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元老院最高議長の息子
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近づいてみると、貴族のような煌びやかな格好をした青年がいた。俺より年上のようだな。
中性的な顔立ち、紫色の髪を三つ編みにまとめている。
腰には剣……というか、あれは異国の武器『刀』か。それと背中にも長剣を帯剣しているようだった。なんだか、凄い装備だな。
「あの方は……」
珍しくエドゥが反応を見せた。
「知っているのか?」
「はい。彼はドヴォルザーク帝国の貴族にして元老院の最高議長の息子『グランツ』です」
グランツ、聞いたことがないな。
元老院の存在は知っているが、確かそれほど力は持っていないと聞いていた。
けど、今は情勢が変わった。
現在のドヴォルザーク帝国では、元老院の力が増しているのかもしれない。
「そんな男がわざわざ俺の島で演説か」
「恐らく、聖戦の参加者を集める為でしょう」
「多い方が得があるってこと?」
「はい。賛同者が多ければ多いほど、聖戦はより神聖なものとなります。信仰心と一緒で崇める信者が多ければ、巨大な力を持つわけです」
皇帝を決めるイベントなんだ、それくらいの厳格と格式がなければダメってことだ。
けれど、俺の島国で勝手は許さない。
住人を強制移住させようなど言語道断の極み。
「ちょっくら止めてくる」
「分かりました。いざとなれば主様の権限で“強制追放”を」
「ああ、そうする」
俺はエドゥから離れ、グランツの元へ向かった。
彼は未だに住人に対して説得を続けていた。
「誰でも皇帝になるチャンスがある。そう、これが真の平等なのです」
「さあ、それはどうかな」
こちらに振り向くグランツ。
「あなたは……むっ」
俺の顔を見るなり、グランツは眉をひそめた。さすがに俺のことは知っているようだな。
「これ以上の勝手は、この島国ラルゴの主である俺が許さない」
「ラスティ……やはり、あなたか」
「悪いが、ラルゴを巻き込まないで欲しい」
「そうはいかない。この島国には、元帝国住民も多く存在する。帰りたがっている者もいるはずだ」
だが、今この場にいる者達は反応をひとつも見せなかった。
「帰りたがっている者って?」
「ぐっ……そんなはずはない。お前たち、少しくらい不満があるはずだ!」
けれどそれでも賛同者はいなかった。
「う~ん……不満なんてないけどなぁ」「そうだよ、島国ラルゴは天国だぞ」「ラスティ様はなんでもしてくれる」「皇帝よりも民の声を聞いてくださる」「農業だってのんびりやれる」「危険モンスターは多いけど、討伐してくれるしなぁ」「騎士団だとか心強いし」「このままでよくね?」
などなど特にラルゴを出ていこうという者は現れなかった。
これが“答え”なのだ。
「分かったか、グランツ」
「そんな馬鹿な。こんな吹けば消し飛ぶような島に、なんの価値がある。ただ狭く、自由のない生活しか送れないのではないのか!」
「アホか。そりゃお前の偏見だ。みんな満足しているんだよ、分かれよ」
所詮、貴族には分からないさ。
日々労働に励み、今日そして明日を生きる為に支え合う。人々は安寧を求めてこの島国に移ってきた。誰しもが笑顔の為に島をよくしようと考え、生きている。
そういう自由がここにはあるのだ。
だからこそ不満もなければ、住民には団結の力もある。
俺が知らない間に島国は大きく成長していた。
「そうか……。島国ラルゴの住人は全員腑抜けというわけだ。皇帝どころか貴族になろうという気概もなく、平民で一生を終える凡庸ばかり。家畜以下! ……よく分かった。この私が皇帝になったら、この島国は消滅させる」
「なんだと……」
「こんな退屈な島を残していても仕方あるまい。帝国の領地に相応しくない!」
「勝手を言うな! そもそもラルゴは帝国の領地じゃねぇよ!」
まるで俺やみんなを嘲笑うかのようにグランツは笑う。
「聖戦に参加する意思がないのだろう? なら、貴様達に帝国をどうこう言う権利はないはずだ。覚えておけ、ラスティ。この私がきっと皇帝になってみせる」
背を向けるグランツ。
コイツ……帝国へ帰るつもりか。
ここまで言われてタダで帰すわけないだろ。
「グランツ、お前の数々の暴言は看過できない」
「ほう? ならば、この私と戦うか? ドヴォルザーク帝国元老院最高議長の息子である、この私とな!」
鷹のような鋭い目で俺を睨むグランツ。コイツ……凄まじい殺気だ。
確かに魔力は高そうだ。
けれど、俺も黙っていられない。
最大限に魔力を高め、殺気を押し返していく。
「……それがどうした」
「…………ッッ!!」
僅かに足をすくませるグランツは、顔を引きつらせていた。
「どうする、グランツ。決闘でもするか?」
「元第三皇子であり、島国ラルゴの主であるお前と戦えるとは光栄の極み。ここで“聖戦”をはじめようではないか……!」
グランツは、背中から剣を抜く。
ずっと気になってはいたけど……あれは長剣・バスタードソードか!
