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新しい居場所

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 二階へ運ばれて、部屋に入った。
 とても整っていて落ち着きのある空間。本棚に囲まれ、ベッドも広く大きい。


「ここを使ってくれ」
「こんな素敵な部屋を使わせていただいても……いいのですか?」
「いいよ、好きに使って」

 ふかふかのベッドに座らせてくれた。
 また足を診てくれて、心拍数が上昇した。

 人から、ここまで優しくされたのは初めて。

 こんなにも温かいものだったんだ。知らなかった。


「なんだか申し訳ないです」
「気にする必要はないよ。もうこの部屋はファウスティナのものだ」
「居場所をいただき、ありがとうございます。本当に嬉しい」

「足の方は捻挫だろう。安静にすれば大丈夫だと思う」
「良かった……」

「お茶を淹れてくるよ。ここで待っていて」


 部屋を静かに出ていくエゼル様。

 そういえば、妹は彼が公爵だと言っていた。
 もしそれが本当なら、なぜお店を経営しているのだろう。
 少し疑問に感じた。

 そんな風に思っていると、外から声がした。


『――ファウスティナ、ファウスティナはいるか!』


 この声は、まさか伯爵?
 足を引きずりながら、わたしは窓を覗いた。
 すると、店の前に伯爵エルズワースの姿があった。

 どうして、ここに。


 ……まさか、妹が告げ口を。


「……エレイン」


 せっかく屋敷を飛び出したのに、連れ戻されるのは嫌。
 このまま居留守を使っても良かったけど、エゼルに迷惑は掛けられない。

 わたしは窓を開け、伯爵を見下す。


「……おぉ、ファウスティナ! こんなところにいたか。さっき、お前の妹・エレインが居場所を教えてくれてな」

「なぜ来たのです」

「さっきのことは水に流そう。お前吐いた暴言は聞かな・・・かった・・・ことにする。だから、こちらに戻ってくるんだ」


 妙に優しい。
 顔も不自然に笑っている。

 ……信じられない。

 伯爵ほど信じられない人物はいない。

 あれは極悪そのもの。


「では、今まで民にしてきたことを悔い改めますか」
「……なに?」

「金品を巻き上げていたではありませんか。今まで奪ってきたものを返すのです」

「な、なにを言っている。俺は平民から巻き上げてなどいない」


 嘘だ。
 悪い噂程よく広がり、よく耳に入る。


「では、被害者に訊ねてみますか。どうせ恐怖とかで押さえつけているのでしょうが」
「そうさ、聞くだけ無駄さ! ファウスティナ、さっさと俺のモノになれ!」

「そういう強引な人は嫌いです」


 吐き捨てると一階の出入り口に気配が。
 あれはエゼル様。

 険しい表情で伯爵の前に立った。


「貴様……エゼル!」
「エルズワース、ここはお前が立ち寄っていい場所ではない。帰れ」

「ふざけるな。俺はただ、婚約者を連れ戻しにきただけだ」
「破棄されたんだろ。じゃあ、他人だ」

「てめェ!!」


 激怒するエルズワースは、拳を振るう。
 けれど、エゼルはあっさり避けて『エメラルド』らしき緑の宝石を弾き飛ばした。

 それは物凄い威力でエルズワースの顔に激突して、彼は風のように飛ばされてしまった。


 ……ま、魔法なの?
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