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【143】 黄金の鍵

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「カイトくん、ウチの馬鹿息子がすまなかったね」


 アフロの頭を下げ、謝罪するオーナー・ブリックさん。まさか、彼の息子だったとはな。


「大丈夫ですよ。彼はただ、ソレイユを騎士団へ戻そうと必死だったのです」


 とまあ、俺はそれっぽくフォローしておいた。
 これ以上のトラブルは避けたかったからな。


「だが……分かった。そう言うのなら」


 渋々と納得して、オーナーはアンハルトの方へ向かった。道端に落ちている彼を拾いに行くようだ。ラズベリーも心配になったのだろう、向かった。


「……仕方ないな。ミーティア、回復ポーションあるか」
「え……まさか、敵に施しを?」
「そのまさかだ。あんなでもラズベリーの兄だからな。それに、オルビス騎士団のひとり。敵ではないよ。本当の敵は、共和国・ブルームーンだろう?」
「それはそうですが……カイトは優しすぎです!」


 むぅっと、納得いかない様子。
 気持ちは分かる。俺も嫌な思いはしたし、でも、ここはお世話になっている宿屋だ。

「頼む」
「も~」

 嫌々ながらもミーティアは、ポケットから試験管タイプの携帯型ポーションを取り出した。黄色い液体が入っているから、イエローポーション。単価にして『5,000セル』という高価な回復アイテムだ。


 なぜ高いかと言うと、携帯性に優れる、重量が殆どないというだけの単純な理由だ。勿論もちろん、回復力もかなりある。


 因みに、ルナのグロリアスヒールという、もっと早い手もあるのだが、そんな有難すぎるヒールを、あのアンハルトにさせるワケがない。なので、ポーションで妥協だきょうなのだ。


 後はミーティアに任せた。


「カイト、アンハルトは……また嫌がらせしてくると思う。あたしを騎士団へ戻そうと接近してくる……なら、あたし……」


 ソレイユは顔をくもらせ、うつむく。


「させるわけない。なあ、ルナもそう思うよな」
「ええ。ソレイユは自由ですから」


 ルナは、躊躇ためらいもなく肯定こうていして、ソレイユに言葉を掛けた。


「確かに今は戦時中ですから、貴女の力を求める者は多い。皇帝陛下の命もありましょう。ですが、それでも、ソレイユはわたしの友であり、騎士なのです」


 語気を強め、自信を持って言い切った。


「ありがとう。でも……今頃、クレールとアメリアが。ううん、でもあの子達も賛同してくれたから、そうね。あたし、イルミネイトで頑張りたい」


 あの吹っ切れた顔。
 決心がついたようだな。

 きっと大丈夫。
 帝国・レッドムーンは赤い月・・・に守られている。


 ◆


 新しいイルミネイトをオープンさせる為、親友のトニーに任せたワケなのだが――さて、そろそろ候補地が決まった頃合いだろうか。


 フレッサー商会ヘ向かった。


 相変わらず、道中での注目度は抜群。
 ルナとソレイユは声を掛けられまくり。
 主に男から。

 いちいち払いのけるのが面倒だなぁ。


「到着ですね」


 深緑の瞳を俺に向け、柔らかい口調のミーティアは機嫌が良さそうだった。


「どうした、良い事あったか」
「その真逆です。私はナンパゼロですから……」


 気にしていたのか!

 まー…ミーティアは、背も低いし、ロリっ子だからな。ぱっと見は子供にしか見えないし。でも、金髪セミロングだぞ。ワンピース姿だし、何よりも種族は『ダークエルフ』。ハーフなせいか、肌は真っ白で美しい。こんな可愛いのになぁ。


「あの……カイト?」
「いや、入ろう」


 建物の中へ入ると、トニーが迎えてくれた。

「ようこそ、我が友!」
「おっす、トニー。今日もスーツが決まってるな」
「ええ、帝国最高ブランドですからね。なんと言っても、僕のお店ですよ~わははは」

 と、豪快に笑うトニー。そういえば、洋服店もやってたな。……ふむ、洋服か。たまには違う服を着るかな。

「ところで、イルミネイト候補地は?」
勿論もちろん、既に準備済みですよ」

「マジか!」
「マジです」

 真剣な顔でトニーは『黄金の鍵ゴールドキー』を取り出した。


「わぁ……金色に輝いていますね」


 そのキラキラ輝く鍵にうっとりするルナ。やっぱり、宝石とか好きなのかな。


「なにその鍵。凄いわね」


 腕を組むソレイユも、その鍵に注目した。
 ミーティアもすっかりとりこに。


「この鍵は?」
「よくぞ聞いてくれました、カイト。これはですね、N地区の一等地にある元『エルドラード』ギルドの建物です」


「……ギルド・エルドラード!?」


 ――ま、まて……。


「それって!!」
「ええ、彼らは『シャロウ』と同盟・・を組んでいました。その事実が最近になって発覚しましてね……追放されたのです」

「つ、追放だって? いつの間に……でも、待てよ。彼らはセイフの街で協力してくれたじゃないか」

 そう、あの襲撃事件。
 バオがイルミネイトを放火したアレだ。

 あの時、ギルド『エルドラード』は確かに俺たちの味方だった。

「そうです。あの時までは味方だった……」
「どういう事だ」

 トニーは目を閉じ、こう言った。


「中立国・サテライト……。あの国は、実質帝国の支配下ですが、最近になって不穏な動きを見せています。どうやら、共和国に寝返ったという情報があるようです」

「寝返った!?」


 そんなの初耳だぞ!
 それが事実だとすれば……今回の戦争……戦力差が出るかもしれないな。むぅ、今までになかった事態だ。いったい何が起きている?


「……その話は止しましょう、トニーさん」


 まるで忠告するようにしてルナは、話をさえぎった。……なんだろう、ちょっと怖かったな。


「おっと、すまない。とにかくですな、その『エルドラード』の建物となるわけです。立地もよく、人の往来もかなり多い。これほどの好条件はないでしょう。如何いかがです?」


 如何いかがも何もない。
 最高すぎるだろう。


 エルドラードのギルドは、三年前に一度だけ訪れた。N地区のほぼド真ん中。あそこなら、商売繁盛間違いなし。大儲け出来るし、生活にも不便はない。


「決まりだな」
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