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第55話 お嬢様は絶対に諦めません

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 しばらく遠征やら戦闘やら続いたおかげで、疲労がそこそこ溜まっていた。あれだけ動けば、さすがの俺も少しは疲れもする。でも、そんな疲れよりもフォースの方が心配だ。マスターいわく、彼女は三日は眠り続けると言っていた。けれど、ずっとこのままのような気がして……いや、心配しすぎだな。

 ――翌日。

「行ってくる」

 フォースの頬をで、俺は寝室を後にした。


 ◆


 ネーブルとゼファは家に置いていき、俺はひとり街を歩いていた。すっかり、『火の大国グロリア』、『水の聖国サンク』、『風の帝国キリエ』、『地の神国クレド』、『光の天国ベネディ』、『闇の覇国アニュス』と謙遜けんそんない街並み――いや、それ以上の国となっていた。

 人々は活力と希望に満ち溢れていた。
 少し歩けば、商売繁盛。アイテムや食材の売買をしている光景が見られた。おや、国外からの冒険者もいるようだ。そういえば、キャロルが言っていたっけ。少しずつ入国を認めているって。しかも、厳重な審査をしたうえで通しているみたいだし、信用はしていいだろう。

 あまり閉鎖的な国にしたくないしな。これでいい。
 そんな光景を眺めていると、呼び止められた。

「す、すみません」
「……ん?」

 いつの前にか目の前には少女がいた。とても清楚せいそで、可愛らしいお嬢様だった。長い黒髪が風でなびいてキレイだし、白いワンピースがまぶしい。

「突然で申し訳ありません…………私は、リサと申します。結婚してください!」
「へ……」

 本当にいきなりだった。
 てか、この娘、どこかで見覚えがあるようなないような。

 少なくとも声は聞き覚えがあった。

「……あぁ、よく結婚してとか叫んでいる?」
「そうです! 私なのです! だからっ、いいですよね!?」

 そんな真っすぐな瞳で見られる。
 いやいや、いきなり申し込まれても困るけど。

 ――って、腕を組まれたし、逃げられない!?

「さあ、行きましょう。サテライト家へご招待しますからっ」
「す、すまない……俺はこれから用事が……」
「では、お爺様にご挨拶だけでも!」

 そう腕を引っ張られる。って、挨拶ぅ!? そりゃ、もう結婚前提に話が進んでいるのでは……ダメダメ! 俺には将来を約束した大切な人が――。

 周囲に助けを求めようと、首を振ると。
 すっごく顔見知り、いやそれ以上の人物と視線が合ってしまった。

「…………」
「……ゼファ」

 ゼファは呆然としていて、次第に手荷物を落とした。わなわなと少し震えている。あ…れ……なんか表情が変わってきた。

 うそ……ゼファが怒ってる!?

 こちらへ向かってくると、

「は……離れてくださいっ!」
「!? と、突然現れてなんですか、あなた! 私とユメさんの仲を裂こうというのですか!?」
「裂こうとかそういう問題ではありません! ユメ様はわたくしのものですっ! わたくしもユメ様のものなんですっ!」

 あわわわわわわ……。
 リサとゼファが取っ組み合いの、俺の取り合いに!?

「二人とも喧嘩はよくないって! いったん離れて落ち着いて……」

 俺は二人となだめた。
 すると、ゼファはもう勢いで俺に正面から抱きついて、離れまいとがっちりだった。……しかも、そのまま唇が重なった。……ゼファは聖女だけど、意外と大胆なんだよな。

「………………ぁ」

 急展開にリサは、敗北を顔ににじませていたが――。

「……キ、キスくらいで諦める私ではありませんよ! いいですか、私はユメさんとの結婚を絶対に諦めませんから! それにですね、ユメさんとは昨晩を共に過ごしたのですからね。私の勝ちです」

 堂々とウソつくなー!!!
 昨晩はずっとフォースと一緒だったつーの!

「…………ありえません。わたくしはユメ様を信じていますからっ!」

 リサの諦めの悪さに頭痛がするほど感服したが、ゼファも強かった。

「く…………分かりました。今回は撤退しましょう。ですが、絶対にユメさんを我がモノにしてみせます。……ユメさん、今までの非礼をお許しください。でも、きっと振り向かせて見せますから」

 そう俺だけを見つめて、リサは行ってしまった。

 つ、つえぇ……。

 只者じゃないな、あのお嬢様。

「とんでもない娘に目を付けられちゃったなぁ……」
「……ユメ様、まさかとは思いますが、浮気じゃないですよね」
「…………え。まて、俺を信じているんじゃなかったの!?」
「信じています。あの日、『水の聖国サンク』からわたくしを奪ってくれたユメ様を心より信じています。けれど、あの方と腕を組まれているユメ様は、少し嬉しそうに見えました……それがショックで」

 あー…確かに、すっげぇショック受けてたな。

「わたくしと腕を組んでいる時は、あんな顔はしてくださらないのに……」
「ん、ああ、そりゃ慣れとかもあるからな。でも、安心感はゼファの方が上だった。ていうか、ゼファの全部が大好きだし、この愛は不変だよ」
「そうでしたか! では許します♡」

 パァっと顔を輝かせて、ゼファは満面の笑みだった。
 よかったぁ、許してもらえた。

「……あの、ユメ様。その、ちょっとそこの噴水で腰を下ろしませんか」

 座れるスペースがある。
 まあ、少しくらい休憩していくか。

 座って、雑踏を眺めた。ゼファと二人きりでのびのびする。たまにはいいものだ。なんてまったり考えていれば、細指が俺の頬を伝っていた。

「ゼファ」
「ユメ様♡」

 腕を組まれた。
 ぎゅっと優しく、安心感のあるぬくもり。心があたたかい。
 それから、頭をこちらに預けてくれていた。それほどにゼファは俺を信頼してくれているのだ。

「ユメ様、頭を撫でてください♡」

 そうゼファはヴェールを外して、美しい雪のような銀髪を晒した。
 キレイすぎて撫でるなんてもったいない。

「愛でるだけで十分だよ。そのままでいて欲しい」
「分かりました。でも、我慢できなくなったら、いつでも触れてくださいね♡」

 しばらく、こうしていよう。
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