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第143話 エンドレスダンジョン

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 以前に専用ダンジョンというか、パラドックス限定の【トラオムダンジョン】を作って、公開した。今や冒険者が殺到さっとうし、この国の貴重な資金源にもなっていた。


 そこには、魔王で母のシンリ、姉のメア、妹のメイがラスボスとして君臨していた。三人とも『暗黒時代』と呼ばれる三年前に世界を支配していたガチの魔王だ。


 だが、俺という勇者が出現し――各地の幹部を全滅させた後、魔王城(現パラドックス)へ乗り込み、そこで再会を果たす。


 まさかの親族という事が判明してから、直ぐに和解・・。それから世界は平和になったが、今度は魔神が出現。その後には秘密結社とか次々に現れたワケだ。


 そして今はまた平和な世界が――。


 そうでもないな。


 今この世界は『七つの世界』とやらと繋がっちまった。
 世界最強の極魔法使いアルティメットウィザードのグレイスが言うには、これからその世界と戦う事になると言っていた。


 確かに機械の国は、少し前の『ギルド戦』でその片鱗へんりんを見せていた。アンドロイドがまぎれていたのだ。



 ――もっとレベルを上げていかねば。



 俺はそう思った。



 なにか良い案はないかと考え込む日々。


 家の窓辺に座り――考え込んでいると。


「ユメ、おはよ~」


 金髪の少女がとなりにやって来た。ネーブルだ。

 俺の近くで細い身体からだを伸ばす。
 そんな体勢なものだから、大きな胸が強調される。


「おはよ、ネーブル」
「ん、どうしたの。考え事?」
「まあな。ほら、前にトラオムダンジョンを作ったろう。今も繁盛しているけど」
「うん」
「けどさ、七つの世界なんて脅威が現れた。だから、もっと俺たちのレベルを上げる必要があるんじゃないかなって思ったんだよ」

「うんうん」

 なぜか前屈みになって、ネーブルは俺の顔をジッと見つめてきた。悪い気はしないし、むしろ嬉しいのだが……中々際どい姿勢だ。


「そこで、もっと難易度の高いダンジョンを作るべきじゃないかなって思ったんだ」
「なるほどね~。パラドックスの住民は冒険者が大半だし、ギルドも多い。レベルを上げておけば、なにかあった時に困らないものね」


 ――つまり、そういう事だった。
 幸い、ウチには魔王が三人もいた。
 母さん達には『モンスター召喚』の力がある。

 だからこそ、トラオムダンジョンのラスボスになって貰っているんだけどな。


「じゃあ、作っちゃえばいいんじゃない、ダンジョン」
「うーん、場所がね」
「ああ、そっか。最近、住民も増えて土地も減ってきたものね」
「そうなんだよ~。……となると」


 腕を組み、深く思案していると――


「塔がいいんじゃない?」


 と、ネーブルは言った。


「ネーブル……お前、今なんて」
「え、だから『塔』にすれば……」


 なるほど!
 そりゃ名案だ。

 俺は思わずネーブルを抱きしめた。


「……ひゃぁっ! ユ、ユメ……いきなりぃ」


 胸と言い、相変わらず抱き心地の良い身体だ。そんな彼女は、顔を真っ赤にして震えていた。突然だったからな、焦っているらしい。


「ありがとう、ネーブル」
「う、うん……。お役に立てたのなら嬉しいな」
「よし、さっそくキャロルの所へ相談しに行こう」


 俺はネーブルをお姫様抱っこした。


「きゃっ、ユメ……」
「たまにはいいだろう」
「……わたし、重くない? フォースと体格差あるし……」
「いや、そんな事ないよ。余裕余裕。しっかり掴まってろ~」
「うん」


 ◆


 ネーブルを抱え、街に出てデイブレイクの本拠地へ向かった。道中ジロジロ見られまくったが、関係ない。


 爆走して、速攻で本拠地。


「着いた」
「はやっ……!」

 俺はネーブルを下ろそうとするが、彼女は拒否した。

「まだヤダ」
「なんだ、フォースみたいに駄々こねて」
「いつもフォースばかり構ってるじゃん。たまには、あたしも構ってよ」

 ぷくっと頬を膨らませるネーブルは、可愛かった。そうだな、普段はあんまりネーブルを構ってやれていない。
 姉ちゃんっぽい雰囲気だから、なんか大事にしちゃうんだよな。

