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【116】 帝国地区

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 宿・ヴァーミリオンの部屋を借りた。
 俺は窓辺に腰掛け、考え事に夢中になっていた。

「…………」

 宿屋のおっちゃんからの情報提供を受け『シャロウ』の動向を耳にした。ヤツ等の動きが活発になっているらしい。

 この帝国にも何人か潜入したかもしれないという、不穏な動きをキャッチした。だろうな・・・・と思った。あの城門で『ヴァルム』はシャロウのメンバーのようだった。腕にギルドエンブレムが刻まれていやがったしな。

 あの事も気掛かりだが、今頃ヤツは牢屋の中だろう。とりあえず、脅威ではないが……後でソレイユに問い合わせてみるか。

 そして、そんな不穏な動きに対し、帝国の騎士も監視を強化して深夜でも巡回しているという。

 だから、裕福層や貴族の地区である『U』と『N』は治安も良く、夜に出歩いても問題ないほどだった。ただし『A』地区だけは貧民層・・・も多く――ゴロツキもいる。安易に近づくと、財布をられたり、難癖をつけられ暴行を受けたり……やはり治安は良いとは言えない。


 これだけ巨大な国だから……
 貧富の差は当然あった。


「……カイト様?」


 ちなみに、この【帝国・レッドムーン】には大まかに四つの地区エリアが存在する。


 『L地区』…皇帝の城、七つの貴族、騎士団がある
 『U地区』…中流貴族など裕福層
 『N地区』…一般裕福層、庶民
 『A地区』…貧民街


 店を出すなら、やはり『U』か『N』地区だろう。
 帝国の中心に近い『U』地区はかなりオススメだし、活気もある。ここが無難か。それとも、皇帝の城と七つの貴族、そして騎士団のある『L』地区か……。だが、あそこはほぼ貴族しかいない。商売にはあまり向いていない。


「カイト様っ」


 白い細指が俺の両頬をでていた。
 ふわっと包まれ、ドキっとした。

「え……あ、ルナ。ごめん、考え事をしていた」
「ですので失礼ながら、お顔に触れさせて戴きました。なるほど、通りで難しい顔をされていると思ったのです。呼びかけても反応がありませんでしたし……」

 ルナは、心なしかぷくっと頬をふくらませる。
 なんだろう、この猫のような構って的な。

 ていうか俺、ルナに触って貰っている……。
 彼女も俺の視線に気づいて、赤い瞳を揺らした。
 でも、すぐにハッとなって手を離した。

「ごめんなさい。わたし、カイト様のお顔に……突然失礼でしたよね。お嫌、でしたよね……」
「嫌なもんか。いいよ、減るものじゃないし」
「良かった」

 一安心して、ルナはまた俺の顔に触れて――

「……カイト様はお疲れですよね。その、声に張りがないとおっしゃいますか……考え事も長かったですし……」

「そんなことは――」

 いや、実を言えば疲れていた。
 登山もしたし、ゴブリンの奇襲もあった。城門前で右腕を刺されるし……一難去ってまた一難を繰り返していた。疲れてないと言えばウソになる。


 ……ああ、そうさ。
 少し、心が疲れていた。


 それを察したのだろうか、ルナは。

「――――」

 俺の顔を胸元へ寄せ……包み、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 あたたかいし……やわらかい。

「……ルナはいつも優しいよな」
「カイト様を癒すのがわたしの務めですから」
「俺は…………ルナの笑顔があったから、ここまで来れた……ありがとう」

 そう本心を伝ると、


「…………」


 ルナは顔をらしていた。
 ……すっと涙が流れていたような。


 ◆


 いつしか疲れは癒えた。
 ルナには、スキルのヒールとかで癒すだけでなく……近くにいるだけで人間を元気にしたり、癒す力がある。シマープリーストとは、そのような才があると聞く。


 ――まるで月の光のようだな。


「明日は家を探しに行こう。新しいイルミネイトをオープンする為に」
「本当ですか。嬉しい……またお店が出来るのですね」

 小粒の涙を目尻に光らせ、感激するルナ。そんな風に思ってくれるとは……俺も嬉しかった。そうだ、やっと帝国まで辿り着いたのだから、お店をやりたい。いや、やらなきゃいけないんだ。ルナの為にも――。
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