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【225】 婚約破棄
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フレッサー商会の中へ案内され、やたら広い応接室へ入る。そこには既に先客がいた。長いツインテールのお嬢様だ。恐ろしく綺麗な金髪は、誰の目も惹くだろうな。
その女性に、ルナが真っ先に反応した。
「……あの、この御仁は?」
「紹介しましょう。僕のお得意様で……」
トニーが紹介する前にも彼女は静かに立ち上がり、赤い瞳を向けた。ルナに勝るとも劣らない美しい瞳だ。
「はじめまして、わたくしはパラセレネ・ピルグリメッジ。中流階級の貴族ですので、あまり目立つ存在ではありませんが、よろしくお願いします」
彼女の紹介が終わると、トニーが着席を促しながらも――やや困り顔で補足を入れる。俺とルナは椅子に座って対面する。
「そういうわけです。彼女はピルグリメッジ家の侯爵令嬢。――で、ここからが肝心でして、僕のレベル売買の優先権をパラセレネ様に譲渡しましたので、彼女を優先させたくご紹介した次第なのです。それと……実は、カイトもご所望なのです……」
と、懸案事項をトニーは心苦しそうに口にした。汗が凄いぞ。俺もだが。
「……はい?」
首を傾げて俺を不安気に見つめるルナさん。……段々と理解し始めているようで、俺の左手をぎゅっと握る。……うぅ。
「わたくしは、全てのレベルとカイト様も欲しいのです。つまりですね、婚約を結んで頂きたいんです」
なんの躊躇いもなく、皇女を前に堂々とパラセレネは言い切った。……あぁ、頭が痛い。
だから連れて来たく無かったんだよなぁ。――で、ルナは取り乱すかと思ったのだが、そうでもなく、毅然とした態度で反論した。久しぶりの皇女の顔になったな。
「パラセレネさん。海人様は、わたしと婚約中です。申し訳ございませんが、この話は無かった事に」
「なるほど、まだという事は……婚約破棄も可能という事ですよね。なら、まだいいではありませんか」
動じる事無く冷静にパラセレネは食らいつく。……やっぱりなぁ、彼女は諦めが悪いとトニーから聞いていた。だから、一対一で何とかしようと思っていたんだ。だからと言って、ルナに心配を掛けるという選択も出来なかった。
俺は、ルナには正直でありたいから。
「こ、婚約破棄だなんてしませんよ。ね、ねえ、そうでしょう……海人様」
めっちゃ震えてるー!
ルナの手も足もぷるぷると震えていた。そんな子猫みたいに震えられると……俺の心がズキズキと痛む。ここのままいけない。
俺もハッキリと物申した。
「ええ、そうです。俺はルナと婚約を交わしています。婚約破棄なんて、これっぽちも考えていません。なので、レベル売買のみ対応させて戴きます」
……ふぅ。汗を掻きまくって、心臓もバックンバックンだけど、なんとか言えたぞ。頑張った、俺。
これでパラセレネは諦めてくれるだろうと――思った。……だが。
「ふぅん、それで?」
「「「……!?」」」
俺もルナも、ついでにトニーも顔を合わせた。ぽかーんとした表情で。まったく諦めるつもりはないらしい。これは参ったな。
「それでって……。言ったでしょう、婚約は破棄できません」
「カイトさん。そう仰るのなら、イルミネイトもフレッサー商会も潰れますよ。貴方だけでなく、ご友人のお店が消えてなくなっちゃうんです。そんなの心苦しいでしょう」
にやっとパラセレネは不敵に笑う。
「な、なんだって? どういう事です」
「この『N地区』は、ピルグリメッジ家の管轄エリアなのです。つまり、管理権限がありますの。やろうと思えば、追放とかも可能なんですよ」
マジかよ。ピルグリメッジ家って、そんな権限があったのかよ。知らなかった。
「そうだったのか。トニー」
「ええ、彼女の家は七つの貴族の候補でもあったんです。ですが、結局は加えられなかった。その代わりに『N地区』の管理を任された、という過去があったんです。だから、現在もこの地区は、ピルグリメッジ家が管理しているのです」
くっ、権力の横暴だぞ。こんな事が許されるはずがない……そんな事で俺とルナの関係が引き裂かれてたまるかッ。
そんなルナも即座に反応し、怒りを滲ませてこう言った。
「……パラセレネ・ピルグリメッジ、よく判ったのですよ。その傍若無人な振舞いは大変許しがたい。もしもお店を潰すような行為をされるなら、こちらも相応のお返しをさせて戴きます。ご覚悟を」
「へぇ、メイドの分際で言うじゃないですか。いいですよ、貴女のような、たかがメイドなんかに何も出来る筈がないじゃない。今に見てなさい、この店もイルミネイトもおしまいよ」
散々悪態をつくと、パラセレネは立ち上がった。そして、あろう事か飲みかけの紅茶をルナにぶっ掛けようとしたので、俺がそれを被った。
「…………あぁ」
「海人様! ……っ。パラセレネ、貴女という人は……」
「ふんっ。ざまぁないわね、その方がお似合いよ」
舌打ちして彼女は足早に去った。
あぁ……クソ、ソレイユから貰った紳士服が汚れちまった。これは、怒られるなぁ……。でも、ルナが無事で良かった。あの綺麗な顔に火傷でもされたら、俺は立ち直れない。
「ルナ、ケガはないな」
「そこは逆ですよ。海人様、今、お拭きしますね」
ルナは、清潔なハンカチを取り出し、俺の服を丁寧に拭いてくれる。やっぱり、ルナがいてくれて良かったな。
それにしても、パラセレネ・ピルグリメッジか……どうしたもんかね。いや、案外そんな苦労せずに問題を解決できるかもな。彼女は、ルナが皇女だって知らなかった。
