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第20話 混沌の日

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 魔神・ヤヌスを撃破した。

 アトラスいわく、敵はまだ複数いるようだ。この世界は、いつの間に魔神のオンパレードになっちまったんだか。


 俺は、高さ100メートル以上を誇る『ダークウォール』の上でひとり、夜明けデイブレイクを眺めながら、魔王の帰りを待った。
 いや、もう帰ってきた。


「おかえり、メイ」
「お兄ちゃ~ん♪」

 妹のメイが飛んできた。


「魔神のことは何か分かったか?」

「わかんなーい。でも、メイね、疲れちゃったから……お母さんにお願いして、パラドックスに帰りたいって言ってみたの。そうしたら、戻っていいって」

「そうか! じゃ、しばらくはこっちに居られるんだな?」


「うーん。どうだろう」


 メイの様子がおかしかった。
 どこか複雑そうな、重大な何かを隠しているような仕草。実に分かりやすい。


「メイは隠し事が下手だな」


「えへ……やっぱり、お兄ちゃんには分かっちゃうよね。
 実はね、四属性大陸が攻めて来ているの。だから、それを阻止しなきゃね。だって、このパラドックスはお兄ちゃんの国だもの。だったら、メイもお兄ちゃんの為に頑張らなきゃね♪」


「さすが俺の妹だ! けどな、無茶はするな。いくら魔王で強いって言ったって限界はある。それに、魔神が攻めても来ているんだ。メイひとりに全てを背負わすなんて真似は出来ないよ。しばらくは俺の家にいるんだ」


 メイは、顔を輝かせて飛びついてきた。


「うん、そんなね、優しいお兄ちゃんが大好き♪ だから、国を守ってあげるね」


「え?」


 俺から離れるメイは、漆黒の翼を大きく広げると――



『ピュ~~~~~~~~~~~ン!!!』



 …………マッハで飛んでいった。


「人の話を聞いちゃいねぇ~~~!!!」



 まあいいか。ああ見えて魔王だし。

 俺より心は強いし。



 メイは不屈の精神を持ち、困難に立ち向かう最強妹だった。


 ◆



 ダイヤモンドのおかげで、国が豊かになりつつあった。
 家がまた増え、いつの間にかアイテムショップ、鍛冶屋、錬金術師の店、テイム屋、教会、城、温泉、農場、牧場、専用ダンジョン……などなど追加されまくっていた。


 なんだか怪しい『むま店』まであった。

 むま? む? 忍者サキュバスの店??

 オーナーは、キャロルらしいが――って、おい!!



「怪しい店はともかく……。はえー…どうなってんだこれ」


 いつの間にか発展しまくっていた国に驚いていると、背中をポンポンされた。


「ん? あ、キャロル。おはよう」

「おはようございます、ユメ。如何いかがですか」
「如何もなにも……ああ、キャロル。お前の仕事か、これ!」

「ええ、そうですよ。ユメがそうしろと、おっしゃったじゃありませんか」


 いや、そうだけど……ここまでとはな。


「では、私は一日忙しいので。また」


 今日は調子がいいのか、キャロルは上機嫌で走って行った。……まあいいか。国が豊かになる分には問題ない。


 ◆


 街の様子を視察がてら散歩していると、デイブレイクのメンバーである女の子が話しかけてきた。顔はなんとなく見覚えがあった。


「あ、あの……ユメさん」
「ん、キミは?」
「わたしは『レア』と申します。そ……その、お付き合い戴きたく」


 頬を赤く染めるレアは、そう頭を下げた。
 妹のメイのような、可愛らしい子だなと俺は思った。


「――って、お付き合い!?」
「はい……昨日の戦い、とても感動しまして……! よ、よろしければ……けけけ結婚を前提にお付き合いを考えて戴ければ」


「え!? 結婚!?」


 いきなり結婚まで言われるとはな。これはちょっと……いや、かなりビックリした。


「なるほど……驚いたけど、うーん。そうだね、キミみたいな可愛い子なら……うあああああああああッ!!!」


 いきなり体が宙に浮いて、突き飛ばされた。

 俺は地面に叩きつけられ、砂山に突っ込んだ。……いてぇ、地味なダメージを受けたぞ。誰だよ、いきなり!!

