上 下
196 / 308

【196】 月と太陽の父

しおりを挟む
「――そう、でしたか」

 イルミネイト帰宅早々、ルナに問い詰められてしまい……俺は詳しく話した。


「ごめん。こんなつもりじゃなかった。心配掛けたよな」
「ええ、とても心配しました。カイト様、ソレイユ……無事で良かったです」


 怒るというよりは、ルナはかなり心配してくれた。そんな泣きそうな顔されると、心が痛かった。いかんな、こんなに心配を掛けてしまうとは、俺はまだまだだな。


「あたしもごめん。まさかエルドラードのヤツに襲われるとは思わなかったの……。でも、思えばあのエーデルが奇襲を仕掛けて来た時から警戒しておくべきだった」


 申し訳ないと反省するソレイユ。
 こんな彼女を見るのは初めてだ。


「無事で何よりです。ところで、ワンダが来られたのですが……」
「ああ、昨日、トニーのフレッサー商会へ行ったんだよ。そしたら、ワンダがやって来てね。俺がイルミネイトを進めたんだよ。今、いるんだよな」

「ええ、客室です。ワンダもリーベもまだ寝ているかと」


 あの後、イルミネイトに来てルナと合流したようだな。なるほど、二階の客室か。あそこは、いっぱい空きがあるからな。


「そうか。あ、珈琲コーヒーくれないか。頭がスッキリしなくてね」
「ええ」


 ちょうど淹れてくれたのか、準備万端だった。カップを受け取り、香りと味を楽しんだ。……苦うまい。朝の珈琲コーヒーは最高だな。


「カイト、ルナ。あたしは部屋に戻るわね。シャワーも浴びたいし、ミーティアの様子も気になるから」

「分かった。ちゃんと寝るんだぞ」
「ええ、カイトも寝なさいよね」


 手を振って別れた。


「……」


 ルナと二人きりになって、少し沈黙。


「怒っていませんよ」
「ルナ……」

 近寄って来るルナは、俺の頭を包み込んでくれた。
 良い匂いとかに癒されて、俺は眠くなった。


「いいのですよ、このまま寝ても」
「…………ルナ、俺」


 うとうとしていれば、俺は自然とまぶたを閉じ――眠ってしまっていた。これは、寝心地が良すぎる。なんて、贅沢な、揺り籠。


 ◆


『――――海人かいと。起きろ、明父あぢち 海人かいと


 じいさんの声がした。
 ああ、じっちゃんか。


「海人。転寝うたたねはいいが、その先はがけだぞ」

「――へ、うあああああああッ!」


 目の前は断崖絶壁。

 底が見えない奈落だった。深淵だった。
 深淵を覗く時、深淵もまたこちらをうんたらかんたらだった。ああ、もうパニック状態で、そんなアホな思考しか出来なかった。なんだこれ、なんの夢だこれ!


「――って、その顔。パラディ・アプレミディ卿!?」
「あぁん? ワシはそんな名ではないぞ、海人」

「いやだって……ああ、そうか、これは夢なんだ」

「夢ぇ? なにを寝惚けている……。まあよかろう」


 まあよかろうって……あれ。
 いつの間にか場面が反転していた。
 風景が変わった。


「えっと……今度はどこ?」


『海人。ワシを許せ……お前を死なせたのは……ワシじゃ。苦しかったろう、苦しかったろう……すまん、海人。だが、月と太陽が必ずお前を導く――』



 ――――ごぼごぼと溺れていた。


 ――――あぁ、俺、海で溺れ死んだんだ。



 じっちゃんと夜釣りに出ていた。
 あの時、ブラッドムーンで視界は良好だったのにも関わらず、俺は足を滑らせて――。ああ、だから苦しかったんだ。


 ・
 ・
 ・


『……カイト、お前は幸せになれ。何もかもを忘れ――召喚に従い、アステリズムへ向かうのだ』


「――え」


『幸せになれ、幸せに――』


「まってくれ、じっちゃん……! 頼む! 俺の話を聞いてくれ……!」


『――幸せに』


「うぉい! クソジジイ! いい加減にしろ!」


『……まったく、カイト。ここは今生の別れのシーンだ。ギャクマンガみたく水を差すんじゃない! お前の記憶に齟齬そごが出てしまうだろうに』


「うっせーよ!? なにしてんだよ、そんな大賢者のカッコで!」


『孫の幸せを願って何が悪い。お前の死に償う為、私はこの世界・アステリズムへと繋いだのよ。……ああ、身勝手なのは分かっておる。じゃが、それでもお前に幸せになって欲しかった』


「だからって、人が寝ている間に何やってんだよ。俺は十分幸せだよ。ありがとな、じっちゃん」


 そうさ。
 この世界で俺は幸せを掴んだ。
 ルナやソレイユ、ミーティアと出逢った。
 素敵なお客さんと出逢った。


『まさか礼を言われるとはな。まあよい、カイト、いずれまた詳しい事を話そう。今回は、お前の夢を利用させて貰った。すまなかったな』


「いやいいさ。まさかパラディ・アプレミディ卿がじっちゃんとは思わなかったけどな。また、釣り行こうぜ」

『それは勘弁してくれ。トラウマでね』


 ――じっちゃんの気配は消えた。
 俺はそれから目を覚ました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

処理中です...