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【239】 ティーガー辺境伯の謝意

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「これで本当に終わったのですね」
「ああ、そうだな、ルナ。皆が帰り始めて、いつもの日常に戻りつつある。俺達もイルミネイトへ帰ろう」

「はい、帰りましょう」


 俺はその前にアムールに挨拶をした。


「アムール、ペット達を避難させていたとはな」
「ええ、こんな事もあろうかと動いておいたのです。女の勘ってヤツですわ」


 女の勘とは言っているが、アムールにはそういう危機を感じ取る嗅覚が鋭いのかもしれない。


「ありがとう、すまなかった」
「いえ、お礼もお詫びも不要です。元々、わたくしがペット達を別荘に飼っていた事が火種だったのかもしれませんし、申し訳ないです」


 そう本当に落ち込むアムールだったが、直ぐに涼しい顔に戻り、俺の手を握ってきた。

「わたくしの方こそありがとう。いつかお礼をさせて下さい、カイト様」


 何故か様付けされて、俺はギョッとする。どうやら、俺の事を認めて(?)くれたらしい。なんか距離も近くなったような気がする。


 俺はまた近いうちにと挨拶を済ませ、皆の方へ戻った。


「ソレイユ、ミーティアも行くぞ」

「ええ、あたし達の家へ」
「お兄ちゃん、帰ったら一緒にゆっくりしよー!」


 アムールの別荘を去り、イルミネイトを目指した。


 ◆


 ――数日後――


 イルミネイトの食堂でゆっくり珈琲コーヒーを楽しんでいると、ソレイユが軽い足取りでやって来た。俺の隣に座るなり、足を組む。白い太腿ふとももがひときわ光彩を放ち――いや、それはいいな。


 帝国・レッドムーン『N地区』の平和は戻った。


 ピルグリメッジ家は今回の件で管理者権限を剥奪され、その地位を失った。パラセレネは、マレフィック、デマイズと共謀、国家転覆の罪で海底監獄イグノラムスへ収監される事となった。


「――というわけよ、もうN地区に脅威はないわ」


 と、ソレイユに聞かされていたわけだ。
 そうなったか、仕方ないといえば仕方ない。

 パラセレネは身勝手に振舞い、全商人を敵に回したのだから……当然の報いだ。それに、デマイズは死体収集の罪でこれまた監獄行き。そして、一番の元凶であったマレフィックは自爆して死亡。


「これで全て解決か」

「もう流石さすがにこれ以上の悪事はないはずよ、多分ね。でも、また何かあっても、カイトが動いてくれるでしょ?」

「俺かよ。まあいいけどさ、商人生命に関わる問題なら喜んで動くよ」


 また全商人と力を合わせ、解決してもいいかもな。皆、商人としてのこころざしは高く、このN地区を気に入っているのだから。


「うんうん、やっぱりカイトは根っからの商人ね。――ああ、そういえばさ、この前使っていた聖剣マレットに似ていた武器って、もしかして……」

「あー、アレな。アレは『宝剣ルナティック』だよ。アムールから貰った。元々はルナのモノだったらしいけどな」


「知ってる。そっか……アムールは、カイトに宝剣を託したんだ。それ、マレットとは姉妹だからね、大切にしてあげて」


 そうだったのか。
 という事は、ルナティックの方が妹かな。


「分かったよ、これからは俺の相棒だからな。丁寧に扱うよ」
「それならいいわ。じゃあ、珈琲コーヒー貰おうっと~」


 そうソレイユは、俺の飲みかけのカップを取り、口をつけた。……間接キスなのだがな。気づいていないのか、わざとなのか。


 それから程なくして、ルナも食堂へやって来て――あれ、通り過ぎていった。玄関の方へ……? 今は取引時間外なんだがな。


「む? ソレイユ、すまない」
「いいわ、こっちは適当に飲んでるし」


 俺はルナを追いかけた。



「――そうなのですね、ええ」


 玄関前で誰かと話している。


 お、男!?


 しかも、かなり容姿が整っているっていうか……それどころか王子とかそういうレベルだ。白肌で美麗すぎるだろう。服装もそれっぽいし、貴族なのは間違いない。

 てか、あんな楽しそうに話して……ま、まさか。浮気!? なんて心配はいらなないとは思うけど、やっぱり気になる。


「むぅ」


 ようやく話を終えて、ルナは戻って来た。
 俺の存在に気づくとキョトンとしていた。


「どうされたのですか、海人様」
「さっきの男は誰だ? 楽しそうに話していたけど」

「さっきの? ああ……シベリアですね」


 ハッとルナは手を口元に中てて、気づいたようだ。俺がどうして、こんなに不機嫌になっているか。


「……ただの知り合いならいいけど」


「海人様が嫉妬しっとして下さるとは……わたしとした事が申し訳ございません。あの方は、男性のような身なりですけれど女性・・ですよ」

「へ……女性!? 嘘、めっちゃイケメンだったけど」


「彼女は、アムールのお姉様です。ティーガー辺境伯の名で知られているんですが、それ故でしょうか、男装が趣味なんだそうですよ」


 ――ナンダッテー…。

 アムールの姉でシベリアか。
 しかも、辺境伯か。

 そういえば、女っぽい名前のような気がする。なるほど、男装ね。そりゃ男にしか見えないわけだよ。見事にだまされた。


「マジか……」
「ええ。なので、彼女はこの前の別荘のお礼とお詫びに来られたんです。すみません、何故かわたしが呼ばれたものでしたので」

「そうだったか。ごめんな、疑って……俺が浅はかだった。ルナを信じなかった俺は本当に馬鹿だ」

「いいえ、むしろ嬉しかったです。そんなにもわたしを想ってくれているという事ですから。わたしは、他の男性に一切興味はありませんし、世界で唯一、海人様しか愛せないのです。なので、海人様をもっと好きになりましたし、愛していますよ」


 誇らしそうにそう言ってくれた。

 ……そっかそっか。


「ルナ、おいで」
「はいっ、海人様」


 思いっきり抱き合って愛を確かめた。

 そうだよな、うん――。
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