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【154】 勝利への一歩

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 N地区を練り歩けば、すぐに注目が集まる。
 ルナとソレイユは元からだが、俺も何だかんだ有名人になっていた。ミーティアも帝国で商売するようになってから知名度がアップしたようで、それなりに人気を獲得していた。

 そんな俺たちが少し顔を出せば、直ぐに握手を求められたり、歓声が上がる。


「カイトさん! またレベル売って下さいよ!」「わあ、メイドさん……美人すぎだろ。どこかの貴族?」「ソレイユ様は細身で美しいわぁ」「あのオッドアイは宝石のようだな」「ダークエルフちゃん、小さくてかわええのう」「ミーティア様だろ~」


 おぉ、これほど群衆から眼を向けられるとは、随分と顔が売れたものだ。だが、そんな優越感に浸っている場合ではない。

 俺はお客様に対し、お願いした。

「皆さん、協力して欲しいのですが」


 ◆


 あれから歩き回ってどんどん味方を増やしたのだが、噴水広場にとんでもない人だかりが密集する程になった。これはちょっとした集会だぞ。


 この300から500人の支持者達は、俺等の為に集まってくれたのだ。ならば、やるべき事は決まっている。俺は群衆の前に立ち、想いを叫んだ。


「どうか聞いて欲しいのです。我々は世界で唯一の『レベル売買』のお店を構えております。ですが、最近になって隣人のテヒニクという男が営業を妨害してくるのです。その嫌がらせは二週間にも及んでいる! このままではイルミネイトは潰れてしまうでしょう」


「なんだって……」「あのテヒニクが!」「そうか、あの金髪の男が……」「バリケードとか置かれていたよな」「ゴミとか凄かったぞ」「悪臭も酷かった」「イルミネイトは何も悪くないのに!」「そうだそうだ!」「このままじゃ、レベルアップ出来ないよ~」「お金だって稼げない」「カイトさん達のおかげで生活が出来ている冒険者もいるんだぞ!」「このままじゃ困る人は大勢いる」「テヒニクをぶっ倒そうぜ」「ああ、そうだ……みんなでやっちまえば怖くない」「そうだそうだ!!」


 ついに支持者の怒りも湧き上がって来た。


「なので、お客様の力を借りたい……!」


「っしゃあああああ!!」「テヒニクをぶっ殺せ!!」「ああ、ヤツを葬れば……」「血祭りにあげろぉぉぉ」「ヤツはギロチン送りだ!!」「いや、燃やす!!」「イノシシにでも喰わせろ」「みんなでブン殴ればいいだろ」


 などなど過激になって来ていた。
 みんな、怒り一色に染まる。
 いやだが、ただ痛い目に遭わせても意味はない。


「落ち着いて下さい、皆さん! どうか暴力での解決は避けて戴きたい。自分は商人ですから、商売を武器にテヒニクをぶっ潰したいと思います」


「おぉぉぉぉ……」「さすがカイトさんだな」「考え方が根本から違うな」「なるほど、商売でな」「だが、どうやって?」「難しそうだが」「直接攻撃した方が早いんじゃないのか?」「そうだ、ボコボコにすれば……」


 確かに暴力で解決すれば、手っ取り早いだろう。だが、それが最良な手段とは思わない。その先にあるのは破滅だ。因果応報という言葉ある通り、罰は自分に返ってくるのだ。なにかしらの形で必ずな。


 だからこそ、正々堂々の商売で勝負ってワケだ。俺は商人として、ヤツに勝利してみせよう。


「――なので、ここにいる皆さんには、洋服店・テンペラメントに対し、不買運動をお願いしたいのです!! それを此処に居ない方にも伝えて欲しい」


「なるほど!!」「すげぇ!!」「それは思いつかなかった……」「不買? つまり、買うなって事か」「そうか……あの店の服は買わなきゃいいんだな」「その手があったか」「家族に知らせよう!」「ああ、俺も」「私も!」「テンペラメントの服は買わねえ」「むしろ捨ててやる」「不買決定」


 ざわざわと民衆は口を揃えて『不買』を唱えた。これで、一気にお客さんはテンペラメントの服を買わなくなり、ヤツの店は営業不振に陥る。やがて、大赤字。倒産となる。これが、俺の考えたテヒニクをぶっ潰す最良の手段だ。

 この光景に、ルナは驚きと感心を示した。

「さすがカイト様。これは暴力的解決ではなく、あくまで純粋なお願いですから、それを実行するも実行しないもお客様次第ということ」

 その通りだ。

「やるわね、カイト。ここら一帯はイルミネイト側が多いし、テンペラメントの不買支持者でいっぱいになるわよ」

 腕を組み、満足気に頷くソレイユ。

「カイトは天才ですね。さすが世界一の商人です!」

 そう賞賛を受けた。
 ここまで褒め称えられると、さすがに照れるな。


 まあこれで勝利への一歩を踏み出しただろう。


 さあ、不買の効果……如何いかほどか!
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