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身勝手な婚約
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ゲルンスハイム帝領伯の後をついていく。
奥の部屋に通され、食堂らしき場所に案内された。
長テーブルの上には、多くのフルーツが置かれている。
「席についてくれ」
そう言われ、俺たちは椅子に腰かけた。
しかしストレルカがゲルンスハイム帝領伯に詰め寄っていた。
「聖戦がはじまっているのです。のんびりしている暇はありませんよ、お父様」
「落ち着くのだ、我が娘よ」
「落ち着いてなんていられません」
「やれやれ。相変わらず落ち着きのない」
少し呆れながらも、ゲルンスハイム帝領伯は俺に視線を向けてきた。威圧感を感じるが、ここで怯むわけにはいかない。
「帝領伯、しばらくの間ここを貸していただけませんか」
「ラスティくん、娘を連れ帰って来てくれたことには感謝する。だが、屋敷を貸すのは無理だ。娘を置いて帰ってもらおう」
やはり厳しい返答が返ってきたか。
想定内ではあったが、ここまでとは。
とはいえ、ストレルカの意思は固いはずだ。
「お父様!」
「ストレルカは黙っていなさい。いいか、ラスティくん。娘は、元老院議長の息子であるグランツ殿と婚約する」
「「なッ……!!」」
俺もストレルカも驚いた。
いや、全員が驚いていた。
おいおい、マジかよ。聞いてないぞ……!
グランツのヤツ、知っていたんだろうな……。
「それは本当ですか、お父様」
「三日前だ。マルクス議長がこの屋敷を訪ねてきた。その際に、ストレルカとの婚約を迫ってきた。私はお前の幸せを考え、了承したのだ」
そういうことか。マルクスのヤツ、俺たちの動きを想定してこんな妨害工作を。やってくれたな。
「ラスティさん、どうしましょう」
心配そうに俺を見つめるスコル。
マルクスの自由にさせてたまるか。
だが、今の俺は見守ることしかできない。ストレルカ本人の言葉にかかっている。
「また身勝手な婚約ですか、お父様。なぜいつも分かってくれないのです……!」
「ストレルカ、もう前とは状況が違う。相手は元老院だぞ。今やドヴォルザーク帝国の権力を握り始めていると言っても過言ではない」
「しかし、上級監督官のシベリウス様がおられるでしょう!」
「上級監督官……フン。あんな皇帝陛下の代わりにもならない若造をトップと認めるわけにはいかないな。大半の貴族もそう感じている」
ニールセンの件を終えてから、ドヴォルザーク帝国の管理は上級監督官のシベリウスが担っていた。だが、最近は発言力を失っているらしい。
やはり、元老院の存在がデカいんだろうな。
そう考えていると、ストレルカが机を鋭く叩いた。
「よく分かりました。お父様……」
「ほう、グランツ殿と婚約するのだな?」
「わたくしは、この家と縁を切ります」
「………………え?」
想定外の返答だったのか、帝領伯は石化していた。
俺もビックリした。まさかそんなことを言い出すだなんて。
「お父様……いえ、帝領伯。わたくしは、ラスティ様が好きなんです。この気持ちは一生変わりません。第二夫人になるつもりですので!」
「「なにいいいいいいい!?」」
これは俺と帝領伯の叫び。
「「えええええええええ!?」」
これはスコルとハヴァマールの魂の叫び。
全員が絶叫していた。
だ、第二夫人って、それは……嬉しいけど、ストレルカがそこまで考えていたとは! でもなんで第二夫人なんだろう――って、俺がスコルを一番に考えているからか。
つまり、ストレルカは二番目でもいいというわけか。
……そう思ったら俺は顔が熱くなった。
でも……!
いや、島国ラルゴはテオドールの一夫多妻制を認めているし、問題ないか。
って、そうじゃない。今はそれよりも!
