湯を沸かして茶葉をじっくりと蒸らしている間、私はバルトロと彼の恋人レムリアの話をした。昨年大変な出来事を乗り越えた二人の絆は一段と深まっているようで、その仲睦まじさは聞いていて思わず溜め息がこぼれるほどだった。

「あなたがフラムアーク様の任務に同行する機会が増えて、レムリアは寂しがっているんじゃない?」
「はは、よく寂しいとは言ってくれています。ですが彼女もフラムアーク様には少なからぬ恩義を感じていますし、私の気持ちもよく理解してくれていますから、大丈夫ですよ。任務地が遠方の場合は出先から必ず手紙を書くようにしていますし、今回も最後に立ち寄った町で彼女に手紙を出しました。あ、もちろん機密に関わるようなことは一切書いていません」

 バルトロはそう言って照れ臭そうにはにかんだ。

「不謹慎かもしれませんが、今回の件に関われたことが私は少し嬉しくて。……実は、私は元々騎士団への入団を希望していたんです。残念ながら願い叶わず、現在の職場への配属となりましたが……。そういった経緯もあって、自分がこういう場にいられるということに不思議な高揚感があるんです。明日、自分が戦場へ立つわけではありませんが、その空気の中にいられるだけで、何というかこう……感慨深いものがあって」

 色々な考えを持つ人がいる。

 バルトロは別に殺し合いを望んでいるわけではなく、騎士として祖国を守るという立場に憧れ、叶わなかった夢の舞台にいる昂りを覚えているだけなのだろう。

 彼らには意図的にぼかした情報しか与えていないから、私達との認識に温度差が生じてしまうのは致し方ないことなのかもしれない。

 けれど、何とも言えないもどかしさとやるせなさに苛まれた。

「……後方支援になるけれど、私達の役目も重要よ。私達は私達できちんと自分の役目を果たしましょうね」

 そう口にするにとどめた私に、何も知らないバルトロは「はい!」と力強く頷いた。
しおりを挟む
他にも作品を連載しています↓

作品一覧

応援よろしくお願いしますm(_ _)m
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生ギフトでドラゴンを貰いました。

銀狐
ファンタジー
絵を描くのが好きな大学2年生の新崎亮。 バイトへ向かうときに交通事故に合い、死んでしまった。 気づいたら目の前に神様。 そこで転生ギフトがあると言われ、ドラゴンを選びました。 ※『カクヨム』『小説家になろう』で同時掲載をしております。

【完結】転生したらもふもふだった。クマ獣人の王子は前世の婚約者を見つけだし今度こそ幸せになりたい。

金峯蓮華
ファンタジー
デーニッツ王国の王太子リオネルは魅了の魔法にかけられ、婚約者カナリアを断罪し処刑した。 デーニッツ王国はジンメル王国に攻め込まれ滅ぼされ、リオネルも亡くなってしまう。 天に上る前に神様と出会い、魅了が解けたリオネルは神様のお情けで転生することになった。 そして転生した先はクマ獣人の国、アウラー王国の王子。どこから見ても立派なもふもふの黒いクマだった。 リオネルはリオンハルトとして仲間達と魔獣退治をしながら婚約者のカナリアを探す。 しかし、仲間のツェツィーの姉、アマーリアがカナリアかもしれないと気になっている。 さて、カナリアは見つかるのか? アマーリアはカナリアなのか? 緩い世界の緩いお話です。 独自の異世界の話です。 初めて次世代ファンタジーカップにエントリーします。 応援してもらえると嬉しいです。 よろしくお願いします。

欲望が満たされなくなった天使は化け物へと変貌する

僧侶A
ファンタジー
大学に通うために田舎から都会にやってきたペトロは、ひったくりに遭遇した。 田舎で鍛えた脚力を活かし、ペトロは犯人無事に捕らえることが出来た。 それで一件落着かと思いきや、ひったくりを少しでも足止めしようとした女性が突然化け物へと変貌した。 その理由は、大事な爪が割れてしまったから。 完結まで毎日投稿します。

黒猫の王と最強従者【マキシサーヴァント】

あもんよん
ファンタジー
地上の支配権をかけた神々の戦争が終りを告げ、「秩序」という信仰の元『世界』は始まった。 戦に負け、その座を追われた神は黒猫に転生し、唯一の従者と『世界』を巡る旅に出る。 膨大な魔力を持つかつての神「黒猫タロ」と、その神より絶大な力を授かった「従者アリス」。 だが、アリスはタロの魔力なしでは力を行使できず、タロもまた魔力しか持たず力は発揮できない。 そんな一人と一匹の冒険は多くの人との出会いや別れを繰り返し、やがて『世界』と『神』を巻き込んだ物語へと繋がっていく。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

レオナルド・ダ・オースティン 〜魔剣使いの若き英雄〜

優陽 yûhi
ファンタジー
じいちゃん、ばあちゃんと呼ぶ、剣神と大賢者に育てられ、 戦闘力、魔法、知能共、規格外の能力を持つ12歳の少年。 本来、精神を支配され、身体を乗っ取られると言う危うい魔剣を使いこなし、 皆に可愛がられ愛される性格にも拘らず、 剣と魔法で、容赦も遠慮も無い傍若無人の戦いを繰り広げる。 彼の名前はレオナルド。出生は謎に包まれている。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

処理中です...