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第146話 聖女ゼファ

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 今となっては聖女ゼファは、俺の仲間……いや、それ以上の存在となっていた。これは、まだ俺が『勇者』で――魔王を倒すべく世界各地を巡っていた時代の話。


 ◆◇ ◆◇ ◆◇


 水の聖国サンクには、国一の聖女がいた。

 名を『ゼファ』という。


 その名前くらいは俺も知っていた。世界一の聖女と名高く、誰もが憧れる存在だったからだ。信者も多く存在し、世界各地に見られる程。

 そんな尊い存在が『水の聖国サンク』にはいた。

 俺はそれほど関心がなかった。
 今の俺には、可愛い極魔法使いアルティメットウィザードがいるからな。そんな少女、フォースが隣で歩いていた。

 漆黒にも近い艶のある黒髪。独特のショートヘアが個性を浮きただせている。そこにエメラルドグリーンの瞳。いつ見ても美しい。ただ、背が低いので子供の様にも見える。いや、確実に子供っぽい。推定12歳ほど思われるが、実際の年齢は不明。

 本人曰く『18歳』という。


 ウソつけ!!


 フォースの嘘はともかく、こう人通りの多い街中を歩くと彼女を見失いそうになっていた。なので、俺は腰を下ろして合図を送った。

「……?」
「フォース、肩車だよ。お前は背が140cmちょいあるかどうか。迷ったら探すのが大変なんだよ」

「重くない?」

「大丈夫だよ。ていうか、フォースの体重なら平気だよ」

「うん」

 短い返事ながら、いそいそと俺の肩に乗るフォース。やっぱり、軽い。重さを感じない。これなら全然負担にもならないし、余裕で歩行できた。


「座り心地は悪いかもしれんが」
「ううん、いつもと高さが違うから新鮮~。ユメ、しばらくこのままがいいー」


 フォースは、きゃっきゃと騒ぎ始めた。
 どうやら気に入ったようだな。


 ◆◇ ◆◇ ◆◇


 フォースを肩車したまま水の聖国サンクを歩く。これが中々どうして、注目を浴びた。


「うお……」「魔法使いが肩車されとる」「連れ去り?」「子供の誘拐じゃなかろうか」「警備に通報した方がええでないか」「最近、ヘンタイが出てるちゅ~噂じゃ」「まさかな」「聖女様の身にも危険が迫っているらしい」「例のヘンタイじゃな」


 歩けば歩くほど、ざわざわとぼそぼそと。やれやれ、これでも俺は『勇者』なんだがな。でも、いちいちそんな自慢を堂々と振りまく事なんぞしない。

 まだ幹部だって、三人ほど倒したくらいだからな。それほど成果は出ていないし、名も上がっていなかったからな。


「ユメ、あたし降りた方がいい?」
「人の目なんぞ気にすんな」


 てくてく歩いて行くと、サンクチュアリ宮廷教会の前に辿り着く。これが大変立派な建物で、塔のようなモノがいくつも生えていて、いやこれ大聖堂だろうってゴシック様式であった。ブロンズ像も並びすぎだな。

「こりゃ凄い。出入口があんなデケェぞ」
「うんうん」

 瞳を星のように輝かせるフォースは、興味津々だった。ほう、このフォースがな。あんまり建築物とか興味を示さないタイプなのだが、この宮廷教会だけは違ったらしい。


「なんか礼拝者も多いな」
「たくさんいるね。聖職者プリーストが多い」
「ああ、地位の高い聖女も見られるな。けれど――」


 そこで大歓声が上がった。


「「「「「おおおおおっ」」」」」


 噂の聖女様が姿を現したらしい。宮廷教会の奥で祈っているとか野次馬から聞こえたので、俺も人の波を掻き分けて向かった。

 いやしかし、人多すぎだな……。
 何も見えん!

「どうだ、フォース。なにか見えるか?」

 肩車しているフォースに、その聖女様の正体を確認して貰った。俺が見れないのが残念だがな。


「うーん……あ」

「どうした」
「いたよ、聖女様。すっごく綺麗……」
「ほう、どんな女性なんだ?」

「長い銀髪が見える。煌びやかな修道服だね。ぴかぴか光ってて女神様みたい」

「解説だけだとよく分からんな」

 俺がそう不満気に言うと、フォースが小さな手で目隠ししてきた。これでは余計に見えんのだが――。

「今から映像ビジョンを送るね」
「そんな事が出来るのか」
「うん、ソウルフォースは万物の力。やるではなく、やらなくちゃいけない願いのようなモノ」

 ――ああ、修行の時にマスター・グレイスにも散々言われた。こっ酷く怒られたものだ。思えば辛い修行だったな。
 フォースは言葉を続けた。

「送るよ」

 すると、俺の目の前に聖女の姿が――。


「……すげぇ」


 本当に見えやがった。

 原初の神・バテンカイトスに祈る聖女の姿。


 腰を下ろし、目を閉じている。


 腰まで伸びる銀髪は、息を呑むほど美しく、芸術的だった。あれが同じ人間だとは思えない。まるで女神がそのまま飛び出してきたような風姿。

 それから――聖女は立ち上がって、こちらを振り向いた。……その顔を見て、俺は衝撃を受けた。


 彼女の瞳は、青と桃のオッドアイだった。
 なんて幻想的な。


 あの少女こそ、聖女ゼファか――。
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