 振り向くとそこには……


「げぇっ!!! フォース……」


 しかも、めっちゃ見下してる。てか、にらんでる。


「ユメ……」
「いや、これは、その……ぶふぇっ!! やめろって、ソウルフォースで突き飛ばすなって……うわっ、ぐぼ!?」


 三回くらい連続でプレッシャーを受けた。


 これは、ソウルフォースの中でも基本的な技で、対象をノックバックさせるスキルなのである。ま、要は突き飛ばすだけの効果なワケだが、後から来る節々の鈍痛が地味に辛い。


「…………」

「そうにらむなって。ほら、手を繋いでやるからさ」

 手を差し伸べると、フォースは渋々しぶしぶと繋いできた。


「…………浮気しないって約束」
「分かってるよ。ほら」
「……うん」


「そういうわけでね、レアさん。すまない」
「そ、そうでしたか……。私の方こそごめんなさい。でも、友達くらいにはなって戴けますよね!?」


 なんと! 今度はそう来たか。
 この諦めない心意気、素晴らしいな。


「それくらいならいいよ。じゃ、俺は行くね」
「ありがとうございます! ではでは」


 ペコペコ頭を下げて、レアは行ってしまった。
 なんだか、さっぱりした娘だったな。


「ん……どうした、フォース。自分の胸をペタペタ触って……」

「ユメはやっぱり大きい方がいいよね」

「レアを意識しすぎだろ……。別に気なんかないし、そう落ち込むな」
「けど、ネーブルやゼファも大きいよ?」


「うっ……! そ、それはそれ、これはこれだ」


「ソウルフォースの乱れを感じる」


「ううっ……。いいか、フォースにはフォースにしかない魅力があるんだぞ。こんなに可愛いし、あと……」
「あと?」


極魔法使いアルティメットウィザードだし……」

「ふーん」

 あ、まずい……機嫌がどんどん悪くなってるっぽい。
 俺のボキャブラリーの無さに、自分自身を殴りたい……。


 だけど大丈夫。


 フォースの機嫌を取り戻すにはこの奇跡が一番だと、はじめから分かっている。だから俺は、まだ未開発の土地に向けて手をかざした。


「…………」


 ある日、師匠マスターが言っていた。
 ソウルフォースは、理とバランスの力であり、自然の力を借りているのだと。だから、やりようによっては奇跡を起こすのも容易いのだと。


 そうして、次第に、なにもない土地から花や木が少しずつ生えてきた。

 万物の力を借り、ソウルフォースで自然をそこに作り上げたのだ。


「ふぅ、こんなところか。今後はこうやって、国に自然を増やしていこうかね。そうすりゃ、資源不足にも悩まされずに済むだろう?」


「……ユメ♡」


 子供の様にすがり付いてくるフォースは、大変喜んでいた。純粋無垢にして、極上の笑顔。

 可愛すぎて、俺の心臓はどうかなりそうだった。


「よ、よし……。フォース、肩車するよ」
「うん♡」


 ◆ ◆ ◆


 一万のクリーチャーが全滅したと、報告を受けた魔神王は怒り狂った。



『ふざけるなァァァ!!!』



「ひぃ……。ですが……魔神王様。すべて事実でございますゆえ」


『パーリアク、貴様はもう不要だ。消えろ』


「なっ、魔神王様! 魔神王……サトゥルヌス様!! どうか、ご慈悲ヲウォォォオオオオオオオオオオオオオ、ヌオワアアアアアアアアアアアアアアア………………!!!」



 階級【Zwanzigツヴァンツィヒ】を持つ、20番目の魔神は消された。



『イアペトゥス 、フェーベ、ヒペリオン、タイタン……貴様たちには、あの低級世界・バテンカイトスの徹底破壊を命ずる。よいな……!』



「はっ……」「了解」「……御心のままに」「…………承知」



 階級【Neunノイン】、【Achtアハト】、【Siebenズィーベン】、【Sechsゼクス】――9~6番目の魔神が一斉に飛び出した。



 世界は更なる混沌カオスへ向かいつつあった。
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