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【152】 怒りの炎

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 トラモントは、ゾンターク家に戻るとかで静かに立ち去った。ありゃ、まるで別人だな。

「ルナ……知っていたか?」
「いえ、わたしは、貴族の名前だけを知識として持っていますが、貴族たちの家族構成とかまでは、存じ上げません」

 皇女とはいえ、そりゃそうか。
 ヤツは家族の身を考え、シャロウを脱退あるいは裏切ったらしい。今、あのギルドで何が起きている?


 ◆


 店を今度こそ閉じようとしたら、ヘンな男が滑り込んできた。……またか、と、俺はゲンナリする。

「……なんだぁ?」
「……ギリギリ間に合ったようだな。大男が居たせいで中々隙が無く、入れなかったが……立ち去ったのでな」

「あんた誰」

 見覚えのない金髪の男が店に入って来た。一歩間違えれば――いや、間違えなくても不法侵入である。床に滑り込んで来た男は頭を上げて俺を見た。


「この店のオーナーだな」
「ああ、それは俺だが……あんたは?」

「私は、この隣の洋服屋だ。高級ブランド店・テンペラメントを経営している、テヒニクというものだ」

「テヒニクさんね。で、何の用です」
「何の用だと!? 普通、隣人には挨拶をするものだろう! 一週間経っても挨拶ひとつもないとは、無礼であるぞ! ……だがまあいい、この店はイルミネイトだったか? 見たところ、かなり繁盛しているようだな」

「まあな」

「そこでだ。ウチの洋服店と提携ていけいしないかね。私と組めば、名が更に上がるし、儲かるぞ」

 ――そういう事か。提携ていけいは商売の基本ではあるけれど、俺は必要と感じなかった。なぜなら、十分に客、リピーターを獲得していたからだ。口コミも随分と広まったしな。だから、客とのバランスを取るために、今が丁度良かった。労働的にもな。


「申し訳ないですが、お引き取りを」


「なんだと! 貴様!! そこのメイドが美人だからと調子に乗っているのではないか!! もういい……こんなクソ店は潰れちまえ!!」


 散々悪態をついて、テヒニクは起き上がって去った。最後まで俺をにらんで。


「な、なんだったんだ、ありゃ……」
「あのお方は、少々危険かもしれませんね。隣人ではありますが、今後、嫌がらせとかなければ良いのですが……」

 ルナが心配する通り、この日以降、洋服店からの陰湿な嫌がらせが始まったのである……。まさか、ああなるとはな。


 ◆


 数日経って異変に気付く。
 まず、客が店に入って来ないよう、玄関前に無断でバリケードを設置された。それから、水やらゴミをかれた。悪臭が酷いし、これじゃあ客も来ない。


 そして……
 日に日にエスカレートしていった。


 ペンキで落書き、投石……。
 おのれ……テヒニク!


「カイト! あの嫌がらせは何!」

 さすがにブチギレるソレイユ。
 まゆひそめて、ご機嫌斜め。
 その気持ちは分かる。

「そうですよ、おかげで客足は以前よりも遠のいて、一日十人以下の対応にまで落ち込みました。このままではお店の存亡が!」

 ミーティアも困惑して焦る。


 さすがの俺も我慢の限界だった。
 営業妨害だぞ、これは!!


 怒りに燃えていると、ルナが俺の肩に手を置いた。

「カイト様、落ち着いて」
「お、おう」

 そうだな。商人たるもの、常に冷静でなければ……。だが、あの男に復讐・・せねば、気が収まらない。売り上げがかなり減ってしまったしな!


 ああ……。


 普段は温厚である俺も、さすがに怒りのボルテージが天を突き破った。商売の事となれば、話は別。あの洋服店をぶっ潰してやる!!


 もちろん合法的・・・にな。
 覚悟しろ、テヒニク。
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