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第169話 一週間限定の修業

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 家に戻ると、マスターグレイスが天井から降りて来た。ソウルフォースの力だろう、綺麗に降り立ち、緑色の瞳で俺を見た。


「どうやら、ブリーブを倒したようじゃな。ご苦労だったぞ、ユメ、フォース。これにて試験は完了とする」

「じゃあ、フォースは……」

「連れていくがよい。我が愛弟子、フォースをよろしく頼む、勇者ユメよ。お前にしかこの子は守れん。お前でなければ、この子は幸せになれん」


 そこまで言ってくれるとか、期待に応えないとな。そうだな、短い期間ではあったけど、フォースとの絆はかなり強まった。まるで旧知、昔からそうであったかのように。


「ありがとうございます、マスターグレイス。俺は、世界の平和を取り戻すため……フォースと共に旅に出ます。お世話になりました」

「まだ早い。ユメ、お主もソウルフォースを身に着ける修行をするのだ。極めれば、フォース同様の力を手に出来るぞ」


 ジトッと見られ、これは断れないなと俺は思った。それにあの大幹部を倒した後だ。直ぐに奇襲はないだろう。急ぐ必要もないし、少しだけソウルフォースの修行をしていくか。


「分かりましたよ、マスター。少しだけお願いします」
「うむ、少しと言わず半年じゃ」

「は、半年!? 無理ですよ、そんな長く……なあ、フォースも何とか言ってくれよ~」

 フォースは疲れているのか、ぐったりしていた。俺の背中で。


「……ユメの背中あったかいから、眠いのー」


 だめだこりゃ。


 ◆


 ――結局、俺は修行を始めた。

 一週間限定・・・・・と決めて。


「……ふぅ、今日もこんなもんか」
「ユメ、それではソウルフォースの流れに逆らっておる。よいか、バランスとは宇宙なのじゃ。お主も闇を極めし者なら感じ取れるはず……まず――」


 ……マスターグレイスの修業は厳しかった。休ませてくれないし、スパルタ教育だった。こりゃ、フォースの苦労が伺えるな。当の本人は、無事に試験を終えて真の極魔法使いアルティメットウィザードとなった。


 でも、本当になったんだな。

 これで魔王も――ぐっ!?


「これ、よそ見をするでない」


 石ころを弾き飛ばされた。地味に痛い。


「マスター、どうしてそう簡単にモノを浮かせたり飛ばせたり出来るんだよ。まったく動かないぞ……あのブリーブ戦では出来たのに……」


 無意識だったから、偶然だったのかもしれないけどなぁ……あの感覚をもう一度思い出されば、あるいは。


「言ったろう、バランスの力じゃと。天秤をイメージせい……片方に重みが掛かれば、傾く……バランスを失う。力は消え去ってしまうのじゃよ。それでは力は発揮できん。自然と一体となり、呼吸を整え――精神を統一する。それから、あらゆる万物を流れを汲み取り、理解するのじゃ」



 ――意味が分からん。


 ◆


 こうして、俺の修業は……期限の一週間を経過した。ので、俺は修行を切り上げ、フォースと共に旅へ出る事にした。


「すまねえ、マスター。俺は半端者のソウルフォース使いになっちまったけど、それでもマシにはなった。世話になったよ、また機会があったら修行をつけてくれ」


「ユメ……お前というヤツは……」


 グレイスは呆れて紅茶をすすりっぱなしだった。相当、不満があるらしいが……止めないところを見ると、どうやら許してくれるようだな。申し訳ないけど……。


「本当にすまない」

「マスター、ユメは魔王を倒さなきゃいけないの……ごめんね」


 フォースも同じように頭を下げた。


「分かっておる。だから、これ以上は止めぬよ。ユメよ、魔王は恐ろしい力を持っている……いざとなれば、ソウルフォースの修業に来るのじゃ。よいな」

「分かったよ。また頼りに来ると思う。じゃあ今度こそ……」


 別れを告げると――


 フォースが泣きかけた。


 ……いつもの無表情かと思いきや、いざ旅立ちとなると親代わりでもあったマスターグレイスとの別れが寂しいらしい。


「ますたー…」
「フォースよ、少し前に話したであろう。我ら・・は特別な存在。たとえ離れていても、ソウルフォースと共にあるのだ。きっと彼ら・・が導いて下さる」


「うん。ちょっと寂しいけど、でも寂しくないよ。いつでもテレパシー出来るし、いっぱい話しかけるね!」



 そうだったのか。
 さすが、極魔法使いアルティメットウィザード

 って、グレイスの顔がちょっと嫌そう。
 なにか理由がありそうだが、なんとなくイメージはつく。フォースのヤツ、テレパシーだと饒舌じょうぜつだとか……ありそうだなぁ。多分そうなんだろうなぁ。


「それじゃ、今度こそ」
「うむ。武運長久をお祈りするのじゃ」


 握手を交わし、俺はフォースを肩車。
 マスターグレイスの家を出た――。



 ――地の神国クレドの森――



 森の中はほのぼのしていた。モンスターの気配はない。襲われる心配もなさそうだな。フォースの機嫌も良いし、このまま旅を続けよう。


「フォース、俺の肩車好きか?」
「うん、これ好き。ユメも好き。だって、こんなに色々見えるんだもん~。ここ、あたしの特等席ね」


 さりげなく好きって言われ、俺はドキッとする。そういえば……一週間前にキスしたのを思い出した。

 フォースは言っていた。
 俺の事を三年前から知っていたと。

 それもソウルフォースの力らしいが、ここまで仲良くなる未来も視えていたのだろうか。確定した未来だったのだろうか。中途半端な修行をした俺には分からない。


 だけど、フォースはつぶいやいた。


「未来は変えられるもの。常に変化するもの……でも、あたしはずっとユメが好きだった。この気持ちは過去イテ現在ミサ未来エストも変わらないよ」


 ――不思議な事を言う。

 本当に三年前に何があったのだろうな。


 少なくとも現在は、小さき魔法使いを仲間に出来て、俺は幸せだ。
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