上 下
161 / 177

第161話 ライジン

しおりを挟む
 どうやらあとをつけられていたらしい。

 まさか、魔王軍の幹部がトールダンジョンを狙っていたとはな。トールの力を奪いに来たのだろう。だが、それはもうネーブルが先にクエスト達成していた。


「ネーブル、力を見せてもらおう。あの緑頭をした悪魔男、魔王軍幹部を倒すんだ」
「え……わたしが!?」
「ああ、お前ならやれる。今のお前には『ライジン』がついている。勝てるさ」
「う、うん。分かった」


 一歩前へ出て、ネーブルはルドラと対峙たいじした。


「なんだ金髪の娘。まさか初心者の分際で、このルドラ様に盾突くつもりか! 笑わせてくれる!!」


 飛び出てくるルドラは、風のように走ってネーブルに狙いを定めていた。素早い動きだったが――。


「てやあッ!!」


 ネーブルはその上をいく高速移動を見せ、ルドラのライトニングボルトを回避していた。うそ……移動速度はやっ。


「馬鹿な! こんな早い動きが出来る初心者など、おるはずがない……」

「うわぁ! わたしってば、本当に『ライジン』の力を手に入れたんだ! ユメ、これでわたしもう戦えるよ! 馬鹿にもされないよ!」


 嬉しそうに移動しまくるネーブルさん。
 いやはや、ここまで元気に走り回られると、爽快感さえあった。これほどの力とはな。


「おのれぇ! 金髪胸デカ女があああああ!! この魔王軍であるルドラ様を舐めるなあああああ!!」


 ついにブチぎれたルドラは『アイウォール』、つまり台風の目を発動した。あれは、相手の動きを読み取るスキル。まずいぞ。

 俺も補助しようとしたが、ネーブルが止めた。


「みんなは見ていて! わたしは必ず魔王軍の幹部・ルドラを倒すわ!」


 電気を身にまとい、ネーブルは空を走った。
 信じるしか、ない。

「馬鹿が、お前の蚊のような動きなんぞアイウォールで読み切っておるわ!! これでも食らえッ!!」


 体全体を使って、ルドラはそれを放った。


『――――――カーボベルデ!!!』


 これは、強烈なハリケーンか。
 あんなものを真面まともに受ければ、ネーブルの体はバラバラに吹き飛ぶぞ。台風が迫る中、ネーブルは一気に放電を始め、そして――。


『サンダーボルト――――――!!!』


 こちらもまた、体全体を使って霹靂へきれき穿うがった。あまりの威力に、青、赤、緑の三色の稲妻が走って行く。あんな雷初めて見たぞ。

 やがて落ちたサンダーボルトは、ルドラのカーボベルデを圧倒し、あるいは消滅させ。全てを包み込み、そのまま駆け抜けた。



「ぶぁぁあぁぁかぁなぁぁあああぁ、うああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――ッ!!!」



 ・
 ・
 ・


 ルドラは消滅した。


「…………す、すげえ」


 すたっと降りて来るネーブルは、サムズアップした。俺もそれに対応して返した。……ああ、ネーブルはもう初心者ではない。


 超初心者、スーパービギナーだ。


 ◆


 ハービィの件も、トールダンジョンの試練も、そして、魔王軍幹部の撃破も一件落着。全ては解決した。



【 風の帝国キリエ - 中央噴水広場 】



「――ここでお別れだな、ネーブル」
「なに水臭い事言ってるの」

 いきなり抱き寄せられて、俺は吃驚びっくりした。

「ネーブル?」
「ユメについていく。フォースにゼファにもついていく。わたし、このライジンの力を使って、平和を取り戻したい。みんなを守りたい。だからお願い」

 パーティに入れて欲しいと、ネーブルは自ら願った。俺にそれを断る理由はなかった。けれども、二人の気持ちを無視できない。


 まず、ゼファは――

「わたくしは賛成です。ネーブル様の必死な姿に感銘を受けたのです。最後まで諦めずに、ここまで来れました。それに、わたくしは見ていたのです。ネーブル様が時折、フォースちゃんを気にかけていたところを」


 ネーブルもフォースも照れくさそうにしていた。へえ、そうだったのか。俺は気づかなかったな。そういう気遣いは評価点だな。

 さて、問題はフォース本人だが。


「……」

「フォース、だめなのかい?」

「ううん。でも」


 もじもじと言いにくそうだ。仕方ないので、俺は耳を近づけ、耳打ちしてもらった。


「あのね……。ネーブルっておっぱい大きいし……ユメって、ああいう方が好みだよね。あたし、いらなくなっちゃうよね」


「そんな事を気にしていたのか。フォース、俺はお前を毎日、溺愛できあいしたい程に愛しているんだぞ。世界一、いや、宇宙一愛してる」

「……うん、分かっているのに、ごめんね。あとで、ちゅーして」
「分かった。じゃあ、ネーブルを仲間に入れていいんだな」


 こくっとうなずく小さき魔法使い。
 ゼファとフォースの了承を得たので――。


「ネーブル、よろしく頼む」
「ええ、みんな、よろしくね!」


 改めて握手を交わし、ネーブルを正式な仲間に迎え入れた。こうして、俺のパーティは俺を含めて四人になったんだ。


 フォース……極魔法使いアルティメットウィザード
 ゼファ……聖女。
 ネーブル……ライジン使いの超初心者スーパービギナー


 このメンバーなら魔王をきっと倒せる。


 ◆


 宿屋・グラドナスで一泊する事にした。
 三人とも俺のベッドに集合状態。


「みんな、重いんだが……」


 ネーブルも、すっかり俺のベッドに入るようになっていた。これほど信頼されるようになるとはな。俺は正直、嬉しかった。


「あたしは軽い」
 フォースはそうだけど。

「ネーブルが加わりましたからね」
 ゼファは本当の事を言った。間違いではない。

「あぁ~、それってわたしが重いってこと~!?」
 頬を膨らますネーブルさん。


 さすがに三人ともなると、まあまあ重い。
 でも、最高に幸せだ。

「寝ようか」


 ◆


 ――翌朝。

 ふと目覚めると、ネーブルと目が合った。俺の左側にいるネーブルは「ありがとね」と礼を言うと、左頬にキスをしてきた。

「……ネ、ネーブル」
「みんなの寝顔見ていたらさ、守らなきゃって改めて思ったの。それに、これは昨日のお礼よ」

 ありがたく受け取って、俺は二人の目覚めを待った。


 それから、宿を去り、風の帝国キリエを後にした。


 今や、ネーブルがフォースを抱えているという珍事が起こっていた。あの大きな胸に挟まれて、幸せそうだ。普段は、ゼファにして貰っているのに、やっぱり、違うんだろうか。

「ユメ様、よろしければ、わたくしが包んで差し上げましょうか」
「え、ああ……今度な」
「ええ、今度」

 代わりに腕をからめて来てくれた。
 嬉しいねぇ!


「よし。みんな、行こう」


 俺は、フォース、ゼファ、ネーブルを連れて、新たな旅路へ出た。魔王軍の幹部はまだ残っている。魔王だって倒さなきゃならない。


 旅はまだ終わらない――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

けだものだもの~虎になった男の異世界酔夢譚~

ちょろぎ
ファンタジー
神の悪戯か悪魔の慈悲か―― アラフォー×1社畜のサラリーマン、何故か虎男として異世界に転移?する。 何の説明も助けもないまま、手探りで人里へ向かえば、言葉は通じず石を投げられ騎兵にまで追われる有様。 試行錯誤と幾ばくかの幸運の末になんとか人里に迎えられた虎男が、無駄に高い身体能力と、現代日本の無駄知識で、他人を巻き込んだり巻き込まれたりしながら、地盤を作って異世界で生きていく、日常描写多めのそんな物語。 第13章が終了しました。 申し訳ありませんが、第14話を区切りに長期(予定数か月)の休載に入ります。 再開の暁にはまたよろしくお願いいたします。 この作品は小説家になろうさんでも掲載しています。 同名のコミック、HP、曲がありますが、それらとは一切関係はありません。

英雄英雄伝~チート系主人公増えすぎ問題~

偽モスコ先生
ファンタジー
平凡な高校生、森本英雄(もりもとひでお)は突然くじ引きによってチート系主人公の増えすぎた異世界『魔王ランド』に転生させられてしまう。モンスター達の絶滅を防ぐ為、女神ソフィアから全てのチート系主人公討伐をお願いされた英雄は魔王として戦うハメに!? 英雄と魔物と美少女によるドタバタ日常コメディー! ※小説家になろう!様でも掲載中です。進行度は同じですが、投稿時間が違います。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

処理中です...