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第65話 未知の物体Xを討伐せよ
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森の中を歩き、パルウァエ村へ辿り着いた。
「なんだか久しぶりだな」
「そうですね。この前は戦いで落ち着いている場合でもなかったですから」
そうだ、前はサフィラス伯爵との対決でそれどころではなかった。そして今は、新たな危機に直面している。モンスターに襲われていたとはな。
この村は、俺にとっても大切な場所だ。
命の恩人であるメディケさんが助けてくれたし、この村がなければ俺はとっくに死んでいただろう。今の俺は無かった。
「今こそ恩を返す時だ。事情を聞いて、モンスターを討伐しよう。フルク、手を貸してくれ」
「もちろんですよ。でも、もう手は貸してますよ」
イニティウムからずっと手を繋ぎっぱなしだった。完全に無意識だったというか、忘れていたというか……。
村の前でその事実に気づき、俺は今更ながら心拍数を上昇させた。……なんだろう、こう意識すると動悸が収まらなくなる。
「フルク……その、いつも俺の傍にいてくれてありがとう」
「あ、当たり前ではないですか! アウルムさんこそ、いつもわたしの事を気にかけて下さって嬉しいです……」
あれ、おかしいな。
なんかいつもと違う空気を感じる。
なんだろう、フルクの顔が赤いし……俺も赤いし、頭も心臓もどうかしている。今日の俺は何かおかしい。これは何だ、何なんだ。
このまま雰囲気に押されて、俺はフルクと――
「おぉ、アウルムくんじゃないか!!」
「……」
この元気な声はメディケさんだ。
一生有るか無いかの甘美な空気を跡形もなく破壊された。今あるのは闇と虚無の狭間。
……絶望したッ!!
などと心の中で叫んでいる場合ではない。
「メディケさん、やっぱりこの村にいたんですね。噂は聞きましたよ、モンスターにやられた患者を診ているんですね」
「あぁ、そうとも。なんだ、話が早いな。詳しい内容も話すよ、こっちへ」
案内され、俺とフルクはついていく。
◆
メディケさんの診療所兼家に入ると、重傷者がベッドに寝ていた。本当に襲われていたんだな。
「どうしたんです?」
「うん、それなんだが……未知の物体Xとでも呼称しておこうか。よく分からないモンスターに襲われたんだよ」
「未知の物体X?」
「そうさ、あれがモンスターなのかどうかさえ分からない。でも、イニティウムの元冒険者が追い払える程だから、今は強くない。でも、その強さも最近では変化していてね。どうやら、その未知の物体Xは学習するようなのだよ」
な、なんだそれは……。
今のところイメージも湧かないし、バケモノにしか思えない。いや、その通り、バケモノなのだろう。けど、まだ弱いのか。まだ弱いって事は、これから強くなる可能性がある。げんにこの村では対処できないし、イニティウムでは追い払うのが精一杯のようだった。
「まずいですね」
「ああ、まずい。そこでだ、正式に勇者アウルム、聖女フルクトゥアト……お二人に依頼を掛けたい。未知の物体Xを討伐してくれ。このままでは、村が滅ぶかもしれないからね、頼んだよ」
そこまで言われては断れないし、断るつもりもないけどな。今こそ村の為に役に立ちたい。この村だって、いずれは都市にしなきゃいけないんだから――。
「フルク、来てくれるよな」
「わたしはいつでも大丈夫です。で、でもちょっと怖いのでまた手を繋いで下さい」
恐る恐る手を伸ばしてくる。確かに手が震えていた。まあ……未知の物体Xとか言われたら、不気味で気持ち悪いよな。勇者の俺でさえ、ちょっと不安があった。でも、必ず倒す。必ずな。
◇◆◇◆◇
崖を降り、森を目指す男は立ち止った。
