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【170】 共和国・ブルームーンの将軍

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 いったい何が起ころうとしている。


 俺が謎の人物、ベルガマスク・セルリアン?
 ……何をどうしたら間違えるんだよ。


 この【帝国・レッドムーン】で商売を始めて、もう一月ひとつきが経過したというのに。


「カイト様、ベルガマスク・セルリアンは【共和国・ブルームーン】の将軍です。有名な武人ぶじんなので、わたしもその名くらいは聞きおよんでおります」

「マジか。将軍って、かなりの地位じゃないか」


 知らなかったというか、俺は商人・・だ。戦争とは無縁の生活を送っていたからな、オービット戦争に関してはうとかった。

 それにしても、その有名将軍とやらと間違えられているって、おかしいだろう。人違いにも限度があるぞ。なんの冗談かと思っていると、ソレイユが落ち着きのない顔で言った。


「多分……誰かが偽情報を流しているのかも」
「なんだって?」
「でなければ、こんな事態にはならないでしょ」

 そこでソレイユが顔を近づけてきて、耳打ちしてきた。……近くで見ると、その肌質は恐ろしい程にうるおいがあった。いや、それはいいか……。

「ねぇ、カイト」
「なんだ」
「こんな風に思いたくはないのだけど、これってブラック卿の陰謀いんぼうとかじゃないかしら」


「まさか……」


 確かに、ヤツは『計画』と言っていた。
 仮にだ。仮にその計画がまだ続いているというのなら……あり得る話かもしれない。現在、ブラック卿はオルビス騎士団に捕まっているはず。直に、大監獄へ送られるとソレイユから聞いたが……まだ何か裏があるのか?


「とにかく、イルミネイトは一旦閉めるのよ。何処どこかに身を潜めるの」
「何処かって何処に?」
「あたしの家でいいんじゃない」
「……ソレイユの? それはつまり『エクリプス家』へ?」
「そうよ。かくまってあげる」


 そういえば、まだこの世界に来たばかりの頃、俺は『エクリプス家』で過ごしていたような、ぼんやりとした記憶があった。だが、その記憶は、ブラック卿によって記憶を消されたせいで、ほんのわずかにしか覚えていなかった。

 ――いないが、彼女の家に向かえば何か思い出せるかも。それもあるし、この状況ではどのみちイルミネイトで商売はしばらく無理だ。


「ソレイユ、悪いが頼む」
「仲間でしょ、良いって事よ。というわけよ、ルナもミーティアもいい?」


 ルナはうなずき、けれど何か気掛かりのようだった。


「構いませんが……。しかし何故、カイト様がベルガマスク・セルリアンと認識されているのか不思議でなりません。わたしは一度『オルビス』に戻り、父の……皇帝陛下のもとをたずねたいと思います」


「俺からも頼む」


「ええ、カイト様の嫌疑けんぎは直ぐに晴れるでしょう。といいますか、このような暴挙……わたしが許しません……」


 皇女の顔になるルナ。
 怒りがにじみ出ていた。

 本来ならゆっくりまったり出来ると思った矢先だったからな。俺も瀬無せない気持ちでいっぱいだった。


「あとはミーティアだが」
「私もついて行きます。みんなと一緒にいたいので」


 決定だな。
 こんな事態にはなってしまったけれど、それでも外に出る事に変わりはない。少しでも気分転換になってくれると良いのだが。


 ◆


 イルミネイトの正面から出るのは危険すぎるという事で、店の裏口からコッソリ出た。今のところ気配はないが、騎士達が向かってくるかもしれない、という理由からだった。

 それははちわせたくないな。


「……問題なし、行きましょ」


 ソレイユが先導してくれた。
 周囲を警戒しながらも、エクリプス家を目指した。……無事に辿たどり着けるといいんだがな。

「ミーティアちゃん、手を」

 ルナがミーティアの小さな手をにぎった。
 今一番不安なのは、彼女だろうからな。

「ありがとう、ルナさん。あたたかい……」

 少し安心したのだろう、表情に若干じゃっかんの余裕が生まれていた。……さすがルナだ。シマープリーストの癒しの力は万能だな。……いや違うな、ルナだから安心出来るんだ。一緒ともに、そばにいてくれるだけで安寧あんねいを得られる。


 ルナは、当たり前にそこに居て、人の心をいやす月のような存在なんだ。だから、俺はそんな彼女が……好きなんだ。
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