182 / 308
【182】 変身スキル(ルナ視点)
しおりを挟む
臣下の中に裏切者がいた。
わたしに向けられた凶器が腹部へ到達する寸前――ノエルの凄まじい剣閃が凶弾を叩き落とし――事なきを得た。
「ルナ様、お怪我は……」
「問題ない、お陰で助かった。それより、ヤツは……」
短剣を放った男は、わたしの暗殺を企てていたのだろう。それが失敗に終わり、歯ぎしりしていた。
「……おのれ、騎士団長ノエルめ」
「そこの貴様、皇帝陛下の臣下ではないな。その完璧にして高度な変身スキル……これは、まさか」
男がクスクスと笑い、その身体をうねらせた。
「そうさ……」
臣下と思われていた男の姿が変化していき、そこに白髪の若い男が現れた。裏切者ではない――ノエルの言う通り、本当に変身していたのか。
不健康なまでの白い肌。碧い瞳。
あの独特の青い軍服……ブルームーンの物だ。
「なっ!?」
他の者や騎士達も驚く。皇帝陛下も、このわたしでさえも驚いた。まさか、あの【共和国・ブルームーン】の将軍が化けていたのだから。
「はじめまして、皆様。大監獄・ベイリービーズ脱獄記念に軽い挨拶に参りました。そうです。この俺こそベルガマスク・セルリアン様さ」
この男が……。
かつてアズールに感じた嫌悪感が生まれる。どうやら、ブルームーンに近しい者に対し、わたしは相性が最悪らしい。
「皇女の暗殺を考えていましたが……気が変わった。ルナ、貴女は息を呑むほどお美しい……いつか、俺のモノにして差し上げましょう。では、俺は捕らえられる前に退散を」
ベルガマスクは不敵な笑みを浮かべ、去ろうしたが――ノエルがこの一瞬で彼の間合いに入り、剣先で突いた。
「――――たァッ!」
「…………くぅッ!」
それは光の速さであり、目で捉える事は叶わなかった……これが彼女の神速か。だが、ノエルの剣は『青い光』によって阻まれた。あの男の全身が青に包まれていたのだ。
「――――ベルガマスク、貴様」
「……ふん。なんの対策も無しに来る筈がないだろう。特に騎士団長殿、貴女は危険だ。とはいえ、何れ決着をつけましょう。今日はただの戯れ。戦場は、クラウソラス高原です。また会いましょう」
男のあれは、星力か……。いや――違う。別の魔力を感じた。ベルガマスクは腹部を押さえ、その次の瞬間には姿を消していた。
これは『パライバトルマリン』をふんだんに使用し、膨大な魔力を出力とした上位の防御魔法と空間転移。そうでなければ、ノエルの犀利な剣により、ベルガマスクの腹には、大穴が穿たれていただろう。
「逃がしたか……。大変申し訳ございません……皇帝陛下。ヤツを取り逃がしてしまいました……」
膝をつき、頭を垂れるノエル。失態に深い責任を感じていた。
「良い。我が騎士ノエルよ、娘を兇弾から守ってくれた礼を言おう。それに、あのほんの僅かな時間で、ベルガマスク・セルリアンに一太刀を浴びせていた。この余の目には、しかと映っていた」
「皇帝の眼……『インペリアルアイ』でございますね」
「――そうだ。我が目は高速の物体を捉える力がある。よってノエルよ、お前の処分は不問とする。其方は変わらず帝国の為に尽力せよ」
「……万謝致します、陛下」
ノエルは、いつの間にか一撃を与えていたようだ。そうか――それでベルガマスクは、若干の苦悶を見せ、腹部を押さえていたのか。さすが、騎士団長。賞賛に値する。
皇帝陛下は、父親としての心配顔でわたしを見据えた。そのような表情を向けられたのは、幼少以来だろう。
「ルナよ、脅威が迫っておる。オルビスに留まるのだ。お前の身が心配だ」
「いいえ、わたしは歩みを止めません。それをすれば、わたしは、わたしでなくなる。最期の瞬間まで愛する人の傍にいたいのです」
「意志は固いのだな――――分かった。ルナ、その愛した男……カイトをいつの日でも良い、必ず父に逢わせてくれ。話は以上だ」
ベルガマスク・セルリアン本人が登場し、複数が目撃した以上は、誰もカイト様を疑わない。彼の疑いは見事に晴れた。
ノエルも、カイト様の疑いを必ず晴らすと固く約束してくれた。
カイト様……。
これでやっと愛する貴方の元へ戻れます。