と思ったけど帝領伯は魂が抜けたように脱力して動かなくなっていた。
あぁ、こりゃストレルカの発言が相当効いたらしいな。
へにゃへにゃになっている。
「申し訳ありません、ラスティ様。それに、スコル様も」
「いや、いいんだよ、ストレルカ」
「ラスティさんの言う通りです。気にしないでください」
スコルは寛容だなぁ……。
さて、こうなると屋敷にはいられそうにないな。
俺たちは別の居場所を探すことにした。
奥の部屋に通され、食堂らしき場所に案内された。
長テーブルの上には、多くのフルーツが置かれている。
「席についてくれ」
そう言われ、俺たちは椅子に腰かけた。
しかしストレルカがゲルンスハイム帝領伯に詰め寄っていた。
「聖戦がはじまっているのです。のんびりしている暇はありませんよ、お父様」
「落ち着くのだ、我が娘よ」
「落ち着いてなんていられません」
「やれやれ。相変わらず落ち着きのない」
少し呆れながらも、ゲルンスハイム帝領伯は俺に視線を向けてきた。威圧感を感じるが、ここで怯むわけにはいかない。
「帝領伯、しばらくの間ここを貸していただけませんか」
「ラスティくん、娘を連れ帰って来てくれたことには感謝する。だが、屋敷を貸すのは無理だ。娘を置いて帰ってもらおう」
やはり厳しい返答が返ってきたか。
想定内ではあったが、ここまでとは。
とはいえ、ストレルカの意思は固いはずだ。
「お父様!」
「ストレルカは黙っていなさい。いいか、ラスティくん。娘は、元老院議長の息子であるグランツ殿と婚約する」
「「なッ……!!」」
俺もストレルカも驚いた。
いや、全員が驚いていた。
おいおい、マジかよ。聞いてないぞ……!
グランツのヤツ、知っていたんだろうな……。
「それは本当ですか、お父様」
「三日前だ。マルクス議長がこの屋敷を訪ねてきた。その際に、ストレルカとの婚約を迫ってきた。私はお前の幸せを考え、了承したのだ」
そういうことか。マルクスのヤツ、俺たちの動きを想定してこんな妨害工作を。やってくれたな。
「ラスティさん、どうしましょう」
心配そうに俺を見つめるスコル。
マルクスの自由にさせてたまるか。
だが、今の俺は見守ることしかできない。ストレルカ本人の言葉にかかっている。
「また身勝手な婚約ですか、お父様。なぜいつも分かってくれないのです……!」
「ストレルカ、もう前とは状況が違う。相手は元老院だぞ。今やドヴォルザーク帝国の権力を握り始めていると言っても過言ではない」
「しかし、上級監督官のシベリウス様がおられるでしょう!」
「上級監督官……フン。あんな皇帝陛下の代わりにもならない若造をトップと認めるわけにはいかないな。大半の貴族もそう感じている」
ニールセンの件を終えてから、ドヴォルザーク帝国の管理は上級監督官のシベリウスが担っていた。だが、最近は発言力を失っているらしい。
やはり、元老院の存在がデカいんだろうな。
そう考えていると、ストレルカが机を鋭く叩いた。
「よく分かりました。お父様……」
「ほう、グランツ殿と婚約するのだな?」
「わたくしは、この家と縁を切ります」
「………………え?」
想定外の返答だったのか、帝領伯は石化していた。
俺もビックリした。まさかそんなことを言い出すだなんて。
「お父様……いえ、帝領伯。わたくしは、ラスティ様が好きなんです。この気持ちは一生変わりません。第二夫人になるつもりですので!」
「「なにいいいいいいい!?」」
これは俺と帝領伯の叫び。
「「えええええええええ!?」」
これはスコルとハヴァマールの魂の叫び。
全員が絶叫していた。
だ、第二夫人って、それは……嬉しいけど、ストレルカがそこまで考えていたとは! でもなんで第二夫人なんだろう――って、俺がスコルを一番に考えているからか。
つまり、ストレルカは二番目でもいいというわけか。
……そう思ったら俺は顔が熱くなった。
でも……!
いや、島国ラルゴはテオドールの一夫多妻制を認めているし、問題ないか。
って、そうじゃない。今はそれよりも!
と思ったけど帝領伯は魂が抜けたように脱力して動かなくなっていた。
あぁ、こりゃストレルカの発言が相当効いたらしいな。
へにゃへにゃになっている。
「申し訳ありません、ラスティ様。それに、スコル様も」
「いや、いいんだよ、ストレルカ」
「ラスティさんの言う通りです。気にしないでください」
スコルは寛容だなぁ……。
さて、こうなると屋敷にはいられそうにないな。
俺たちは別の居場所を探すことにした。
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