116 / 308
【116】 帝国地区
しおりを挟む
宿・ヴァーミリオンの部屋を借りた。
俺は窓辺に腰掛け、考え事に夢中になっていた。
「…………」
宿屋のおっちゃんからの情報提供を受け『シャロウ』の動向を耳にした。ヤツ等の動きが活発になっているらしい。
この帝国にも何人か潜入したかもしれないという、不穏な動きをキャッチした。だろうなと思った。あの城門で『ヴァルム』はシャロウのメンバーのようだった。腕にギルドエンブレムが刻まれていやがったしな。
あの事も気掛かりだが、今頃ヤツは牢屋の中だろう。とりあえず、脅威ではないが……後でソレイユに問い合わせてみるか。
そして、そんな不穏な動きに対し、帝国の騎士も監視を強化して深夜でも巡回しているという。
だから、裕福層や貴族の地区である『U』と『N』は治安も良く、夜に出歩いても問題ないほどだった。ただし『A』地区だけは貧民層も多く――ゴロツキもいる。安易に近づくと、財布を掏られたり、難癖をつけられ暴行を受けたり……やはり治安は良いとは言えない。
これだけ巨大な国だから……
貧富の差は当然あった。
「……カイト様?」
ちなみに、この【帝国・レッドムーン】には大まかに四つの地区が存在する。
『L地区』…皇帝の城、七つの貴族、騎士団がある
『U地区』…中流貴族など裕福層
『N地区』…一般裕福層、庶民
『A地区』…貧民街
店を出すなら、やはり『U』か『N』地区だろう。
帝国の中心に近い『U』地区はかなりオススメだし、活気もある。ここが無難か。それとも、皇帝の城と七つの貴族、そして騎士団のある『L』地区か……。だが、あそこはほぼ貴族しかいない。商売にはあまり向いていない。
「カイト様っ」
白い細指が俺の両頬を撫でていた。
ふわっと包まれ、ドキっとした。
「え……あ、ルナ。ごめん、考え事をしていた」
「ですので失礼ながら、お顔に触れさせて戴きました。なるほど、通りで難しい顔をされていると思ったのです。呼びかけても反応がありませんでしたし……」
ルナは、心なしかぷくっと頬を膨らませる。
なんだろう、この猫のような構って的な。
ていうか俺、ルナに触って貰っている……。
彼女も俺の視線に気づいて、赤い瞳を揺らした。
でも、すぐにハッとなって手を離した。
「ごめんなさい。わたし、カイト様のお顔に……突然失礼でしたよね。お嫌、でしたよね……」
「嫌なもんか。いいよ、減るものじゃないし」
「良かった」
一安心して、ルナはまた俺の顔に触れて――
「……カイト様はお疲れですよね。その、声に張りがないとおっしゃいますか……考え事も長かったですし……」
「そんなことは――」
いや、実を言えば疲れていた。
登山もしたし、ゴブリンの奇襲もあった。城門前で右腕を刺されるし……一難去ってまた一難を繰り返していた。疲れてないと言えばウソになる。
……ああ、そうさ。
少し、心が疲れていた。
それを察したのだろうか、ルナは。
「――――」
俺の顔を胸元へ寄せ……包み、ぎゅっと抱きしめてくれた。
あたたかいし……やわらかい。
「……ルナはいつも優しいよな」
「カイト様を癒すのがわたしの務めですから」
「俺は…………ルナの笑顔があったから、ここまで来れた……ありがとう」
そう本心を伝ると、
「…………」
ルナは顔を逸らしていた。
……すっと涙が流れていたような。
◆
いつしか疲れは癒えた。
ルナには、スキルのヒールとかで癒すだけでなく……近くにいるだけで人間を元気にしたり、癒す力がある。シマープリーストとは、そのような才があると聞く。
――まるで月の光のようだな。
「明日は家を探しに行こう。新しいイルミネイトをオープンする為に」
「本当ですか。嬉しい……またお店が出来るのですね」
小粒の涙を目尻に光らせ、感激するルナ。そんな風に思ってくれるとは……俺も嬉しかった。そうだ、やっと帝国まで辿り着いたのだから、お店をやりたい。いや、やらなきゃいけないんだ。ルナの為にも――。
