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第30話 激しい怒り

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 メイドさんことネーブルには、修行の相手になってもらった。

「いやしかし、本当に似合っているな」
「そ……そんな褒められると照れて集中できないしっ!」

 羞恥心のあまりか、ネーブルは俺と目を合わせれずにいた。いやぁいいね、なんか初々しい。

「……さて、ソウルフォースの基本からいくか! いくぞ~」

 俺は目を閉じ、ネーブルに向けて掌をかざした。
 あとはバランスに全てを集中させ、自然の力を体全体に流れ込ませていく。もちろん、ただ水を流し込むようではダメだ。繊細せんさいかつ丁寧に。


「――――はあぁっ!」


 エメラルドグリーンのオーラがてのひらに集まってきた。これぞ、ソウルフォースのバランス。


 ――――ところが。


 フワッ……と、


 ネーブルのスカートがめくれた。


「………………へ」
「………………え」


 お互いにポカーンとなっていたが、俺はネーブルのスカートに隠されていた乙女の秘密に目がいくばかりだった。てか、なぜめくれたー!?


「ばばばば、ばかーーーーーー!!」


 ばっとスカートを押さえ、ただでさえ赤い顔を更に真っ赤にした。


「す、すまん……。てか、黄色は派手すぎるだろ……」
「う、うるさいなぁもう……。言っておくけど、ユメの為に見繕みつくろったんだけどね……」


 ネーブルは、まさかの事実をぼそっとつぶやいた。


「え、俺のために?」
「そうよ、悪い!?」
「悪くはないよ。てか、嬉しいよ」
「…………うん」


 まさか俺の為だったとは。
 正直、顔がほころぶくらい嬉しかった。


「さ、さて……続きをいくか」
「了解よ。じゃ、今度はこっちからライジンでいくわ」

 やっといつもの調子が戻ってきたのか、ネーブルは構えた。よしよし、それでこそだ。


 ◆


 修行デートを終え、宿屋へ戻ろうとした時だった。

「ん、アイツ」

 あの宿屋で見かけた怪しい男がこちらを見ていた。帽子を深く被り、鋭い目つきでこっちを……いや、ネーブルを。


「え……わたし?」

 視線に気づいたネーブルは、俺の後ろに隠れた。


「なんだ、あんた。俺たちに何か用か」
「………………」


 男は答えない。


「行こう、ネーブル」
「う、うん」


 男のそばを通り過ぎようとしたが。
 いきなり男は俺の腹目掛けてパンチを繰り出してきた。


「…………なっ」

 拳が腹にメリ込む。


 普通の人間・・・・・なら、あの打撃フックはかなりのダメージ。気絶してもおかしくないレベルの威力だった。


 とりあえず、俺は倒れた振りをして事の成り行きを見守ることにした。


「ユメ……!? うそ……そんな、ユメしっかりしてよ!?」

「………………」


 男は次にネーブルを押し倒し、襲い掛かっていた。おいおい、暴漢だったか。


「ちょ、え……」

「ふはは……まさかこんなところに奴隷メイドを連れて歩いているヤツがいるとはな。しかも、閑散としているこんな場所に! こりゃ好都合だよなァ!」


 ………………いかん!!


 周辺の建物が危ない!!


「触るなっ!!! わたしに触れていいのはユメだけよっ!!」


 ネーブルが本気で『ライジン』を発動し、ビリビリすれば周囲の家に被害が出るだろう。そうなる前に手を打つ。


『ダークネス・アサルト!!』


 それほど強くない闇で手加減し、男をぶっ飛ばした。

「え、ユメ。無事だったの……!?」

「ああ、ちょっと様子を見ていただけだ」
「は? なによそれ! おかげで襲われたじゃない!!」

「すまん。ヤツの動向が気になってな。それに、アイツは宿屋の受付にもいたからな。きっと、マイルを狙っていたのかも」

「え、そうなの」

「そ。被害が拡大する前で良かったろ」
「うーん……なんだか釈然としないけど、まあ助けてもらったし、いいわ」


 渋々納得したネーブルは笑顔を向けてくれた。

 ほっ……。


 ま……そもそも、あの暴漢には『魔神』の腐ったような臭いが僅かだけど、したんだよな。こりゃ……何かあるな。


 ◆


 宿屋に戻ってからは、ぐったり寝てしまった。
 疲れが溜まっていたみたいだ。


 ――次の日。


 ふと目覚めると、フォースが俺の隣で寝ていた。

「――ん。どうした、フォース」
「おはよ、ユメ」

「おはよう。なんだ、機嫌が良さそうだな」
「うん。ユメのソウルフォースが安定しているから」


 あー、昨日の修行の成果が出ているのかもしれないな。そして、今ならフォースを膝の上に乗せても問題なさそうだ。ので、俺はフォースを抱き寄せ、膝の上に乗っけた。


 すると、フォースはこれといって抵抗せず、むしろ大歓迎ウェルカムといった感じで体を揺らしていた。


「お、普段は嫌がるクセに」
「今日はいいよ~♪」


 素晴らしい朝を迎えた。


 ◆


 宿屋を出ようと受付へ向かった。
 しかし、そこにはマイルの姿はなく……。


「あれぇ、いないぞ」
「忙しいのかもしれませんね」


 今日も一際美しいゼファが店を見渡していた。


「困ったなぁ、お礼くらいは言っておきたかったんだけどなー。仕方ない、このまま宿を出よう」


 みんなと共に宿を出ようとしたのだが――。



「キャアアアア!!」



 宿の奥から少女の悲鳴が! これはマイルの!


 猛ダッシュで、奥の部屋へ向かうと――


「た……助けて!」


 そこには昨晩の暴漢がマイルに伸し掛かり、襲っていた。マイルは必死に抵抗しているが、もうかなり着衣が乱れていた。……許せん!


『あぁん!? てめぇか!! また俺の邪魔をする気か、小僧!』


 こいつ……やっぱり魔神か!!


『言っておくがな、俺は35番の魔神・ダフニス様だ!!』

「知るかボケ」

 適当にブン殴ってぶっ飛ばした。


『ギョホエェエエエ!!!』


 魔神はクソ弱かった。


「大丈夫か、マイル」
「ユメ……さん」


 しかし、マイルは目を虚ろにさせ……ガクっとまるで魂が抜けてしまったかのような状態になってしまった。


「マイル!?」
「ユメ、その娘……魂が取られてしまっているわ!」
「ネーブル、それはマジか!」

 なんてこった、魂を喰われちまったのか……。


「あの魔神は恐怖だけでなく、人間の魂も奪うのかよ……」
「そうみたいね。しかも若い女の子しか狙ってないみたい。わたしだって、昨日、アイツに襲われかけたし」
「そうだったな……もっと早く気づいていれば」


 くそ……この鉄壁の光の天国ベネディでさえ、魔神がこんなにも入り込んでいるなんてな……しかも人々をこんな風に襲っていたとは、今やっと魔神による被害を実感できた。もしかしたら、四属性大陸もこんな風に被害が出ているのかも。


 そう思うと、風の帝国キリエも同じような目に……。

 いや……そっちは考えるな俺。

 今はとにかく、許せん・・・という思いが上回った。

 激しい怒りに燃えていると、追撃していたフォースが帰ってきた。


「ユメ、あいつを追ったけど……逃げられた」

「フォースを巻くとはな。逃げ足の速いやつらしい。まあいい、どこへ逃げようと絶対に倒す。あいつの気配は覚えたからな、次はない」


 マイルの魂は必ず取り戻す。
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