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4.宮廷錬金術師の証

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 ヘルブラオの宿屋へ戻った。
 丁度受付のお姉さんが接客を終えたところ。俺は討伐完了を申告した。

「お姉さん、ブルーコボルトを10体倒したよ」
「え……もうですか!? 早いですね」

 お姉さんは驚きながらも、ブルーコボルトの毛を確認した。きちんと10本ある。

「これで大丈夫だよね」
「はい、確かに! ご苦労様でした。では約束通り、一泊無料です!」

 クエスト達成。
 無事に一泊できる権利を獲得した。……ふぅ、それなりに苦労した甲斐かいがあったな。

「よかったですね、リヒトさん」
「リーベが手伝ってくれたおかげだよ」

「いえ、わたしなんて……」
「そんなことないよ。ひとりでは無理だった」

 多分俺ひとりだったら野宿を選択していた。でも、リーベのことを考えたらと思うと、なるべく暖かい宿を取りたかった。

 お姉さんから部屋の番号を聞き、二階へ向かう。

 隅の部屋に入って、ようやく落ち着けた。


「ふかふかのベッドですっ」
「これなら安心して寝られる」


 部屋にはベッドが二つある。これなら問題なく睡眠が取れるな。
 少し横になろうかと思ったが“ぐ~”と音が鳴った。リーベのお腹の音だ。

 赤面して恥ずかしそうに俺を見つめる。


「お、お腹が空きました」
「そうだね。俺も腹が減った……って、金がない」
「……あぅ」

 忘れていたが一文無しだ。……いや、でも待てよ。ブルーコボルトの毛はお姉さんに回収されてない。これは俺たちのもの。売っても問題ないわけだ。


「リーベ、収集品を売ろう。ブラックスライムの欠片もあるし」
「なるほど! アイテムを精算するのですね」
「うん。この時間ながら、まだ開いている店もあるはずだ。アイテムを売ってお金にするんだ」
「名案です!」

 いったん宿を出て、アイテムを買い取ってくれるお店を探すことにした。
 街中に出ると、まだ開店中の武具屋があった。
 中へ入ると、長いヒゲを蓄えたおじさんがいた。ちょっと厳つい顔をしているけど、笑顔で俺たちを迎えてくれた。

「いらっしゃい。おや、宮廷錬金術師様ですね。これは珍しい」
「認識してもらえて助かった。アイテムを買い取って欲しいんだ」

 俺は収集品をテーブルの上に置いた。

「ブルーコボルトの毛ですか。これは凄い! あの獰猛なモンスターを倒されたのですね」
「宿屋のお姉さんに頼まれてというか、一泊の為にね」
「ああ、キャンペーンクエストですね。存じております。いやしかし、ありがたい。この街はコボルトの被害が多発しておりましてね~」

「この毛とブラックスライムの欠片をいくらで買い取って貰える?」

「――そうですね、ではプラクティッシュ銅貨10枚で」

 そんなものか。コボルト系は強いとはいえ、収集品はそれほど高くない。でも、銅貨が10枚もあれば十分な飯が食える。
 また明日稼ぐしかないな。

「じゃあ、ありがたく」
「ありがとうございました。またご利用ください」

 銅貨を受け取り、俺とリーベはお店を出た。
 見かけによらず丁寧な対応だったなぁ。

「お金作れましたね」
「俺とリーベで力を合わせた結果さ。ほら、銅貨」
「え、わたしにも?」
「当然だよ。二人でがんばったんだから、半分こさ」
「とても嬉しいです。でも――」

 なんだか申し訳なさそうにするリーベは、銅貨を受け取らなかった。

「どうしたのさ?」
「また落としちゃったら大変だからです! リヒトさんが持っていた方がいいです……」

 な、なるほど。という俺も財布を落としているんだけどね。今度は落とさないようにしないとなぁ。
 ひとまずお金の管理は俺がすることに。


 ◆


「――ふぅ、食った食った」
「美味しかったですね~、ステーキ」

 奮発して高いステーキにして良かった。凄く美味しかったし、腹も十分に膨れた。
 リーベは食事中、ずっと幸せそうな顔をしていたし、食べることが好きなのかも。

「じゃあ、宿へ戻るか」
「はいっ」

 すっかり夜も更けた。そろそろ寝る時間だ。
 宿屋に到着して部屋戻った。

 ベッドに腰掛けて俺は一息つく。

「ふぅ」
「あの、リヒトさん」
「どうした?」

「ずっと思っていたのですが……なぜ皆さん、リヒトさんを宮廷錬金術師と分かるのでしょうか?」

 人を助けた時、この宿屋のお姉さん、さっきの武具屋でもそうだった。
 そうだな、隠し事でもないし話しておくか。

「このイヤリングのせいかな」
「そ、そういえばリヒトさんって、左耳にイヤリングされていますね」
「これはね、ゴルト帝国の“宮廷錬金術師の証”なんだよ」
「そうだったのですね! 知りませんでした」
「リーベは聖女だったから、忙しくて知る暇がなかったのかな」
「はい。人々の為に尽くしていましたので」

 そういえば、俺はリーベのことをあまり知らない。帝国に聖女様がいたという話くらいだ。俺のことを話した今なら、聞けるかも。

「リーベ、君のことも教えてくれ」
「いいですよ。ほとんどお答えできると思います」
「じゃあ、そうだね……。ああ、そういえば婚約していたって言ったよね。その人のことは好きだったの?」

 そう聞くとリーベは頬を赤くしていた。

「……はい。名前も顔も知らない相手でしたが、毎日ドキドキしていました。だって、結婚とか考えられなかったので……。人の為、世の為に存在するはずの聖女であるわたしが幸せになれるとか、不思議な感覚でした」

 それでも婚約の話が出たんだな。
 教会の考えることは分からないな。
 けど、その相手は幸せ者だな。
 帝国の聖女様と結婚できるんだからな。でも今はもう破談となったようだけど。

 ホント、俺とそっくりの境遇だな。
 まさかとは思うけど、俺の相手ってリーベだったのかな。……いや、そんな偶然あるわけないか。

「俺もだよ。ずっと実感がなかった。でも、いざ婚約破棄されて……ショックだった」
「はい。知らない人でしたけど、わたしは心待ちにしていたんです。だから心が傷ついて、今も悲しいです」

 リーベは純粋なんだな。
 こんな辛そうな顔させやがって、相手を恨むぞ。
 けどいいか。おかげで俺はリーベと出会うことができた。なら、俺が代わりに笑顔を増やしてやる。

 もしも許されるのなら、この旅の終わりに……。いや、まだその考えは早いか。


「辛かったな、リーベ」
「……リヒトさん、わたし……泣いて、いいですか」
「おいで」

 そっか。リーベはずっと無理をしていたんだ。コボルト戦では、あんなに強そうに見えても乙女。
 俺も同じだから、余計に気持ちが分かる。
 幸せが待っていたはずなのに……本当に辛いよな。

 心が癒えるまでこの旅を続けよう。
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