勝利の女神はいつだって微笑んでいるらしい。
――いや、月の女神様かな。
その女性に、ルナが真っ先に反応した。
「……あの、この御仁は?」
「紹介しましょう。僕のお得意様で……」
トニーが紹介する前にも彼女は静かに立ち上がり、赤い瞳を向けた。ルナに勝るとも劣らない美しい瞳だ。
「はじめまして、わたくしはパラセレネ・ピルグリメッジ。中流階級の貴族ですので、あまり目立つ存在ではありませんが、よろしくお願いします」
彼女の紹介が終わると、トニーが着席を促しながらも――やや困り顔で補足を入れる。俺とルナは椅子に座って対面する。
「そういうわけです。彼女はピルグリメッジ家の侯爵令嬢。――で、ここからが肝心でして、僕のレベル売買の優先権をパラセレネ様に譲渡しましたので、彼女を優先させたくご紹介した次第なのです。それと……実は、カイトもご所望なのです……」
と、懸案事項をトニーは心苦しそうに口にした。汗が凄いぞ。俺もだが。
「……はい?」
首を傾げて俺を不安気に見つめるルナさん。……段々と理解し始めているようで、俺の左手をぎゅっと握る。……うぅ。
「わたくしは、全てのレベルとカイト様も欲しいのです。つまりですね、婚約を結んで頂きたいんです」
なんの躊躇いもなく、皇女を前に堂々とパラセレネは言い切った。……あぁ、頭が痛い。
だから連れて来たく無かったんだよなぁ。――で、ルナは取り乱すかと思ったのだが、そうでもなく、毅然とした態度で反論した。久しぶりの皇女の顔になったな。
「パラセレネさん。海人様は、わたしと婚約中です。申し訳ございませんが、この話は無かった事に」
「なるほど、まだという事は……婚約破棄も可能という事ですよね。なら、まだいいではありませんか」
動じる事無く冷静にパラセレネは食らいつく。……やっぱりなぁ、彼女は諦めが悪いとトニーから聞いていた。だから、一対一で何とかしようと思っていたんだ。だからと言って、ルナに心配を掛けるという選択も出来なかった。
俺は、ルナには正直でありたいから。
「こ、婚約破棄だなんてしませんよ。ね、ねえ、そうでしょう……海人様」
めっちゃ震えてるー!
ルナの手も足もぷるぷると震えていた。そんな子猫みたいに震えられると……俺の心がズキズキと痛む。ここのままいけない。
俺もハッキリと物申した。
「ええ、そうです。俺はルナと婚約を交わしています。婚約破棄なんて、これっぽちも考えていません。なので、レベル売買のみ対応させて戴きます」
……ふぅ。汗を掻きまくって、心臓もバックンバックンだけど、なんとか言えたぞ。頑張った、俺。
これでパラセレネは諦めてくれるだろうと――思った。……だが。
「ふぅん、それで?」
「「「……!?」」」
俺もルナも、ついでにトニーも顔を合わせた。ぽかーんとした表情で。まったく諦めるつもりはないらしい。これは参ったな。
「それでって……。言ったでしょう、婚約は破棄できません」
「カイトさん。そう仰るのなら、イルミネイトもフレッサー商会も潰れますよ。貴方だけでなく、ご友人のお店が消えてなくなっちゃうんです。そんなの心苦しいでしょう」
にやっとパラセレネは不敵に笑う。
「な、なんだって? どういう事です」
「この『N地区』は、ピルグリメッジ家の管轄エリアなのです。つまり、管理権限がありますの。やろうと思えば、追放とかも可能なんですよ」
マジかよ。ピルグリメッジ家って、そんな権限があったのかよ。知らなかった。
「そうだったのか。トニー」
「ええ、彼女の家は七つの貴族の候補でもあったんです。ですが、結局は加えられなかった。その代わりに『N地区』の管理を任された、という過去があったんです。だから、現在もこの地区は、ピルグリメッジ家が管理しているのです」
くっ、権力の横暴だぞ。こんな事が許されるはずがない……そんな事で俺とルナの関係が引き裂かれてたまるかッ。
そんなルナも即座に反応し、怒りを滲ませてこう言った。
「……パラセレネ・ピルグリメッジ、よく判ったのですよ。その傍若無人な振舞いは大変許しがたい。もしもお店を潰すような行為をされるなら、こちらも相応のお返しをさせて戴きます。ご覚悟を」
「へぇ、メイドの分際で言うじゃないですか。いいですよ、貴女のような、たかがメイドなんかに何も出来る筈がないじゃない。今に見てなさい、この店もイルミネイトもおしまいよ」
散々悪態をつくと、パラセレネは立ち上がった。そして、あろう事か飲みかけの紅茶をルナにぶっ掛けようとしたので、俺がそれを被った。
「…………あぁ」
「海人様! ……っ。パラセレネ、貴女という人は……」
「ふんっ。ざまぁないわね、その方がお似合いよ」
舌打ちして彼女は足早に去った。
あぁ……クソ、ソレイユから貰った紳士服が汚れちまった。これは、怒られるなぁ……。でも、ルナが無事で良かった。あの綺麗な顔に火傷でもされたら、俺は立ち直れない。
「ルナ、ケガはないな」
「そこは逆ですよ。海人様、今、お拭きしますね」
ルナは、清潔なハンカチを取り出し、俺の服を丁寧に拭いてくれる。やっぱり、ルナがいてくれて良かったな。
それにしても、パラセレネ・ピルグリメッジか……どうしたもんかね。いや、案外そんな苦労せずに問題を解決できるかもな。彼女は、ルナが皇女だって知らなかった。
勝利の女神はいつだって微笑んでいるらしい。
――いや、月の女神様かな。
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