上 下
8 / 8

8.レベルゼロの宮廷錬金術師と聖女を引退したエルフの旅路

しおりを挟む
 パーティを助け、そのまま次の街である『インディゴ』を目指す。

 けれどまだ道のりはある。
 草原をひたすら歩き、そして日が沈みかけた。

 焚火を準備し、夜営に備えた。
 リーベには申し訳ないけど。

「すまん、リーベ」
「いいんです。野宿なんて初めてで逆にワクワクしますから!」
「それなら良かった。不便をかける」

 一方のエルガーは手慣れた手つきで薪を焚火に放り込む。さらに料理も進めていた。
 テキパキを作業を進めていく。
 さすが軍人だな。
 戦争の経験が活かされているわけだ。

「なんだ、リヒト」
「いや、軍人はやっぱりサバイバル術も学んでいるんだなって」
「当然だ。オークと戦争していた時は北国で過酷な戦いを強いられた。私の部隊は孤立したこともあったんだよ」

 そうだな、以前に聞かされた。
 内容が内容だけに深くは聞いていないが。

「まあいい、飯にしよう」
「ああ。ヘルブラオで仕入れたドラゴン肉がある。今晩はステーキにしよう」
「名案だな」

 じゅうじゅうと焼けていく肉。
 上手そうな音と匂いがする。

 時間が経ち、焼けた。

「ほら、出来た。リヒトとリーベ様の分だ」

 皿に盛りつけられる肉。てか、皿をどこから出した……?
 ナイフとフォークもあるし。

「なあ、エルガー。食器とかどこで?」
「おいおい、リヒト。アイテムボックスくらい知っているだろう」
「あ、ああ……そうだった。長いこと宮廷錬金術師をしているから、忘れていたよ」
「お前というやつは」

 そうだ。アイテムボックスがあれば、多くのアイテムを収納できる。
 リュックだとかカバンだとかを持たなくて済む。
 身軽に冒険ができる神システムだ。

 だが、アイテムボックスを獲得するには“冒険者登録”が必要だ。費用はそれほど掛からないらしい。
 俺は冒険者から離れてかなり長いし、失念していたよ。

「いただきますっ」

 腹ペコだったのか、リーベはナイフを動かす。俺も腹が減った。飯にしようっと。

 ステーキを美味しく頂き――食事を終えた。

 リーベは満腹になったのか、しばらくして横になっていた。俺は風邪を引かないよう、毛布を掛けてあげた。


 エルガーと焚火を見つめる時間が続く。


「……リヒト」
「どうした」
「……実は話さなければならないことがある」

「え……」

「これから一緒に旅をするんだ。真実を話しておかないと」
「どういう意味だ?」


 煙草に火をつけるエルガー。その手は少し震えているようにも見えた。
 なんだろう。


「実はな。お前とリーベ様に宛てた手紙なんだが……」
「ああ、婚約破棄の?」
「そうだ。アレは“ある貴族”が書いた手紙なんだ」
「!? な、なんだよそれ!」

「悪い。私は知っていたのにリヒト、お前に伝えられなかった。許してくれ」
「いや、許すも何も……ある貴族って?」

「ハオス伯爵さ。彼はリヒトとリーベ様を別れさせる為に、偽装の手紙をそれぞれに出した。で、俺はリヒトに手紙を渡すように頼まれたんだ」


 そうだったんだ。手紙はニセモノだったんだ。

「……って、まて。俺の結婚相手ってリーベだったの!?」
「そうだ。リーベ様がお前の婚約相手。今も有効のはずだ」
「マジかよ」

 俺はついリーベの顔を覗いた。幸せそうに眠るリーベ。彼女が……婚約者だったとは。 そういえば、リーベも婚約破棄されたと言っていたっけな。

「まあなんだ。この旅は傷心旅行なんだよな。今はそれで続けていくべきだ」
「そうだな。いきなりリーベに俺が婚約相手でした……なんて言えないな」
「うむ。時が来たら話してやれ」
「そうするよ」
「まずはハオス伯爵をどうにかしないとな」
「ああ、分かった」

 伯爵はいずれ何とかする。
 ハオス伯爵とは一度だけ顔を合したことがある。
 かなり手ごわい相手だが、今は旅をする方が先決だ。
 俺はまだリーベがどんな子なのか、それほど分かっていない。もっと彼女のことを知りたい。

 それに、久しぶりに親友であるエルガーと過ごす時間も楽しい。

「私はそろそろ寝る」
「じゃあ、俺は見張りだな」
「時間になったら交代するさ」

 エルガーは横になっても、タバコをふかし続けていた。どっちなんだか。


 ◆


 その後、俺たちの旅は長く続いた。

 ある時、俺はリーベに俺が婚約者であると打ち明けた。


「そうだったんですね……」
「俺たち、結婚を前提に……付き合わないか」
「はい、もちろんです」


 旅路から一ヶ月後。

 俺とリーベは再び婚約を果たした。


 -完-
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

とりかえばや聖女は成功しない

猫乃真鶴
ファンタジー
キステナス王国のサレバントーレ侯爵家に生まれたエクレールは、ミルクティー色の髪を持つという以外には、特別これといった特徴を持たない平凡な少女だ。 ごく普通の貴族の娘として育ったが、五歳の時、女神から神託があった事でそれが一変してしまう。 『亜麻色の乙女が、聖なる力でこの国に繁栄をもたらすでしょう』 その色を持つのは、国内ではエクレールだけ。神託にある乙女とはエクレールの事だろうと、慣れ親しんだ家を離れ、神殿での生活を強制される。 エクレールは言われるがまま厳しい教育と修行を始めるが、十六歳の成人を迎えてもエクレールに聖なる力は発現しなかった。 それどころか成人の祝いの場でエクレールと同じ特徴を持つ少女が現れる。しかもエクレールと同じエクレール・サレバントーレと名乗った少女は、聖なる力を自在に操れると言うのだ。 それを知った周囲は、その少女こそを〝エクレール〟として扱うようになり——。 ※小説家になろう様にも投稿しています

聖女召喚

胸の轟
ファンタジー
召喚は不幸しか生まないので止めましょう。

【完結】シロツメ草の花冠

彩華(あやはな)
恋愛
夏休みを開けにあったミリアは別人となって「聖女」の隣に立っていた・・・。  彼女の身に何があったのか・・・。  *ミリア視点は最初のみ、主に聖女サシャ、婚約者アルト視点侍女マヤ視点で書かれています。  後半・・・切ない・・・。タオルまたはティッシュをご用意ください。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

【完結】慈愛の聖女様は、告げました。

BBやっこ
ファンタジー
1.契約を自分勝手に曲げた王子の誓いは、どうなるのでしょう? 2.非道を働いた者たちへ告げる聖女の言葉は? 3.私は誓い、祈りましょう。 ずっと修行を教えを受けたままに、慈愛を持って。 しかし。、誰のためのものなのでしょう?戸惑いも悲しみも成長の糧に。 後に、慈愛の聖女と言われる少女の羽化の時。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

処理中です...