「じゃあ、こうしよう。今夜はネーブルと二人きりで寝る」
「……! そ、それならいい。うん、約束よ」

 今度こそネーブルを下ろす。
 けど、すぐに腕を絡めて来た。

「今日はユメを誰にも取られたくないのっ」
「そ、そか。分かったよ、ネーブル」


 ◆


 デイブレイクの中へ入り、キャロルを待った。
 バニーガール忍者の恰好で直ぐ出て来たけどな。
 しかもキョトン顔で。

「おはようございます。ユメ、ネーブル……うーん、朝っぱらからお熱いですね、二人とも」

 俺とネーブルを交互に見るキャロルは、少し呆れていた。
 で、言葉を続けた。

「それで、なんの案件ですか」
「キャロル、またダンジョンを作りたい」
「ダンジョンですか……トラオムダンジョンの次なるモノを?」

「そうだ、塔だ。塔タイプの『エンドレスダンジョン』を作りたいと思う。これは朝からずっと考えていた。でもその形が思いつかなかったが、ネーブルが『塔』と言ってくれてな。これしかないと思った」


 説明すると、キャロルは意外そうな顔をして、けれど笑った。


「なるほど、エンドレスダンジョンですか。それは思いつかなかったですよ。さすが、ユメ。そんな発想を持ってくるとは……パラドックスの主だけある」

 瞳を輝かせるキャロルは、俺を真っ直ぐ見た。

「どうだ、受けてくれるか」
「分かりました。デイブレイクと同盟ギルドのサンライズの力で『塔』を作りましょう。これは【防衛値】アップに繋がるでしょうし、なにより冒険者もたくましくなる」

「そうか、受けてくれるか。さすがキャロル、話が分かるな」
「当然でしょう。主の提案を叶えるのが私の役目ですから。では、私はさっそくギルドメンバーを招集し、緊急会議を開いてきます」

 そう言ってキャロルは、ドロンと消えた。
 仕事は早くて助かる。

「行っちゃったわね、キャロル」
「ああ、俺たちは帰ろうか」


 ◆


 その帰り、街に寄り道して俺はネーブルに最近の流行りの『キャラメルラテ』をおごった。これが冒険者に人気なんだよなー。

 噴水のベンチに腰掛け、二人でのんびりしていた。

「おいしい~」
「そうだろう。俺が作ったんだけどな」
「ユメって凄いよね。カッコよくて頭も良いし、この国も作っちゃったし、ダンジョンとか、こういう美味しい飲み物とかも」

 べた褒めしてくれるネーブル。
 寄り道して正解だったな。

「あのさ、ユメ……これ飲む?」

 と、ネーブルは飲みかけのラテを差し出して来た。

「いいのか」
「う、うん……」

 カップを受け取り、手にした。
 ……これって間接キスってヤツか。
 って、これくらいで何を熱くなっているんだ俺。

 ネーブルとキスなんて何度したことか。

 でも、最近はご無沙汰だったな。
 そのせいか、ちょっとドキっとした。

 ストローに口を付け、俺はラテを飲んだ。

「うま……」
「うんうん」

 ネーブルは満足気にうなずく。
 顔がすげぇ赤いけどな。

 あー…もう、そんな顔されると、もう我慢できないじゃないか。

「ネーブル」

 カップを置いて、彼女の頬に触れる。
 それから顔を近づけていき、唇を重ねた。

「…………」

 しばらくして自然と離れた。

「……まさか急になんて」
「悪い、ネーブル。俺、我慢出来なかった」
「謝らなくていいし! ……嬉しかったよ」


 ネーブルは俺の方へ頭を預けて来た。
 金の髪が夕焼けに反射してまぶしい。

 俺は腕を回して、彼女の身体を寄せた。


 日が沈むまでプチデートを楽しんだ。


 ◆


 それから夜。
 約束通り、ネーブルと寝る事になったのだが――。


 最高の一日だった。
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