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【182】 変身スキル(ルナ視点)

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 臣下しんかの中に裏切者がいた。

 わたしに向けられた凶器ナイフが腹部へ到達する寸前――ノエルの凄まじい剣閃けんせんが凶弾を叩き落とし――事なきを得た。

「ルナ様、お怪我けがは……」
「問題ない、おかげで助かった。それより、ヤツは……」

 短剣を放った男は、わたしの暗殺を企てていたのだろう。それが失敗に終わり、歯ぎしりしていた。

「……おのれ、騎士団長ノエルめ」
「そこの貴様、皇帝陛下の臣下ではないな。その完璧にして高度な変身スキル……これは、まさか」

 男がクスクスと笑い、その身体をうねらせた。


「そうさ……」


 臣下と思われていた男の姿が変化していき、そこに白髪の若い男が現れた。裏切者ではない――ノエルの言う通り、本当に変身・・していたのか。

 不健康なまでの白い肌。碧い瞳。
 あの独特の青い軍服……ブルームーンの物だ。


「なっ!?」


 他の者や騎士達も驚く。皇帝陛下も、このわたしでさえも驚いた。まさか、あの【共和国・ブルームーン】の将軍が化けていたのだから。


「はじめまして、皆様。大監獄・ベイリービーズ脱獄記念に軽い挨拶に参りました。そうです。この俺こそベルガマスク・セルリアン様さ」


 この男が……。
 かつてアズールに感じた嫌悪感が生まれる。どうやら、ブルームーンに近しい者に対し、わたしは相性が最悪らしい。


「皇女の暗殺を考えていましたが……気が変わった。ルナ、貴女は息を呑むほどお美しい……いつか、俺のモノにして差し上げましょう。では、俺は捕らえられる前に退散を」


 ベルガマスクは不敵な笑みを浮かべ、去ろうしたが――ノエルがこの一瞬で彼の間合いに入り、剣先で突いた。


「――――たァッ!」
「…………くぅッ!」


 それは光の速さであり、目でとらえる事は叶わなかった……これが彼女の神速か。だが、ノエルの剣は『青い光』によってはばまれた。あの男の全身が青に包まれていたのだ。


「――――ベルガマスク、貴様」

「……ふん。なんの対策も無しに来る筈がないだろう。特に騎士団長殿、貴女は危険だ。とはいえ、何れ決着をつけましょう。今日はただの戯れ。戦場は、クラウソラス高原です。また会いましょう」


 男のあれは、星力テアか……。いや――違う。別の魔力を感じた。ベルガマスクは腹部を押さえ、その次の瞬間には姿を消していた。


 これは『パライバトルマリン』をふんだんに使用し、膨大な魔力を出力とした上位の防御魔法と空間転移テレポート。そうでなければ、ノエルの犀利さいりな剣により、ベルガマスクの腹には、大穴が穿うがたれていただろう。


「逃がしたか……。大変申し訳ございません……皇帝陛下。ヤツを取り逃がしてしまいました……」


 ひざをつき、こうべを垂れるノエル。失態に深い責任を感じていた。


「良い。我が騎士ノエルよ、娘を兇弾きょうだんから守ってくれた礼を言おう。それに、あのほんの僅かな時間で、ベルガマスク・セルリアンに一太刀を浴びせていた。この余の目には、しかと映っていた」


「皇帝の眼……『インペリアルアイ』でございますね」


「――そうだ。我が目は高速の物体を捉える力がある。よってノエルよ、お前の処分は不問とする。其方そなたは変わらず帝国の為に尽力せよ」

「……万謝致します、陛下」


 ノエルは、いつの間にか一撃を与えていたようだ。そうか――それでベルガマスクは、若干の苦悶くもんを見せ、腹部を押さえていたのか。さすが、騎士団長。賞賛に値する。


 皇帝陛下は、父親としての心配顔でわたしを見据えた。そのような表情を向けられたのは、幼少以来だろう。


「ルナよ、脅威が迫っておる。オルビスに留まるのだ。お前の身が心配だ」

「いいえ、わたしは歩みを止めません。それをすれば、わたしは、わたしでなくなる。最期の瞬間まで愛する人の傍にいたいのです」


「意志は固いのだな――――分かった。ルナ、その愛した男……カイトをいつの日でも良い、必ず父に逢わせてくれ。話は以上だ」


 ベルガマスク・セルリアン本人が登場し、複数が目撃した以上は、誰もカイト様を疑わない。彼の疑いは見事に晴れた。


 ノエルも、カイト様の疑いを必ず晴らすと固く約束してくれた。


 カイト様……。
 これでやっと愛する貴方の元へ戻れます。
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