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風の帝国・防衛譚 中編

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 空・陸の両方からモンスターが波となって押し寄せていた。
 そこら中に黒い影がうごめいている。

「一万……? ウソだろ……三万・・はいるぞ!」
「これはいったい……」

 俺もだが、ゼファも心底驚いた。
 どうやら、一万というのは嘘っぱち。本当は三万規模だったのだ。あの長男め、よくも! しかも、魔王の大幹部らしき気配が四つ・・も。

「いよいよこの国を滅ぼす覚悟ってことか。――ふ、面白れぇ。ゼファ、聖域展開を頼む。国への侵入を許すな」
「分かりました。お任せくださいっ」

 ゼファは目をつむり、侵攻してくるモンスターの方角へ手を向けた。体が白く輝き始めると聖女スキルを発動した。


『グロリアスサンクチュアリ!!』


 絶対聖域が瞬く間に広がるや、風の帝国キリエ全体が不思議なバリアにおおわれた。これは、敵の侵入を絶対に許さない聖域なのである。
 けれど、雑魚モンスターはともかく、大幹部クラスともなると、たまに突破してくるヤツもいるので気は抜けない。だが、今が大チャンスに変わりはない。

「ひとまず……雑魚共は消えやがれ……!」

 俺は、投球モーションで『闇』をブン投げた。
 ストレートで飛んでいく小さき闇は、空で花火のように弾けるや……ダークエネルギーを拡散させた。


『特大のダーク・ヘルズ・ディメンション――――――!!!!!!!!』


 更に闇スキルを発動し、敵軍三万に向けて次元断裂攻撃をコンボさせ、モンスターをスパッと気持ちいほどに裁断していった。

「よし、とりあえず雑魚は消えた。あとは大幹部を……」

 空に飛んでいるデカイのがそうだろう。
 さっそく天誅てんちゅうを下してやろうと思ったのだが――。


「……ま、まて小僧!!」


 パーカー家の大貴族が俺に、背後から抱きついてきた。


「なんだ、鬱陶うっとうしい。てか、あんたまだいたのかよ。危ないから離れてろよ……」
「ふふふふふふ……離れるぅ!? 馬鹿が。私はキミの動きを止めているのだよ。こう抱きつかれていては、まともに戦えまい……!!!」

「まさか、あんたも!!」

「そうだ、パーカー家は大幹部と取引した。この国を滅ぼしたあかつきには、私を王にしてもらえるとな……だからだ!! だから、シーカー家と示し合わせ、お前を狙ってやったのさ……だが、シーカー家の長男は聖女にご執心のようだったのでな……。まるで役に立たなかったが……しかし、もうそんな事はどうでもいい!! お前だ、勇者お前を殺してやる!!!」


「……この、裏切者があああああああ!!!」


「なんとでも言え!! それより、さあ、大幹部様のご登場だぞ……!」

「なっ……」
「申し訳ありません、ユメ様。やはり、あの強さとなるとわたくしの聖域では……」

 謝るゼファだが、仕方ない。
 それでも突破してきたのは四人中一人だ。


『よくぞやった、パーカー家の貴族よ』
「おぉ…………あなた様は魔王の右腕……征服者・フヴェルゲルミル様ではありませぬかっ。私にこの国を任せて戴けるとは、大変光栄でございます……!」

「ヤツが……魔王の右腕だと!?」

 マジか。あのワケの分からん超ゴツイ金黒プレートアーマーが……!
 確かに、やべぇ気配を感じるが。

『しかしだ。……パーカー。貴様は余の命じた時間に間に合わせなかった……よって、粛清しゅくせいする』

「…………は? ままままま、待ってください!! そんな話は聞いていないですよ!! フヴェルゲルミル様、私はご命令通りに勇者をあざむきました! 騎士長をも遠ざけたのですよ……! ですから……!」

あざむく……? 貴様は何を言っているのだ。それだから、お前のようなオークも同然な醜い存在は国にも、魔王軍われわれにすら見捨てられるのだ……。消え去るがいい、あわれな道化オークよ』

 ヤツは動いてもいないのに、一本の剣が飛び出し――それが俺の腹部を貫通し、パーカーの腹部をも貫通した。

「そ…………そんなぁ……」

 パーカーは苦しむ間もなく絶命した。
 ……同情はできん。国を裏切ったのだから。だが、あんなのでも、国の民だった。

『……ほう、勇者よ、貴様は死なぬのだな』
「俺はだからな。普通の人間とはちょっと違う」
『面白い。貴様とこうして剣を交える時をずっと楽しみにしていた。……だが、それよりも先に国を滅ぼす。それが魔王様のお望みでねェ』

「させると思っているのか」
『ああ、ここまで来たのなら一振りで……そうだな、周囲は簡単に消滅できよう。では、手始めにこの周辺の邪魔・・な建物と人間には消えてもらう』

 と、ヤツは太腕を構え……


『むうぅぅ―――――――――――――――ん!!!!!!!!!!』


 とんでもない勢いで振ると、建物や人間を吹き飛ばした。
 すると、そこは一瞬で荒野と化した。

 ……なっ、バケモノかコイツ!!


「ひどい……こんなことって……」
「ゼファ、俺から離れるな……! ヤツは……フヴェルゲルミルはここで倒す。でなければ、風の帝国キリエは滅びてしまう……!」
「分かりました……最大限の支援をさせてください、ユメ様」
「ああ、頼む」

 グロリアスブレッシング、グロリアスアジリティが掛かる。
 これで、全ステータスと移動速度がアップした。

『……なるほど、その聖女がよほど大切らしいな、勇者よ。では、その邪魔・・な存在を消してやろう。ありがたく思え、この余の手によって消されるのだからな』

「なん…………だと…………。てめぇ、もういっぺん言ってみろ」


邪魔・・な存在だ――――』


『うるせえええええええええ!!! イベントホライゾン!!!!!!!!!』


 ヤツが言い終わる前に、最強の闇を顔面に向けて放った。


 邪魔と邪魔と、コイツは……!!
 人間ひとを踏みつけるようにしやがって……許せん!!


 …………俺は、ヤツを絶対に倒す!!
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