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風の帝国・防衛譚 前編

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 これはまだ『風の帝国キリエ』にいた頃の話。
 ある日、俺とゼファは二人きりになった。どこかへ遊びにでも行こうかと思ったが、残念ながら、風の騎士団から急の呼び出しがあり、一緒に向かうことになった。

「ユメ様と二人きり……なんたる僥倖ぎょうこうでしょう。本当にいつ振りでしょうか……とっても嬉しいです♪」
「そうだなぁ、いつもフォースとネーブルもいるしな。こういうのは珍しいな」

 ちなみに、フォースは師匠マスターのところへ里帰りしている。ネーブルは、キャロルに連れ去られてしまい、ギルドと共に『狩り』へ強制連行となった。最後まで暴れていたが、抵抗虚しく連れ去られた。まあ、たまにはいいだろ。

 俺もたまにはゼファと二人きりで過ごしたかったからだ。だから、今回は絶好のチャンスだったというわけだ。

 そんなこんなで騎士団へ向かっていた。

 しかし一歩外へ出れば、ゼファは目立つ。まず、あの銀髪と白肌。それから、ピッチリとした修道服から見て取れるムチっとした体形は、男を絶対的に魅了する。

 なので、必然的に注目度抜群であった。

 で、やっぱりどこかの貴族とかが目をつけてくる。

「おぉ、これは大変お美しい……噂の聖女様ですな」
「まてまてシーカー殿。彼女は俺が買う」
「なにを言う! この大貴族であるパーカー家がっ!」

 知らん奴らがなんか勝手に盛り上がっているが、ゼファは誰のものでもない。俺のである。ていうか、なんか競りとか始まってるし、奴隷の闇取引じゃあるまいし、ふざけんなっ。
 バカバカしい状況に辟易へきえきした俺は、ゼファに耳打ちした。

「ゼファ、ちょっと空へ飛ぶぞ」
「え……空へですか」
「ああ、ちょっと怖いかもだけど、我慢してくれ」

 闇の極解放ダークフォームを展開。
 俺はゼファをお姫様抱っこし、空へ舞った。

「……わあっ」
「よし、あの屋根に飛び移る」

 しゅたっと着地し、そのままを維持した。

「どうする? このまま騎士団まで向かうけど。嫌だったら言ってくれ」
「いえ、とんでもありません。ユメ様に抱いて戴ける……なんて幸せな事でしょうか。わたくし、今とても嬉しくて……思わず泣いてしまいそうです」

 そこまでかっ。
 いやぁそこまで言ってくれると嬉しいな。

「……よし、じゃあこのまま――」


 だが、その時だった。


「まてーい!!」「待つんだ!!」


「げぇ!! あの貴族たち屋根を飛び移ってきやがったぞ……」


「わははは、シーカー家を舐めるなよ、少年!」
「そうさ、こちらは大貴族のパーカー家だぞ。小僧!」

「はぁ? どっちも知らねえし。てか、まさかゼファを奪う気か」

「そうだ、手に入らぬのなら奪うまでだよ」
「お、シーカー家の長男、気が合うな。では、共闘といこうか」
「分かった! ただし、聖女様の衣服はすべて戴く!!」
「よかろう」

「――って、まてやあ!! なに二人で勝手に取引してやがる!? ゼファの衣服をやるわけねぇだろアホ! てか、そんなことしたら、この俺が許さん!!」
「ユメ様、あのひとたち怖いです……」

 おびえるゼファは、俺に抱きついた。

 すると、貴族二人は俺を殺意をもってにらんできた。
 いや…………そんな睨まれてもね。

「ユメ少年よ、ならばこうだ……!!」

 シーカー家の長男が、てのひらに石ころを乗せていた。てか、俺の名前をいつ知った。あ、さっきゼファが言っていたか。

「それがどうした……!」
「ふふふふ、我がスキルは『チェンジ』。指定した対象の物質を入れ替えることが出来るのさ……! その聖女とこの石ころをチェ~~~~~~~~~ンジ!!!」


 ピカッっと光ると、俺の腕の中にいたはずのゼファと石ころが入れ替わった……! ……んなアホな、そんなスキルがあったのかよ。

「ふははははは!! 驚いたか、ユメ少年。これで聖女は俺のもの! さっそく連れ去って……修道服をひんいてくれるわっ!!」
「よくやった、シーカー家の長男!! ぐへへへへ……」

 下品に笑うシーカー家の長男とパーカー家の大貴族は、もはや変態だった。

 つーか……。


「ゼファに気安く触れるんじゃねええええええええええええ!!!!!」


 ソウルフォースを使い、変態二人の動きを止めた。


「…………がっ!? なんだ、急に体が動かない……ぞ」
「お、お前もか長男。私もだ……!! どうなっているのだ……!!」


「よし、これでゼファを……」


 だが、シーカー家の長男は不気味に笑っていた。……なんだ!?

「…………動きを止められたのは想定外だった。だが、時期にこの国には、魔王軍一万と、大幹部様が到着なされる。そのとき、貴様は終わりだ……勇者ユメよ」

「てめぇ、そういうことか……」

 長男……いや、あれは裏切り者だ。

 たぶん、風の騎士団に、急に呼び出されたのもこの案件だ。
 それを証拠に、トルネードがやって来た。

「ユメ!! 屋根で騒動があったと聞いて駆けつけてきたのです。…………あ、あの顔。あの男は我が国を裏切ったシーカー家です!! もうすぐ、一万のモンスターと大幹部が!!」

「分かってるよ、トルネード。とりあえず、長男はとっ捕まえておいてくれ。モンスターと大幹部は俺とゼファに任せろ。帝王の期待は裏切らんよ」
「ありがとう、ユメ。では、私はこの不届き者を裁判なしで処刑台へ送らねばなりませぬ故、これにて失礼を」


「ば、ばかなああああああああああッ!!! 俺は聖女の衣服が欲しかっただけなのにィィィイィ!! うあああああああああああ!!!!」


 シーカー家・長男は連行された。
 ざまぁというか、自業自得である。


 ……さて、ぶっ倒しにいきますかっ。
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