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新約・世界聖書
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このままルドミラからクラウスのことを聞き出そうとしたが、日が沈み始めていた。
今日のところは城へ帰ろう。
「城へ戻るか」
「そうですね。ナハトのことはお任せ下さい」
「分かった、そっちは頼んだぞ」
今日のところはルドミラがナハトの面倒(?)を見てくれることに。あのままだと暴走しかねんからと。
確かに、俺に襲い掛かってきたし……結構荒っぽい人なのかなぁ。
なんにせよ、彼のことも何か解決してやりたい気もする。
妙な気分の中で、いったんお城へ戻った。
帰還するやアレグロ枢機卿の殺人事件のことが知れ渡っていた。みんな心配して俺に駆け寄ってきて、なにがあったのか聞いてくる。
「兄上、元老院で何があったのだ!?」
真っ先にハヴァマールが飛びついてきた。
みんな不安な表情を浮かべていたので、俺は詳しく説明した。元老院で起きた全てのことを。
特に元騎士のクラウス・リヒトブリンガー議員が危険人物であることを明らかにした。
「な、なんとクラウスが議員なれていたのですね」
驚くストレルカ。そういえば、お父さんがゲルンスハイム帝領伯で議員でもあるんだよな。あの場にいたが、今日は話しかけられることがなかった。妙に余所余所しい雰囲気ではあったけど。
「ストレルカも何か知っていれば教えて欲しい」
「……そうしたいのは山々なのですが、彼は謎が多くて」
ただただ困惑するストレルカ。……そうなのか。となると、ルドミラから聞くしかないか。
などと腕を組み思案していると城の中にやってくる人物がいた。あれは、ゲルンスハイム帝領伯ではないか。いつもに増して険しい表情でこちらへ向かってくるとストレルカの前に立った。
「城にいたのだな」
「はい、お父様。わたくしは常にラスティ様のおそばに」
「……ならば安心だな」
妙にしおらしいゲルンスハイム帝領伯。いつもなら俺に敵意むき出しで怒鳴ってばかりだったのに。俺が皇帝の立場になったということもあるのだろうが。
「なにかご用件でも?」
「いや、お前の顔を見ておきたかったのだ」
「え……」
「私の世界一可愛い娘、ストレルカよ。この際だ……陛下と幸せにやるのだぞ!」
いきなりトンでもないことを言いだし、滝のように涙を流してうぉんうぉん泣き出していた。じょ、情緒不安定……!?
つか、みんなの前でなに言ってんだよッ。
「どうなされたのですか、お父様」
「お前も聞いただろう、アレグロ枢機卿のことを」
「ええ……。呪いで殺されてしまったと」
「なら、次に命を狙われるのはこの私だろう」
『え!?』
俺だけでない、ストレルカやその場にいるみんなが全員その言葉に驚いた。
ゲルンスハイム帝領伯が狙われてる?
まさか殺人は一度で終わらないというのか。そんな馬鹿な。
気になって俺はゲルンスハイム帝領伯に聞いた。
「いったい、誰から?」
「……それは分かりません。あまり人を疑うということをしたくないのですが、私はディミトリー議員が怪しいかと」
ディミトリーか。前皇帝アントニン(魔王)の腹心だった男。クラウスを議員に推薦したとかという話だ。
あの悪人面のおっさんは確かに怪しいな。
「なるほど。ディミトリーとクラウスは要注意人物だな」
「やはり、クラウス議員も……」
「まだ証拠はないけどね」
そう、確固たる証拠がない。クラウスは“まだなにもしていない”のだ。恐らく、これからなにかしでかす。企てているからこそ、事件を起こす。――いや、もう起きているな。早くヤツの陰謀を暴かねば。
「ところで陛下」
「ん?」
「さきほど元老院でクラウス議員がこのように発言していたのです。『まずは島国ラルゴ周辺にある“無人島”を占領し、不法に作られたあの島をもドヴォルザーク帝国の領地にすべき』だと」
ゲルンスハイム帝領伯の言葉に俺は、思考が停止しかけた。な、なんだって……! 島国ラルゴを!? しかも無人島すらを占領するって、どういうことだよ。
「こりゃ、きな臭くなってきたな、ラスティ」
ずっと耳を傾けていたテオドールが口を開く。その通りかもしれない。クラウスが『支配』を目論むのなら、これはヤツにとっての正しい行動だ。
「帝領伯、しかし議員の一存で決められるものではないだろう」
「ええ、本来ならば――ですが」
「どういうことだ?」
「アレグロ枢機卿はドヴォルザーク帝国の法律が記された『新約・世界聖書』の所持が認められていました」
新約・世界聖書……そんなものがあったのか。
「って、まさか」
「ええ。今回の事件、もしかしたら法律を書き換える為に起こったものかと」
クラウスが俺の島国ラルゴを狙っているのなら、辻褄が合うな。今まで不可能だった俺の島国への支配を法律を変えて可能にする気なんだ。
推測だが、なにかしら話を持ち掛けられたアレグロ枢機卿は殺されてしまった――そんなところだろうか。
枢機卿が倒れた今、法律を管理するのは誰になるか。それがクラウスになるのなら、マズすぎるぞ。……阻止せねば!
