辺境伯令嬢は悪逆皇帝でも愛したい

桜井正宗

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辺境伯令嬢と皇帝 - 1

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 わたしは、フラッド伯爵に捨てられたことを詳しく話した。

「……ということがあったのです」
「そうだったのか。それでこんなに泥まみれに……可哀想に。だが、安心するといい。これからは僕が面倒を見よう」

「失礼ですが、陛下はどうして……そんなに優しいのですか。噂とは大違いで」

 くすっと微笑む陛下の笑みは純粋だった。名画のように、あまりに美しかったから……わたしは見惚れてしまっていた。

「僕は自ら悪役を演じているんだ」
「え……どうして」
「今は秘密さ。先に君の事を知りたい。話はそれからだ」

 わたしのことを……なんだか嬉しくて胸の高鳴りが激しくなってきた。どうしよう、どうしよう。

 こんな泥まみれなのに。

 しかもお姫様抱っこされてしまった。ここまでしてくださるなんて感激しかなかった。

「陛下、わたし……汚いですよ……」
「関係ない。僕は助けたいと思った人を助ける」


 優しく包まれ、わたしは泣きそうになった。陛下はこんなに優しい人なんだ。なのに、どうして嫌われるようなことを。
 わたしはそれを知りたい。


 ◆


 小雨の中、ウェザー城に運ばれていくわたし。あんなにも荒んで冷たかった心が、今は陛下のぬくもりによって満たされていた。

「そうだ、名前を聞いていなかったね」
「そうでした。わたしは“クレメンタイン”と申します」
「クレメンタイン……? スプリンクル辺境伯の令嬢むすめだったか」
「御存知だったのですね」
「辺境伯とは何度か話をしている。君をよく自慢していた。僕と会ってくれともね」
「そ、そんな恐れ多いことを……お父様ってば」

「構わないさ。僕の数少ない話し相手だからね」


 皇帝専用の大浴場に案内され、わたしは手前で降ろされた。自由に使っていいということだった。……い、いいのかな。けれど、泥塗れのままも……嫌だったから、お言葉に甘えることにした。

「ありがとうございます、陛下」
「ごゆっくり。なにか困ったことがあったら、いつでも言ってくれ」

 陛下は爽やかな笑みで去っていく。
 ……とっても良い人。
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