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第139話 七つの世界

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 今のところ世界に大きな変化はない。
 あったとしても、それは微々びびたるもの。そう、あの機械……アンドロイドの『ベヴァイス』の件だ。

 ヤツは言った『機械の国』と。
 風の噂程度だが、この世界の何処どこかの場所とその国が繋がっているらしい。だから、ヤツが現れた。


「いいさ、何が来ようと防衛してみせる」


 ダークウォールの上で俺はそうつぶやいた。


 頬を殴るような冷たい風が吹き抜ける。
 嫌な感じだ……機械のような無機質な空気。穏やかではない。


「お~い、ユメ。こんなところで何やってるのよ~」
「ネーブル。どうした」
「それはこっちのセリフよ。国中探して見つけた出したんだから、大変だったのよ」
「悪い。ちょっと外の様子が気になってな」
「外ねぇ……。うん、そうね、最近なんか変な感じする。なんだっけ……いろんな世界と繋がっちゃったのよね」
「そ。あの魔神――いや、『秘密結社・メタモルフォーゼ』騒動以来、このバテンカイトスは表に出てしまったようだ。どういう理屈だか知らんけどね」

「ふ~ん。世界ってそんないくつもあるものなのね」
「ああ、世界はいくつも存在する。そこには沢山の歴史、物語がある。この世界のようにな。そんなワケの分からんところから、ゾロゾロやって来るらしい」

 思えば、ブリュンヒルデと魔神王だったアトリは、別の世界の住人だった。あの時点で、気づくべきだった。その後、全てはアザトースの仕業と判明したけどな。

 ネーブルは頭を抱えて、言葉を絞り出した。

「あーもう、本当に分けわかんないわね。とにかく……ぶっ飛ばせばいいってことよね!」
「まあ、この世界には最強の防衛兵器あるし、大丈夫だ」


 俺が自信満々に言ったその直後――


 いきなり防衛兵器の固定砲台が自動で動き出し、敵軍に向けて激しい砲撃を行った。

「……びっくりした」
「そ、そうだな、ネーブル。どうやら、噂をすれば何とやらだな。な~んか、見覚えのある機械モンスターだな。どれどれ……ふむ」

 一応、モンスター扱いらしい。

 敵は『キラードローン』という、プロペラを持つ機械モンスターだった。なんだありゃ、ブラックでカッコイイな。ひとつ欲しいけど、モンスターじゃなあ。しかも、様子見なのだろうか、1000機規模で出現した。

 そのドローンは、銃口から毎秒百発と弾を撃ち続けていた。
 なんちゅう連射力。まさにバケモノか。

 だが、パラドックスの防衛力はその上をいく。

 レーザーが敵ドローンを粉砕していき、処理していた。

「今回は余裕そうだな」
「うん、今のところ雑魚ね」
「よし。あとはウチで見守ろう。フォースに頼んで映像で見るよ」
「分かった。じゃあ、帰りましょ。みんな心配してるわよ」
「ああ」


 ◆


 帰宅すると、怪しい四人組がいた。

「んーっと……メランコリー、フォーサイト、レゾン……あと一人は誰だ、初見だな」

「やっと帰ってきたか、ユメ。あなたに話があったのだ」

 メラコンリーがずいっと寄って来た。近いのに素顔が見えない。どんなスキルで保護しているんだろうな。

「メランコリー、先に素顔は見せてくれないのか」
「断る。私は素顔は決して晒さない。だから感情はこう表現する」

 すると、真っ暗な顔面に[^o^]などと赤色で表示された。
 一応、笑顔のつもりらしい。なんだそりゃ。

「で、話って」
「んむ、それはこの私が話そうか」
「フォーサイトのおっさん」
「おっさんはよせ。せめて、お兄さんと呼びなさい。これでも私は20代なのだよ」

 それにしては渋すぎるだけどな。眉間の皺とか。昔こういう暗殺者スナイパーを見た事あるような。

「フォーサイト、騒々しいぞ。それよりだ、ユメさん。この僕を弟子にしてくれってば!」
「まだ諦めていないのか、レゾン」
「当たり前ですよ! あなたのように強くなりたいんだ」
「考えておく」
「お願いします!」

「で、話の前にそのツインテールの女の子を紹介してもらっていいかな」

 フォーサイトが説明してくれた。

「この娘は、サンライズのギルドメンバーで、本物の『ユング』だよ。ほら、入れ替わっていたろ、マスター・グレイスさんと」
「ああ、キミが本当のユングか!」

「はい、マスター・グレイスにお願いされたので……」

 なるほどね、合点がいった。

「そいで、話とは」
「今度こそ私が話そう」

 よっぽど話したいらしい、メランコリーがずいっと前へ。

「まずは朗報だ」
「朗報?」
「そうだ。あのベヴァイスをこのパラドックスに入れた裏切者を発見した」
「ほう、それはぜひ聞きたいな。犯人は誰だ」


「――――――だ」


 …………は?

 こいつは何を言っているんだ。


「ありえない。……そんなはずがないだろ!!」


 その名を聞かされて、俺はショックを受けた。
 あの人・・・がそんな事をするわけないからだ。


 ◆


 俺は急いでその人物を探した。


 気配を全力で探り、でも、ほぼいつも感じていたし……分かりやすい。これほど強大な『ソウルフォース』を持つ者は、この国にひとり・・・しかいない・・・・・



【 森林フィールド・パスト 】



 湖に小さな人影が揺らいでいる。
 やっぱり、あいつなのか。アンドロイドをわざと招き入れ、そして、今回の騒動を起こした犯人。


「…………俺は今でも疑っていないよ」


「ほう、この私をまだ信じるか」


「当然だろ。……マスター・グレイス」


 師匠は少し悲しげに湖を見つめていた。
 俺は居た堪れなくなくて、グレイスを振り向かせた。


「まだまだじゃな」
「え……」
「疑わなかったのはさすがじゃ。そう、真犯人は私ではない。もし、疑っていたのなら、ユメ、お前の大切なフォースは還してもらっていた」


「……どういうことだ」


「これは試練・・じゃ」

「試練って……その為に、この騒動を起こしたのか!?」
「ん~、利用させてもらった……というのが正しいじゃろう。これから現れる最強の敵に立ち向かうためにな。よいか、機械に国はどこかにある。そして、他にも」

「他にも?」

「うむ。わざと小さく教えておったが、実は国というよりは、正しくは『世界』じゃがな。まずは『機械の世界』。今回紛れておったアンドロイドがいた世界じゃ。で、残りが『死の世界』、『空虚の世界』、『輪廻の世界』、『時の世界』、『花の世界』――そして、最後が『神の世界』じゃ」

「全部で七つ繋がっているのか」
「そうじゃ。これからその世界と戦うことになろう」


 世界はそんなに沢山あったのか――。
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