わたしに向けられた凶器が腹部へ到達する寸前――ノエルの凄まじい剣閃が凶弾を叩き落とし――事なきを得た。
「ルナ様、お怪我は……」
「問題ない、お陰で助かった。それより、ヤツは……」
短剣を放った男は、わたしの暗殺を企てていたのだろう。それが失敗に終わり、歯ぎしりしていた。
「……おのれ、騎士団長ノエルめ」
「そこの貴様、皇帝陛下の臣下ではないな。その完璧にして高度な変身スキル……これは、まさか」
男がクスクスと笑い、その身体をうねらせた。
「そうさ……」
臣下と思われていた男の姿が変化していき、そこに白髪の若い男が現れた。裏切者ではない――ノエルの言う通り、本当に変身していたのか。
不健康なまでの白い肌。碧い瞳。
あの独特の青い軍服……ブルームーンの物だ。
「なっ!?」
他の者や騎士達も驚く。皇帝陛下も、このわたしでさえも驚いた。まさか、あの【共和国・ブルームーン】の将軍が化けていたのだから。
「はじめまして、皆様。大監獄・ベイリービーズ脱獄記念に軽い挨拶に参りました。そうです。この俺こそベルガマスク・セルリアン様さ」
この男が……。
かつてアズールに感じた嫌悪感が生まれる。どうやら、ブルームーンに近しい者に対し、わたしは相性が最悪らしい。
「皇女の暗殺を考えていましたが……気が変わった。ルナ、貴女は息を呑むほどお美しい……いつか、俺のモノにして差し上げましょう。では、俺は捕らえられる前に退散を」
ベルガマスクは不敵な笑みを浮かべ、去ろうしたが――ノエルがこの一瞬で彼の間合いに入り、剣先で突いた。
「――――たァッ!」
「…………くぅッ!」
それは光の速さであり、目で捉える事は叶わなかった……これが彼女の神速か。だが、ノエルの剣は『青い光』によって阻まれた。あの男の全身が青に包まれていたのだ。
「――――ベルガマスク、貴様」
「……ふん。なんの対策も無しに来る筈がないだろう。特に騎士団長殿、貴女は危険だ。とはいえ、何れ決着をつけましょう。今日はただの戯れ。戦場は、クラウソラス高原です。また会いましょう」
男のあれは、星力か……。いや――違う。別の魔力を感じた。ベルガマスクは腹部を押さえ、その次の瞬間には姿を消していた。
これは『パライバトルマリン』をふんだんに使用し、膨大な魔力を出力とした上位の防御魔法と空間転移。そうでなければ、ノエルの犀利な剣により、ベルガマスクの腹には、大穴が穿たれていただろう。
「逃がしたか……。大変申し訳ございません……皇帝陛下。ヤツを取り逃がしてしまいました……」
膝をつき、頭を垂れるノエル。失態に深い責任を感じていた。
「良い。我が騎士ノエルよ、娘を兇弾から守ってくれた礼を言おう。それに、あのほんの僅かな時間で、ベルガマスク・セルリアンに一太刀を浴びせていた。この余の目には、しかと映っていた」
「皇帝の眼……『インペリアルアイ』でございますね」
「――そうだ。我が目は高速の物体を捉える力がある。よってノエルよ、お前の処分は不問とする。其方は変わらず帝国の為に尽力せよ」
「……万謝致します、陛下」
ノエルは、いつの間にか一撃を与えていたようだ。そうか――それでベルガマスクは、若干の苦悶を見せ、腹部を押さえていたのか。さすが、騎士団長。賞賛に値する。
皇帝陛下は、父親としての心配顔でわたしを見据えた。そのような表情を向けられたのは、幼少以来だろう。
「ルナよ、脅威が迫っておる。オルビスに留まるのだ。お前の身が心配だ」
「いいえ、わたしは歩みを止めません。それをすれば、わたしは、わたしでなくなる。最期の瞬間まで愛する人の傍にいたいのです」
「意志は固いのだな――――分かった。ルナ、その愛した男……カイトをいつの日でも良い、必ず父に逢わせてくれ。話は以上だ」
ベルガマスク・セルリアン本人が登場し、複数が目撃した以上は、誰もカイト様を疑わない。彼の疑いは見事に晴れた。
ノエルも、カイト様の疑いを必ず晴らすと固く約束してくれた。
カイト様……。
これでやっと愛する貴方の元へ戻れます。
0
お気に入りに追加
667
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる