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第147話 望まぬ婚約
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信者は中々去らなかった。
すっかり辺りは闇。闇夜だというのに、一向に帰宅する気配はなかった。多分、それほどにゼファの敬虔な祈りを神聖視しているのだろう。
しかしなんだろう、彼女はどこか淋しそうに見えた。
「それにしても長いな」
「帰る?」
「そうだな、もう一時間は祈ったままだ」
あれから、俺は目隠しされたまま。
フォースの手は落ち着くけど、そろそろ疲れたな。
踵を返し、俺はフォースを肩車したまま宮廷教会を後にした。
◆◇ ◆◇ ◆◇
予め品定めしておいた宿屋の前でフォースを下ろした。
「今日はこのアドラシオンで一泊だ」
「おっきいね」
「そうだろう。この水の聖国一番と聞く。金はまあ、この国へ来る前の道中でモンスターを倒して稼いだし、余裕だよ」
「久しぶりに贅沢」
きゅぴーんと翠色の眼光を向けてくる。
「たまにはな」
宿屋の中に入って、フロントで料金を先払いした。受付は金髪美人の女性だった。お姉さんのような、けれどお嬢様のような気品があった。どうやら、オーナーの娘らしい。
「――では、奥の部屋を」
鍵を受け取り、向かった。
その向かう最中で、
「ユメ、聖女様が気になるの?」
なんて聞かれたものだから、俺はちょっと驚く。これはソウルフォースの読心術か。極魔法使いともなると、それほどの高等魔法は楽勝らしい。心を読まれるというのは、正直よく思えないが――まあ、フォースなら許せちゃうんだな、これが。
「あー…、まあ美人だったしな」
「……むぅ」
「聞いて膨れるなって。そう思っただけだ」
「ほんと~」
「ああ、それに今はフォースと一緒だろう」
「うん」
納得してくれたようだな。
フォースとは同じ部屋。
お金の節約の為なので仕方あるまい。
普通に過ごして――何事もなく朝を迎えた。
二人して受付へ向かえば、フロントのお姉さんが急にこんな事を言い出した。
「知っています、ユメさん」
「ん?」
「なんでも、聖女ゼファ様と王子ヨハン様が婚約なされたようなのですよ~。大変おめでたいですよねぇ」
「え……婚約?」
「ええ、御存知なかったのですか?」
「いや、知らないな」
「昨晩に急に決まったそうです。なんでも、大変な権力を持つ占い師の決定だとか」
「占い師? なんだか胡散臭いな」
お姉さんも同調した。
「そうなんですよ~。その占い師のおば様は、自ら売り込んで王に気に入られたようです。それからは、ずっと専属のような存在に。でも、その占い師の占いは当たるんです!」
ちょっと怖い顔をして、お姉さんは言った。当たるねぇ。俺って、占いはあんまり信じないタイプなんだよね。
「本当かなあ」
「あー! 信じてないですね、ユメさん」
「まあね。けど……気になるな、それ」
「占い師ですか?」
「ああ、この国に来る前に情報を得た。魔王の大幹部で、大魔女のオルタ・ハークネスかもしれん」
「え~、そんなワケないですよ。邪悪な力を持つ者は、聖女ゼファ様が祓って下さいますし、聖域ですぐ見つかっちゃいますよ~」
聖域――聞いた事がある。
聖女専用の奇跡のスキル。
その名も『サンクチュアリ』という。
あらゆる攻撃、魔法を無力化して防御する。それほどの力があるのならば、確かに幹部の気配なんて簡単に察知できるか。
「ありがとう、お姉さん」
「いえいえ……。ところで、その、ユメさんって彼女とかいるんです? この後、暇があったら、そのデートとか」
「気持ちは嬉しいよ。でも、俺にはこの魔法使いがいるから」
「……そうでしたか」
まさかお姉さんに誘われるとは。
◆◇ ◆◇ ◆◇
宿を後にした。
街を歩いて行くと、会話が無かった。
魔法使いの機嫌が悪い。
「……」
「フォース、膨れるなって。あれはお姉さんから誘ってきたんだぞ」
「浮気しないって約束だもん」
「浮気はしてないって。ほら、たかいたかーい」
俺はフォースの脇を持ち上げた。
「ぶー」
余計に膨れられた。
あー、だめか。
仕方ない、ここは――うん、あの屋台の『たい焼き』でも買ってやろう。てくてく歩いて、お店の前に。
「おっちゃん、たい焼き二つ」
「あいよぉ!」
お金を支払って、焼き立てのたい焼きをゲット。クリーム入りをフォースに手渡した――その瞬間には、笑顔が零れた。
「――――はぐはぐ」
秒速で機嫌が直った。
さすが『たい焼き』、神器に等しい。
店の前で食ってると、店のおっちゃんがこんな事を言った。
「そういえば、聖女様と王子様が結婚するんだってなあ~」
またそれか。
「そ、そうらしいですね」
「でもなあ……」
おっちゃんは、そこでなんだか複雑そうな表情をして、遠くを見つめた。
「オラ、よく宮廷教会へ礼拝へ行くんだが……聖女様はいつも悲しそうなんだわ」
「悲しそう?」
「ああ、もしかしたら、聖女様本人は結婚を望んでいないのかもしれないな。結局のところ、政略結婚だろうしな」
「よくあるヤツだろう」
「んや、それがどうだか。聖女様の方は家族はおらんと聞く。もともとサンクチュアリ宮廷教会に拾われた身だ」
「拾われた?」
「詳しくは分からんね。オラも他の仲間にちょっと聞いたくらいでね。悪いな」
おっちゃんは引っ込んだ。