「――ほう、村の方では未知の物体Xなどと呼ばれているのか。アレは、私の最高傑作なのだがな。ふむ、様子を見るとしようか……勇者アウルム、貴様に復讐を果たす時が来たのだ」
「なんだか久しぶりだな」
「そうですね。この前は戦いで落ち着いている場合でもなかったですから」
そうだ、前はサフィラス伯爵との対決でそれどころではなかった。そして今は、新たな危機に直面している。モンスターに襲われていたとはな。
この村は、俺にとっても大切な場所だ。
命の恩人であるメディケさんが助けてくれたし、この村がなければ俺はとっくに死んでいただろう。今の俺は無かった。
「今こそ恩を返す時だ。事情を聞いて、モンスターを討伐しよう。フルク、手を貸してくれ」
「もちろんですよ。でも、もう手は貸してますよ」
イニティウムからずっと手を繋ぎっぱなしだった。完全に無意識だったというか、忘れていたというか……。
村の前でその事実に気づき、俺は今更ながら心拍数を上昇させた。……なんだろう、こう意識すると動悸が収まらなくなる。
「フルク……その、いつも俺の傍にいてくれてありがとう」
「あ、当たり前ではないですか! アウルムさんこそ、いつもわたしの事を気にかけて下さって嬉しいです……」
あれ、おかしいな。
なんかいつもと違う空気を感じる。
なんだろう、フルクの顔が赤いし……俺も赤いし、頭も心臓もどうかしている。今日の俺は何かおかしい。これは何だ、何なんだ。
このまま雰囲気に押されて、俺はフルクと――
「おぉ、アウルムくんじゃないか!!」
「……」
この元気な声はメディケさんだ。
一生有るか無いかの甘美な空気を跡形もなく破壊された。今あるのは闇と虚無の狭間。
……絶望したッ!!
などと心の中で叫んでいる場合ではない。
「メディケさん、やっぱりこの村にいたんですね。噂は聞きましたよ、モンスターにやられた患者を診ているんですね」
「あぁ、そうとも。なんだ、話が早いな。詳しい内容も話すよ、こっちへ」
案内され、俺とフルクはついていく。
◆
メディケさんの診療所兼家に入ると、重傷者がベッドに寝ていた。本当に襲われていたんだな。
「どうしたんです?」
「うん、それなんだが……未知の物体Xとでも呼称しておこうか。よく分からないモンスターに襲われたんだよ」
「未知の物体X?」
「そうさ、あれがモンスターなのかどうかさえ分からない。でも、イニティウムの元冒険者が追い払える程だから、今は強くない。でも、その強さも最近では変化していてね。どうやら、その未知の物体Xは学習するようなのだよ」
な、なんだそれは……。
今のところイメージも湧かないし、バケモノにしか思えない。いや、その通り、バケモノなのだろう。けど、まだ弱いのか。まだ弱いって事は、これから強くなる可能性がある。げんにこの村では対処できないし、イニティウムでは追い払うのが精一杯のようだった。
「まずいですね」
「ああ、まずい。そこでだ、正式に勇者アウルム、聖女フルクトゥアト……お二人に依頼を掛けたい。未知の物体Xを討伐してくれ。このままでは、村が滅ぶかもしれないからね、頼んだよ」
そこまで言われては断れないし、断るつもりもないけどな。今こそ村の為に役に立ちたい。この村だって、いずれは都市にしなきゃいけないんだから――。
「フルク、来てくれるよな」
「わたしはいつでも大丈夫です。で、でもちょっと怖いのでまた手を繋いで下さい」
恐る恐る手を伸ばしてくる。確かに手が震えていた。まあ……未知の物体Xとか言われたら、不気味で気持ち悪いよな。勇者の俺でさえ、ちょっと不安があった。でも、必ず倒す。必ずな。
◇◆◇◆◇
崖を降り、森を目指す男は立ち止った。
「――ほう、村の方では未知の物体Xなどと呼ばれているのか。アレは、私の最高傑作なのだがな。ふむ、様子を見るとしようか……勇者アウルム、貴様に復讐を果たす時が来たのだ」
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