今日のところは城へ帰ろう。
「城へ戻るか」
「そうですね。ナハトのことはお任せ下さい」
「分かった、そっちは頼んだぞ」
今日のところはルドミラがナハトの面倒(?)を見てくれることに。あのままだと暴走しかねんからと。
確かに、俺に襲い掛かってきたし……結構荒っぽい人なのかなぁ。
なんにせよ、彼のことも何か解決してやりたい気もする。
妙な気分の中で、いったんお城へ戻った。
帰還するやアレグロ枢機卿の殺人事件のことが知れ渡っていた。みんな心配して俺に駆け寄ってきて、なにがあったのか聞いてくる。
「兄上、元老院で何があったのだ!?」
真っ先にハヴァマールが飛びついてきた。
みんな不安な表情を浮かべていたので、俺は詳しく説明した。元老院で起きた全てのことを。
特に元騎士のクラウス・リヒトブリンガー議員が危険人物であることを明らかにした。
「な、なんとクラウスが議員なれていたのですね」
驚くストレルカ。そういえば、お父さんがゲルンスハイム帝領伯で議員でもあるんだよな。あの場にいたが、今日は話しかけられることがなかった。妙に余所余所しい雰囲気ではあったけど。
「ストレルカも何か知っていれば教えて欲しい」
「……そうしたいのは山々なのですが、彼は謎が多くて」
ただただ困惑するストレルカ。……そうなのか。となると、ルドミラから聞くしかないか。
などと腕を組み思案していると城の中にやってくる人物がいた。あれは、ゲルンスハイム帝領伯ではないか。いつもに増して険しい表情でこちらへ向かってくるとストレルカの前に立った。
「城にいたのだな」
「はい、お父様。わたくしは常にラスティ様のおそばに」
「……ならば安心だな」
妙にしおらしいゲルンスハイム帝領伯。いつもなら俺に敵意むき出しで怒鳴ってばかりだったのに。俺が皇帝の立場になったということもあるのだろうが。
「なにかご用件でも?」
「いや、お前の顔を見ておきたかったのだ」
「え……」
「私の世界一可愛い娘、ストレルカよ。この際だ……陛下と幸せにやるのだぞ!」
いきなりトンでもないことを言いだし、滝のように涙を流してうぉんうぉん泣き出していた。じょ、情緒不安定……!?
つか、みんなの前でなに言ってんだよッ。
「どうなされたのですか、お父様」
「お前も聞いただろう、アレグロ枢機卿のことを」
「ええ……。呪いで殺されてしまったと」
「なら、次に命を狙われるのはこの私だろう」
『え!?』
俺だけでない、ストレルカやその場にいるみんなが全員その言葉に驚いた。
ゲルンスハイム帝領伯が狙われてる?
まさか殺人は一度で終わらないというのか。そんな馬鹿な。
気になって俺はゲルンスハイム帝領伯に聞いた。
「いったい、誰から?」
「……それは分かりません。あまり人を疑うということをしたくないのですが、私はディミトリー議員が怪しいかと」
ディミトリーか。前皇帝アントニン(魔王)の腹心だった男。クラウスを議員に推薦したとかという話だ。
あの悪人面のおっさんは確かに怪しいな。
「なるほど。ディミトリーとクラウスは要注意人物だな」
「やはり、クラウス議員も……」
「まだ証拠はないけどね」
そう、確固たる証拠がない。クラウスは“まだなにもしていない”のだ。恐らく、これからなにかしでかす。企てているからこそ、事件を起こす。――いや、もう起きているな。早くヤツの陰謀を暴かねば。
「ところで陛下」
「ん?」
「さきほど元老院でクラウス議員がこのように発言していたのです。『まずは島国ラルゴ周辺にある“無人島”を占領し、不法に作られたあの島をもドヴォルザーク帝国の領地にすべき』だと」
ゲルンスハイム帝領伯の言葉に俺は、思考が停止しかけた。な、なんだって……! 島国ラルゴを!? しかも無人島すらを占領するって、どういうことだよ。
「こりゃ、きな臭くなってきたな、ラスティ」
ずっと耳を傾けていたテオドールが口を開く。その通りかもしれない。クラウスが『支配』を目論むのなら、これはヤツにとっての正しい行動だ。
「帝領伯、しかし議員の一存で決められるものではないだろう」
「ええ、本来ならば――ですが」
「どういうことだ?」
「アレグロ枢機卿はドヴォルザーク帝国の法律が記された『新約・世界聖書』の所持が認められていました」
新約・世界聖書……そんなものがあったのか。
「って、まさか」
「ええ。今回の事件、もしかしたら法律を書き換える為に起こったものかと」
クラウスが俺の島国ラルゴを狙っているのなら、辻褄が合うな。今まで不可能だった俺の島国への支配を法律を変えて可能にする気なんだ。
推測だが、なにかしら話を持ち掛けられたアレグロ枢機卿は殺されてしまった――そんなところだろうか。
枢機卿が倒れた今、法律を管理するのは誰になるか。それがクラウスになるのなら、マズすぎるぞ。……阻止せねば!
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