……そうか、結婚を望んでいない――か。
ちょっとだけ気になり始めてきた。
すっかり辺りは闇。闇夜だというのに、一向に帰宅する気配はなかった。多分、それほどにゼファの敬虔な祈りを神聖視しているのだろう。
しかしなんだろう、彼女はどこか淋しそうに見えた。
「それにしても長いな」
「帰る?」
「そうだな、もう一時間は祈ったままだ」
あれから、俺は目隠しされたまま。
フォースの手は落ち着くけど、そろそろ疲れたな。
踵を返し、俺はフォースを肩車したまま宮廷教会を後にした。
◆◇ ◆◇ ◆◇
予め品定めしておいた宿屋の前でフォースを下ろした。
「今日はこのアドラシオンで一泊だ」
「おっきいね」
「そうだろう。この水の聖国一番と聞く。金はまあ、この国へ来る前の道中でモンスターを倒して稼いだし、余裕だよ」
「久しぶりに贅沢」
きゅぴーんと翠色の眼光を向けてくる。
「たまにはな」
宿屋の中に入って、フロントで料金を先払いした。受付は金髪美人の女性だった。お姉さんのような、けれどお嬢様のような気品があった。どうやら、オーナーの娘らしい。
「――では、奥の部屋を」
鍵を受け取り、向かった。
その向かう最中で、
「ユメ、聖女様が気になるの?」
なんて聞かれたものだから、俺はちょっと驚く。これはソウルフォースの読心術か。極魔法使いともなると、それほどの高等魔法は楽勝らしい。心を読まれるというのは、正直よく思えないが――まあ、フォースなら許せちゃうんだな、これが。
「あー…、まあ美人だったしな」
「……むぅ」
「聞いて膨れるなって。そう思っただけだ」
「ほんと~」
「ああ、それに今はフォースと一緒だろう」
「うん」
納得してくれたようだな。
フォースとは同じ部屋。
お金の節約の為なので仕方あるまい。
普通に過ごして――何事もなく朝を迎えた。
二人して受付へ向かえば、フロントのお姉さんが急にこんな事を言い出した。
「知っています、ユメさん」
「ん?」
「なんでも、聖女ゼファ様と王子ヨハン様が婚約なされたようなのですよ~。大変おめでたいですよねぇ」
「え……婚約?」
「ええ、御存知なかったのですか?」
「いや、知らないな」
「昨晩に急に決まったそうです。なんでも、大変な権力を持つ占い師の決定だとか」
「占い師? なんだか胡散臭いな」
お姉さんも同調した。
「そうなんですよ~。その占い師のおば様は、自ら売り込んで王に気に入られたようです。それからは、ずっと専属のような存在に。でも、その占い師の占いは当たるんです!」
ちょっと怖い顔をして、お姉さんは言った。当たるねぇ。俺って、占いはあんまり信じないタイプなんだよね。
「本当かなあ」
「あー! 信じてないですね、ユメさん」
「まあね。けど……気になるな、それ」
「占い師ですか?」
「ああ、この国に来る前に情報を得た。魔王の大幹部で、大魔女のオルタ・ハークネスかもしれん」
「え~、そんなワケないですよ。邪悪な力を持つ者は、聖女ゼファ様が祓って下さいますし、聖域ですぐ見つかっちゃいますよ~」
聖域――聞いた事がある。
聖女専用の奇跡のスキル。
その名も『サンクチュアリ』という。
あらゆる攻撃、魔法を無力化して防御する。それほどの力があるのならば、確かに幹部の気配なんて簡単に察知できるか。
「ありがとう、お姉さん」
「いえいえ……。ところで、その、ユメさんって彼女とかいるんです? この後、暇があったら、そのデートとか」
「気持ちは嬉しいよ。でも、俺にはこの魔法使いがいるから」
「……そうでしたか」
まさかお姉さんに誘われるとは。
◆◇ ◆◇ ◆◇
宿を後にした。
街を歩いて行くと、会話が無かった。
魔法使いの機嫌が悪い。
「……」
「フォース、膨れるなって。あれはお姉さんから誘ってきたんだぞ」
「浮気しないって約束だもん」
「浮気はしてないって。ほら、たかいたかーい」
俺はフォースの脇を持ち上げた。
「ぶー」
余計に膨れられた。
あー、だめか。
仕方ない、ここは――うん、あの屋台の『たい焼き』でも買ってやろう。てくてく歩いて、お店の前に。
「おっちゃん、たい焼き二つ」
「あいよぉ!」
お金を支払って、焼き立てのたい焼きをゲット。クリーム入りをフォースに手渡した――その瞬間には、笑顔が零れた。
「――――はぐはぐ」
秒速で機嫌が直った。
さすが『たい焼き』、神器に等しい。
店の前で食ってると、店のおっちゃんがこんな事を言った。
「そういえば、聖女様と王子様が結婚するんだってなあ~」
またそれか。
「そ、そうらしいですね」
「でもなあ……」
おっちゃんは、そこでなんだか複雑そうな表情をして、遠くを見つめた。
「オラ、よく宮廷教会へ礼拝へ行くんだが……聖女様はいつも悲しそうなんだわ」
「悲しそう?」
「ああ、もしかしたら、聖女様本人は結婚を望んでいないのかもしれないな。結局のところ、政略結婚だろうしな」
「よくあるヤツだろう」
「んや、それがどうだか。聖女様の方は家族はおらんと聞く。もともとサンクチュアリ宮廷教会に拾われた身だ」
「拾われた?」
「詳しくは分からんね。オラも他の仲間にちょっと聞いたくらいでね。悪いな」
おっちゃんは引っ込んだ。
……そうか、結婚を望んでいない――か。
ちょっとだけ気になり始めてきた。
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