俺は窓辺に腰掛け、考え事に夢中になっていた。
「…………」
宿屋のおっちゃんからの情報提供を受け『シャロウ』の動向を耳にした。ヤツ等の動きが活発になっているらしい。
この帝国にも何人か潜入したかもしれないという、不穏な動きをキャッチした。だろうなと思った。あの城門で『ヴァルム』はシャロウのメンバーのようだった。腕にギルドエンブレムが刻まれていやがったしな。
あの事も気掛かりだが、今頃ヤツは牢屋の中だろう。とりあえず、脅威ではないが……後でソレイユに問い合わせてみるか。
そして、そんな不穏な動きに対し、帝国の騎士も監視を強化して深夜でも巡回しているという。
だから、裕福層や貴族の地区である『U』と『N』は治安も良く、夜に出歩いても問題ないほどだった。ただし『A』地区だけは貧民層も多く――ゴロツキもいる。安易に近づくと、財布を掏られたり、難癖をつけられ暴行を受けたり……やはり治安は良いとは言えない。
これだけ巨大な国だから……
貧富の差は当然あった。
「……カイト様?」
ちなみに、この【帝国・レッドムーン】には大まかに四つの地区が存在する。
『L地区』…皇帝の城、七つの貴族、騎士団がある
『U地区』…中流貴族など裕福層
『N地区』…一般裕福層、庶民
『A地区』…貧民街
店を出すなら、やはり『U』か『N』地区だろう。
帝国の中心に近い『U』地区はかなりオススメだし、活気もある。ここが無難か。それとも、皇帝の城と七つの貴族、そして騎士団のある『L』地区か……。だが、あそこはほぼ貴族しかいない。商売にはあまり向いていない。
「カイト様っ」
白い細指が俺の両頬を撫でていた。
ふわっと包まれ、ドキっとした。
「え……あ、ルナ。ごめん、考え事をしていた」
「ですので失礼ながら、お顔に触れさせて戴きました。なるほど、通りで難しい顔をされていると思ったのです。呼びかけても反応がありませんでしたし……」
ルナは、心なしかぷくっと頬を膨らませる。
なんだろう、この猫のような構って的な。
ていうか俺、ルナに触って貰っている……。
彼女も俺の視線に気づいて、赤い瞳を揺らした。
でも、すぐにハッとなって手を離した。
「ごめんなさい。わたし、カイト様のお顔に……突然失礼でしたよね。お嫌、でしたよね……」
「嫌なもんか。いいよ、減るものじゃないし」
「良かった」
一安心して、ルナはまた俺の顔に触れて――
「……カイト様はお疲れですよね。その、声に張りがないとおっしゃいますか……考え事も長かったですし……」
「そんなことは――」
いや、実を言えば疲れていた。
登山もしたし、ゴブリンの奇襲もあった。城門前で右腕を刺されるし……一難去ってまた一難を繰り返していた。疲れてないと言えばウソになる。
……ああ、そうさ。
少し、心が疲れていた。
それを察したのだろうか、ルナは。
「――――」
俺の顔を胸元へ寄せ……包み、ぎゅっと抱きしめてくれた。
あたたかいし……やわらかい。
「……ルナはいつも優しいよな」
「カイト様を癒すのがわたしの務めですから」
「俺は…………ルナの笑顔があったから、ここまで来れた……ありがとう」
そう本心を伝ると、
「…………」
ルナは顔を逸らしていた。
……すっと涙が流れていたような。
◆
いつしか疲れは癒えた。
ルナには、スキルのヒールとかで癒すだけでなく……近くにいるだけで人間を元気にしたり、癒す力がある。シマープリーストとは、そのような才があると聞く。
――まるで月の光のようだな。
「明日は家を探しに行こう。新しいイルミネイトをオープンする為に」
「本当ですか。嬉しい……またお店が出来るのですね」
小粒の涙を目尻に光らせ、感激するルナ。そんな風に思ってくれるとは……俺も嬉しかった。そうだ、やっと帝国まで辿り着いたのだから、お店をやりたい。いや、やらなきゃいけないんだ。ルナの為にも――。
0
お気に入りに追加
667
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる