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1.婚約破棄

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「リヒト、手紙が来ているぞ。婚約者からだ」

 侯爵のエルガーが手紙を渡してきた。
 宮廷錬金術師の俺は、名前も知らない相手と婚約していた。相手は美しい女性だと聞いている。
 きっと、そろそろ会ってくれるに違いない。

 そう思っていた。

 その内容を見て俺はショックを受けた。


【レベルゼロの人とは結婚できません。婚約破棄してください】


 なんだって……!
 ウソだろ……!


「………………」
「どうした、リヒト。顔色が悪いぞ」
「……婚約破棄された」
「は? マジかよ。……うわ、これは残念だな」


 俺の肩に手を置くエルガーは、同情の眼差しで見つめてきた。
 ありえねぇだろ。
 そりゃ、一度も会ったことないけどさ。


「絶望した……。もういい、国を出るッ!」
「ちょ、リヒト! 待て! まさか死ぬんじゃないだろうな!?」
「だってカッコ悪くて城にいられないだろ! 馬鹿にされるに決まってる! それに心に深いショックを受けた。しばらく傷心旅行に出る」

 とにかく俺は一人になりたかった。こんなのは、あんまりだ。

 背を向け、城の外を目指す俺。

 エルガーが止めてくるが、振り切った。

「リヒト!!」
「すまん、エルガー。俺はもう立ち直れそうにないっ」

 ダッシュで外へ。
 必死に必死に走って、いつの間にか街中を走っていた。やがて、帝国の外へ。

 なにも持たずに来てしまった。

 けどいいや、もう戻るのも面倒だ。

 このまま隣町まで向かおう。

 トボトボと歩いていると、モンスターに襲われている人物がいた。……ん、あれは凶悪なブラックスライムだな。相手の魔力を奪い、しかも服も溶かすという恐ろしいモンスターだ。


「きゃあああ、助けて!!」


 女の子の声だ。
 よく見ればエルフが襲われていた。

 いかん、服が半分溶けているじゃないか。ほぼ半裸といってもいい。白い肌が露出していて艶めかしいが、そんな場合ではない!
 このままでは全裸になってしまう。
 じゃなくて、魔力を全て奪われて……喰われる!

 仕方ない、助けてやろう。


 俺は懐から『バーサークポーション』を取り出し、飲んだ。


【バーサークポーション】
【詳細】
 飲むと『狂気状態』となり、物理攻撃力と物理防御力を10倍に底上げする。この効果は3分間持続。


 これを飲む――!!

 グビッと飲んで、俺は赤いオーラに包まれた。これでパワー全開!

 ブラックスライムへ接近し、ブン殴った。


「おりゃあああああああああッ!」


 見事にスライムをぶっ飛ばして、爆発四散させた。やはり、物理攻撃力10倍ともなると一撃がかなり強くなる。
 経験値とドロップアイテムを入手。
 けれど、あれだけの強敵を撃破しても俺のレベルが上がることはない。

 俺はレベルゼロの宮廷錬金術師。
 なぜかレベルアップしないことで有名なのだ。


「…………っ」
「大丈夫か、君」


 尻餅をついて震えている金髪のエルフ。

 ……なんと美しい。

 エルメルドグリーンの瞳が宝石のように輝いている。それと高貴なシスター服。明らかに身なりが上位職のそれだ。少なくともプリーストではないな。


「助けていただき感謝です。ありがとうございます」


 手を貸し、立ち上がらせた。
 背は俺よりも低く、小柄で可愛いな。
 ふわふわとした雰囲気で、なんだか危なっかしいというか。ひとりで何やっていたんだか。


「ケガはないか?」
「はい、おかげさまで……服が溶けたくらいで――きゃっ!」


 よく見るとエルフのシスター服は半分が溶けてしまっていた。大きな胸の谷間が零れ落ちそうだった。……こ、これは刺激的すぎる。

 背を向けておこう。


「その、よければこのポーションを使ってくれ」
「ポーション、ですか?」
「ああ、それは『レパリーレンポーション』という特殊なポーションさ。効果はこんな感じだ」


【レパリーレンポーション】
【詳細】
 一部のアイテムを修復するポーション。
 主に武具や家具などを修復可能。
 完全に壊れている場合は修復不可。


「す、凄い! こんなポーション聞いたことがありません」


 驚きながらもエルフは、ポーションをかぶった。


「もう振り向いても?」
「は、はい……問題ありません」


 改めてエルフの方へ向き直る。するとシスター服が修復されていた。我ながら上手くいったな。


「良かったな。じゃ、俺はもう行く」
「ま、待って下さい!」
「ん?」

「わたしの名はリーベ。聖女を引退したエルフです」
「聖女? えっ、あの聖女様……?」
「はい。わたしは帝国を代表する聖女。ですが、今日引退しました」


 あっさり言うリーベ。マジかよ。名前くらいは聞いたことがある。
 彼女は人々の為に奇跡を起こし、尽くしてきたという。けど、俺はほとんど興味がなくて、どんなことをしているのか知らなかった。


「どうして引退を?」
「……実は婚約していた相手がいたんです。でも、断られてしまい……」

「俺と同じだ」

「え……」
「はは、まさか同じような境遇のヤツがいるなんてな。世間とは狭いな」
「そうなんですね。では、わたしたち似た者の同士というわけですね!」


 なんで嬉しそうに言うんだよ!?
 そこは落ち込むところのような気がしないでもないが……いや、これも何かの縁かな。
 そうだな、袖振り合うも他生の縁ともいう。


「俺は傷心旅行の最中なんだ。一緒に来る?」
「ひとりで寂しかったところです。ぜひ!」


 まあいいか。彼女、かなりレベルの高いエルフのようだし、それに可憐だ。一緒に旅が出来るのなら楽しいだろうな。

 お互い婚約破棄された身。

 共通点もあるし、他人事とも思えなかった。

 レベルゼロの宮廷錬金術師と聖女を引退したエルフの旅路……ってところか。

 どうなるやらな――。
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