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【113】 守る為のレベルダウン

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 ルナとソレイユの人気におどろかされた。

 すでに数十人が囲んでいる。
 正直、ここまでとは思わなかったな……早く助けないと埋もれてしまい、引っ張り出せなくなる。早急に救出して先へ進まねば。


 俺は、人間ひとの波を退けて向かおうと思ったのだが――


「貴様たち! 何をしている! ここは神聖な城門前だぞ。散れ、散れぇ!」


 異変に気付いた独りの帝国の騎士が怒鳴り叫び、このプチイベントを終わらせた。――助かった。蜘蛛くもの子を散らすように去る野次馬やじうま

 あの青年騎士のおかげで助かった。


「カイト様、ご無事ですか!」
「いや……ルナ、それは俺のセリフ」


 なぜか心配そうに俺の顔をペタペタ触れてくる。
 逆だよ逆。俺がルナに触れたいくらいだ。


「も~、顔出してると直ぐこれ。マジ辟易へきえきするわね……。いい加減にフードでも被ろうかしら。――まあ、それよりさっさと宿へ向かいましょう。落ち着いて紅茶でも飲みたい」


 ソレイユは舌を出し、ゲンナリしていた。

 あのアイドル的人気。
 昔からあんな感じなのだろうな。
 苦労がうかがえる。

 心の中でソレイユをいたわっていると――


「――って、ソレイユ様!? そのやたら長いモミアゲ! 一斤染いっこんぞめの髪! そして、板のように平坦な胸! ええ……間違いありません。そんなお方は世界でただひとり。ソレイユ様ではりませぬか!」


 さっきの大声を出した騎士があわてた様子で向かってくる。あの騎士、さりげなく胸のことを! それは踏み入ってはいけない地雷原だぞ!


「胸ですってぇ!? こ、この……あんた、上官に向かって何て事を言うのよ! って……なんだ。その顔は『ヴァルム』じゃない」


 危うくブチギレ寸前。しかし、その騎士の顔を認識するなり、ソレイユは急に矛を収めて思い留まっていた。危なかったな、あのままだとあの騎士を喰い殺す勢いだったぞ。


 ヴァルム――。
 若い青年騎士。歳は俺と近いかもな。
 ピアスなんかして、茶髪のさわやか系ってところだった。女子人気は高そうだ。けど、なんだろう。なんか知らんけど、にらまれているような。


「ソレイユ様、こんな所で何をしていらっしゃるのです! 大至急、騎士団へお戻りください。我々を導く存在の貴女様が不在なので……統制に乱れが生じているのです。そんな・・・庶民連中は放っておき、さあ――こちらへ」


「…………」

 青年の言葉に対し、ピクっとまゆを吊り上げるソレイユ。明らかに彼女の表情が変わっていた。多分、そんな・・・ってところに反応したんだろうな。俺もちっとだけカチンときたけどな。けれど、わざわざ怒るような事ではないかなって思っていた。


「はぁ……ヴァルム。悪いんだけど、あたしは自由行動を許されているの。これは戻る戻らないの話ではなく、皇女殿下直々の特別任務でもあるから」


 じゃあ、っとソレイユは俺のもとへ。


「なにを言うのです! こんな素性すじょうも知れない怪しい男がなんですか!? その隣のメイド……はともかく、エルフは『クラールハイト家』のポンコツ魔法使いではありませんか。そんな連中とソレイユ様では不釣り合い。貴女様の価値が下がって腐ってしまいます。無理に下々しもじものレベルに合わせる必要はないでしょう。さあ、こちらへ」


 俺たちのことを散々言って、ソレイユの腕をつかもうとする青年騎士。さすがの俺もムスっときた。


 だから――


「やめろ」


 俺は短く言い放ち、手をはたいた。


「…………!? なんだ貴様! 見たところ行商のようだが……。怪しいな! 【共和国・ブルームーン】のスパイではなかろうな。これは一度、拘束して詳しく問う必要がありそうだ。言っておくが、帝国の拷問ごうもんは生半可なものではないぞ。まずは水攻めで貴様をおぼれさせて――」


「やめなさい、ヴァルム。それ以上、この人を侮辱ぶじょくするのなら……あたしが許さないわ」


 聖剣『マレット』を構え、俺の前に立つソレイユ。いや、俺が前へ出た。

「ちょ、なによ、カイト。あたしが守って――」
「俺が守ってやる」
「…………もう、強情なんだから」


 彼女は、はぁと溜息ためいきをつく。
 さて、どうしたものか。

 特に作戦もないのだが……
 レベルを奪うか。


 それとも、エクサニウム製の短剣『グラディウス』を使うか。いや、剣技を極めた騎士相手に厳しすぎるな。分が悪すぎる。


「だったら、レベルダウン・・・・・・だ!」
「何がレベルダウンだ! そんな虚仮威こけおどしが通用すると――」


 青年騎士・ヴァルムの動きがピタリと止まる。顔を青くし、ガタガタ震え……無心のまま自身のレベルを見つめていた。


「…………バカな。俺の『1600』あったレベルが……『30』しかない、だと……あり得ない。どうなっているんだ」


 これはもう戦意喪失せんいそうしつだろう。
 もう青年は戦えない――と、思ったが。


「うああああああああああ!!」


 まさかの剣を抜き、俺の方へ!
 クソ、間に合わねえ!!
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