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偶発的な事故

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 家を出て千年世と二人きりで島を回った。
 とはいえ、そこそこ広い島だ。
 全部見回るとなると半日は掛かるだろうな。

 なので今回は浜辺を歩く程度だ。

「ここを歩くと、かつての無人島『宝島』を思い出すな」
「そうですね。ちょっと似ているかもしれません」

 周囲を見渡す千年世。
 とはいえ、海しかないけどな。

「ところで、あの姉妹のこと知っていたか?」
「あ~、月ちゃんと星ちゃんですか。私は知らなかったですね」
「そうか。ところで、あの双子って同級生だったっけ」
「そうですよ。でも確か、休学中だったはずです」
「なんだって?」

 詳しく聞くと、月も星も二年生ではあったようだが、姉妹揃って休学していたようだ。どういうことだよ。……いやだけど、思い出してみろ。

 二人は、もともと学年主任の橘川に脅されて動いていたようだった。でも、なんで?

「織田家は、海外にも名の通った名家らしいです。なので、なにかしらの弱みを橘川に握られていたのかもしれませんね」

 なるほどね。その可能性はありそうだ。そうでなければ、あの姉妹が『スターゲイザー』だなんて高級機材を無人島に持ち込んで管理するはずがないんだ。
 どうやら、このオーハ島にも設置してあるようだな。

 だから、ネットは使えるようだ。

 スマホでネットニュースを見てみると、ちゃんと閲覧できた。

「あとで詳しく聞いてみるか」
「その方がいいでしょう」

 ……それにしても、鹿児島港での強襲事件の記事はほとんどないな。SNSや動画投稿サイトに動画が投稿されても即削除されているようだし、どんだけ厳しい検閲が掛かっているんだ。
 どこかの海外じゃあるまいし、おかしいぞ。ここは日本のはずだ。こんな厳しい検閲はないはず。だとすれば、誰かが規制を掛けているんだ。
 いったい、誰が?

 いや、そんなことは大体想像がつく。

 あのロシア人共だ。
 相手の組織は“ロシア対外情報庁SVR”もしくは“ロシア連邦保安庁FSB”とでも言うのか?
 まさかな。


「千年世、ここは安全だとは思うけど、みんなを守ってくれ」
「もちろんです。早坂くんのことだって守りますよ」

 砕けた笑顔で千年世は断言した。
 俺はつい見とれてしまった。

 ぼうっと立ち尽くしていると、千年世が俺を押し倒してきた。

「ちょ……うわッ!?」
「せっかくの二人きりですから」

 抱きついて耳元で囁いてきた。
 そ、そんな風にされたら俺は弱いぞ。

 油断していると千年世は、俺のズボンのチャックを下ろした。そのまま手を突っ込んできて――って、イカンでしょ!

「すとーっぷ! それ以上は危険すぎるって」
「ほら、早坂くんのここ……苦しそうだから、癒して差し上げたいんです……」

 それは千年世が抱きついてくるせいなんだがな。
 彼女は胸も大きくて、それに可愛くて美人で魅力の塊だからな。
 そりゃ俺みたいな、よわよわ男子は一発で落ちる。

 しかし、こんなところを誰かに見られたら、それはそれで大問題なのだ。

「まて。気持ちは嬉しいけど、せめて夜とか」
「そ、そうですか。少し残念ですが――ひゃっ!?」

 突然飛び跳ねる千年世は、俺の股間に顔を埋め――たあああああああああ!? うわ、うわ、うわああああああああああああああ!?!?!?

 な、な、なんで!?

「ちょっと、大胆すぎるって!」
「ち、違うんです! ウミヘビ! ウミヘビが!!」

 ウミヘビ?
 よく見ると浜辺に上がってくるウミヘビの姿があった。それで驚いて俺の股間に突っ込んできたのか。
 ……って、まて、千年世さん……。
 こ、この感触はまさか……。
 いやいや、これは偶発的に起きた事故なんだ。
 ウミヘビが悪いんだ!!

「…………う」
「んんッ!?」
「って、暴れるな、千年世!」

 仕方ないので俺は、千年世をお姫様抱っこ。
 ウミヘビから逃げるようにして草むらへ。
 だが、ウミヘビはこちらに狙いを定めたのか向かってくる。くそっ、完全に獲物にされている。なら、仕方ない。
 噛まれる前にウミヘビを倒すしかない。

 俺は新しく新調したフォールディングナイフを取り出した。

 服に仕込んでおいて良かったぜ。

 千年世には離れてもらい、俺は素早くウミヘビの頭部に刃を突き刺した。
 ウミヘビは絶命して動かなくなった。

「いっちょあがり」
「……す、凄い。早坂くん、凄いです! うあああああん……」

 褒め称えながらも千年世は、俺に飛びついて泣きじゃくっていた。ちょっと頼もしくなったと思ったけど、こういう生物相手にはまだ弱いらしい。

 まあいいか、こうして千年世との時間を過ごせるのは貴重だから。


 * * *


 拠点へ戻ると、天音が心配そうに立っていた。いや、みんなもいる。

「すまん、天音」
「心配したんだから! って、千年世ちゃん……なんで落ち込んでるの?」
「これは海よりも深いワケが。ああ、そうだ、お土産があるぞ」

 俺は獲ったウミヘビを天音に見せつけた。
 すると、天音は青ざめて直立不動のままぶっ倒れてしまった。

「…………きゅぅ」

「え、天音!? 天音!! ちょ、天音えええええええええええ!!」

 てか、他の女子も逃げちゃったし。北上さんだけを残して。

「ウミヘビなんて持ってきたら、普通女子は逃げますって。啓くん、きちんと処理してくださいね」

「悪い。天音だけおどかそうと思ったんだが……」
「なんです、その好きな子に意地悪しちゃうみたいな」
「そ、そんなことはないぞ!?」
「そんなことより、財宝の現金化計画が先でしょう」

 妙にイライラしている北上さんは、俺からウミヘビを奪い取り……しかも素手でつかみ取り、ブン投げた。ちょうど猛禽類が飛翔してきて、そのウミヘビを獲っていってしまった。

 マジかよ!!

 やっぱり、北上さんは最強プロというか。敵わんな、ホント。
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