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二人きりになりたい北上さん

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 なぜか俺の手を引っ張る北上さん。黙ったまま真っ直ぐ歩いていた。いったい、どこまで連れて行かれるんだろう。

「なあ、そろそろ行先を教えてくれ」
「行先は秘密です」
「え?」
「あたしは哲くんと二人きりになりたい……だけなのです」

 語尾が弱弱しい。耳が赤い。
 そういうことか。これはつまり俺とデートしたいわけか。素直じゃないところが可愛いな。

「といっても、こっちの方は民家ばかりだぞ」
「少し先にカフェがあるんです」
「ネタバレ早いな」
「もう観念しました。調べておいたカフェへ行きましょう」

 スマホの画面を見せてくれる北上さん。ほー、本当だ。たまにはゆっくりするのも悪くないかな。しかも、北上さんの誘いだ。これを断るなんてモッタイない。

 カフェまで歩く。思ったよりも距離があったが、なんとか到着。
 そこは、こじんまりした小さなカフェだった。……うわ、ちょっと入りづらいな。

 けれど、北上さんは気にせず入った。さすがだな。俺一人ではこういう店を利用するのは厳しい。

 中へ入ると、なんだかスナック風の内装だった。え、これスナックじゃないよな!?

 空いているカウンター席へ。
 すると直ぐに店の奥から店員さんが。


「いらっしゃい。おや、見ない顔ですね」


 まるでバーテンダーみたいな若々しいお兄ちゃんが現れた。もしかしてこのカフェのオーナーかな。
 髪をオールバックで決め、スーツもビシッと決めていてカッコイイな。


「観光で来たんです。このお店が目に入ったもので」


 淡々と説明する北上さんはコーヒーを注文していた。いやしかし、酒でも出てきそうな雰囲気だな……。


「そうですか。そちらのお連れさんは彼氏ですか?」
「そんなところです」

「へえ、彼氏さん、こんな可愛い彼女さんと付き合っているなんてうらやましいですね」

 微笑むバーテンダー…じゃなくて、カフェの恐らくオーナー。爽やかで人の良さそうな人だなと俺は思った。


「オーナーなんですか?」


 今度は俺が聞いてみた。


「そうですよ。このカフェのオーナーをやっています、伊良部いらぶというものです」

「俺は早坂。彼女は北上です」

「……ああ、なるほど。あなた方でしたか」
「俺たちを知っているのか?」

「ええ。遠見さんがよく話していましたので」


 なるほどね、遠見先生ってばこのカフェの常連のようだな。ボカした状態で俺たちのことをそれとなく話していたのだろうな。機密情報は漏らしていないと思うが。

「遠見先生とお知り合いなんですね」
「常連さんですからね。……って、先生?」


 ――やべ。そういえば、遠見先生というのは裏の、闇医者としての立場なんだっけ。忘れていた。表向きは居酒屋の店主だったな。


「あ、いや。遠見先生は俺たちの教師だったんです」


 と、誤魔化してみた。こう言うしかないよなぁ。
 幸い、伊良部さんは納得してくれた。セーフ。


「そういうことですか~。では、コーヒーを淹れますね」


 さすがカフェ。ケトルや電球のような丸い容器サイフォンとフラスコを準備していた。……すげえガチだ。本格的すぎる。
 確か、ろ過して抽出するんだっけ。なんで知っているんだ俺。


「哲くん、改めて話したいことが」
「な、なんだい、北上さん」
「一緒にアメリカへ行きませんか」
「アメリカか~。いいね、なんだかんだ世界一の国だし、北上さんの故郷でもある」
「知り合いのツテを使えば『証人保護プログラムWITSEC』も受けられるでしょう。アメリカ政府との取引も可能かと」

「そういえば、北上さんのお父さんがアメリカ軍人なんだっけ。それも特殊な」
「ええ。父の名を出せばこちらの状況を分かってもらえるかと」

 それは心強い。正直、変な国へ行くくらいならアメリカで悠々自適な生活を送るのもアリだ。向こうは土地も広ければ、なにもかもが大規模。
 英語を覚えるのが大変だが、得意なメンバーも多いので大丈夫だろう。

 懸念点として治安の悪い州があったり、銃社会だったり――か。あと医療費がバカ高いと聞く。

 メリットもあればデメリットもある。
 なるべく負担の少ない国がいいが、アメリカが無難ではあるな。

「ちょっと考えてみるよ。でも、俺はいいと思う」
「ありがとう、哲くん。……赤ちゃん、何人欲しいですか?」

「うーん……そうだな。まあ、まずは二人くらい――って、なに言ってんだよ!? 素で答えそうになったわ! いやもう半分答えちゃったけど!」


 北上さんめ……アメリカでどんな暮らしをイメージしているんだか! ……いや、まあ、想像以上にいい生活が見えていたな今。
 アメリカか~、いいかもしれないな……!
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この作品は『カクヨム』で先行連載中です。
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