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【156】 しあわせのカタチ

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 ×印が描かれまくっていた。

 イルミネイトの外壁には、赤いペンキで至るところ×のマークが刻まれていた。これは世界最強ギルドのエンブレムの印。今の帝国にとっては裏切ギルド。普通の庶民でもそれは認識済み。だから、こんなモンを見られれば関係者と思われても不思議ではない。既にジロジロと見られている。


「ひどい」


 悲しそうに口をつぐむルナ。


「これは最悪ね」


 ソレイユは、今にも飛び出して行きそうな程に拳を強く握り、怒りに満ちていた。


「……許せません」


 何もない所から杖を取り出し、ミーティアは隣の店に向けた。……それは、いかんと俺は彼女を抱きしめて静止した。


「カ、カイト……いきなり何をするのです」
「それはこっちのセリフだ。ミーティア、それはダメだ。破壊行為は何も生み出さない」
「……でも」
「いいんだ。直にその時はやって来る」


 だが、これは酷い。


「ここまでするか……テヒニク」


 ◆


 一週間後。


 その時・・・はついにやって来た。


 それまでも数々の営業妨害をされたが、こちらは耐えた。耐えきった……。


 食堂で俺とルナ、ミーティアは待っていた。
 ソレイユの帰りを。


 様子を見に行っていた、ソレイユが帰って来て結果を知らせてくれた。


「テヒニクの洋服店は破産したわ・・・・・


「「「――――――!!!」」」


 俺もルナもミーティアも顔を見合わせた。


「アイツの店は、お客が全く来なくなった。売り上げも激減して大赤字も大赤字。それどころか、負債が10億セル以上。返済もままならず、税金すら払えていない。間も無く潰れるみたいよ。――で、その借金が返済できないのと……実は、かなりの額の脱税・・も判明したみたい。だから、もう捕まったらしいわ」


 それを聞いて、俺は驚いた。


「脱税だって……!?」
「ええ、実はお菓子屋さんの知り合いっていうか、友達なんだけど、あの黒髪の店長覚えてる?」

「ああ、コティハの……」


 黒髪美人だったなあ。


「彼女は、セイブル・ナハト。ナハト家よ」


 ――と、その本人が扉の奥から現れた。
 来ていたのか。


「この前はお世話になりました、皆さん」


 黒髪ロングのお嬢様のような雰囲気を持ち、その服装も実にそれっぽい。清楚系の優しいお姉さんって感じだった。


「テヒニクの悪行は、ソレイユから全て聞きました。ですが、嫌がらせレベルとなると逮捕などは難しかったのです。そこで我が担当である国税局を動かし、彼を徹底的に調べ上げました。すると……脱税が判明したのです」


 それで逮捕にまで至ったらしい。
 閑古鳥となって、多額の負債を抱えたのもあるが、しかしそれよりも脱税で捕まっちまうとはな。


「そうか。ま、二重の意味でヤツに報いたな」


 俺はそう納得する事にした。


 ◆


 数日後。

 テヒニクの店、テンペラメントは文字通り潰れた。今は跡地となって、次のテナント募集をしているようだ。


「……勝った。ついに勝利したんだ、俺たち」


「長い道のりでしたが、無事に終わりましたね」

 すっかり笑顔を取り戻したルナは、上機嫌だった。今は紅茶を淹れてくれている。


「はぁ~…疲れたわ。アイツのせいで、散々だったし……ストレス凄かったわぁ。これでもう、アイツの顔は二度と見なくて済むのね」


 手をヒラヒラさせながらも、チョコを頬張るソレイユさん。あんなイライラしていた毎日だったのに、今はテーブルに足を乗せて爽やかに笑っている。ついでに言うと、スカート短いから見えそうだぞ!


「やっと元通りですね! これでレベルとかお金を求める冒険者も戻ってくると思いますし、商売も安定しますよね」


 そうだな。あれから売り上げは減って、ギリギリだ。トニーから借金もしてしまっている状況で、なかなかに危うい。けれども、俺だけの『レベル売買』というアドバンテージがある。


 これは、誰も・・真似できない・・・・・・ビジネス・・・・


 だから安定して稼げるのだ。


 頑張ろう。みんなを食わせていく為に。



 ◆



 次の日。
 本当の『レベル売買』の日々が始まった。

 一時期は、テヒニクに邪魔されて、まともな商売は出来なかったが、これでもう一安心。邪魔者はもういない。今度こそ稼ぎまくってやる。


 以前のイルミネイトとは、比べ物にならない風景が広がる五階の自室。朝早くベッドから起き上がろうとすると、何故か身動き出来なかった。


「……あれ」

「カイト様」


 動こうと思ったら、ルナに頭を抱きしめられていた。目の前には、フワフワする物体。なんか形をやたら変えるモノがあった。


「……って、これ!」
「おはようございます」

「お、おはよ……。あの、ルナ……」
「大変な時期が続き、こうする暇もなかったので」

 そう言って、ルナはもっとぎゅぅっとして来た。

 ……癒されるな。

 ルナは、優しくて、温かくて、柔らかくて……愛おしい。


 ――ああ、そうか。


 思えば、あの森林、小屋、セイフの街、そしてこの帝国・レッドムーンと長い時間を一緒に過ごしている。


 俺にとってルナは、なくてはならない存在。こうして、ゆっくりな時間も、嫌な事があっても俺の背中を支えてくれている。ずっとそばにいてくれる女の子。そう、皇女とかメイドとか立場とか地位とかそれほど重要ではなかった。


 ただ、大切な人が、皆がそこにいるだけで、俺は幸せなんだ――。
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