中性的な顔立ち、紫色の髪を三つ編みにまとめている。
腰には剣……というか、あれは異国の武器『刀』か。それと背中にも長剣を帯剣しているようだった。なんだか、凄い装備だな。
「あの方は……」
珍しくエドゥが反応を見せた。
「知っているのか?」
「はい。彼はドヴォルザーク帝国の貴族にして元老院の最高議長の息子『グランツ』です」
グランツ、聞いたことがないな。
元老院の存在は知っているが、確かそれほど力は持っていないと聞いていた。
けど、今は情勢が変わった。
現在のドヴォルザーク帝国では、元老院の力が増しているのかもしれない。
「そんな男がわざわざ俺の島で演説か」
「恐らく、聖戦の参加者を集める為でしょう」
「多い方が得があるってこと?」
「はい。賛同者が多ければ多いほど、聖戦はより神聖なものとなります。信仰心と一緒で崇める信者が多ければ、巨大な力を持つわけです」
皇帝を決めるイベントなんだ、それくらいの厳格と格式がなければダメってことだ。
けれど、俺の島国で勝手は許さない。
住人を強制移住させようなど言語道断の極み。
「ちょっくら止めてくる」
「分かりました。いざとなれば主様の権限で“強制追放”を」
「ああ、そうする」
俺はエドゥから離れ、グランツの元へ向かった。
彼は未だに住人に対して説得を続けていた。
「誰でも皇帝になるチャンスがある。そう、これが真の平等なのです」
「さあ、それはどうかな」
こちらに振り向くグランツ。
「あなたは……むっ」
俺の顔を見るなり、グランツは眉をひそめた。さすがに俺のことは知っているようだな。
「これ以上の勝手は、この島国ラルゴの主である俺が許さない」
「ラスティ……やはり、あなたか」
「悪いが、ラルゴを巻き込まないで欲しい」
「そうはいかない。この島国には、元帝国住民も多く存在する。帰りたがっている者もいるはずだ」
だが、今この場にいる者達は反応をひとつも見せなかった。
「帰りたがっている者って?」
「ぐっ……そんなはずはない。お前たち、少しくらい不満があるはずだ!」
けれどそれでも賛同者はいなかった。
「う~ん……不満なんてないけどなぁ」「そうだよ、島国ラルゴは天国だぞ」「ラスティ様はなんでもしてくれる」「皇帝よりも民の声を聞いてくださる」「農業だってのんびりやれる」「危険モンスターは多いけど、討伐してくれるしなぁ」「騎士団だとか心強いし」「このままでよくね?」
などなど特にラルゴを出ていこうという者は現れなかった。
これが“答え”なのだ。
「分かったか、グランツ」
「そんな馬鹿な。こんな吹けば消し飛ぶような島に、なんの価値がある。ただ狭く、自由のない生活しか送れないのではないのか!」
「アホか。そりゃお前の偏見だ。みんな満足しているんだよ、分かれよ」
所詮、貴族には分からないさ。
日々労働に励み、今日そして明日を生きる為に支え合う。人々は安寧を求めてこの島国に移ってきた。誰しもが笑顔の為に島をよくしようと考え、生きている。
そういう自由がここにはあるのだ。
だからこそ不満もなければ、住民には団結の力もある。
俺が知らない間に島国は大きく成長していた。
「そうか……。島国ラルゴの住人は全員腑抜けというわけだ。皇帝どころか貴族になろうという気概もなく、平民で一生を終える凡庸ばかり。家畜以下! ……よく分かった。この私が皇帝になったら、この島国は消滅させる」
「なんだと……」
「こんな退屈な島を残していても仕方あるまい。帝国の領地に相応しくない!」
「勝手を言うな! そもそもラルゴは帝国の領地じゃねぇよ!」
まるで俺やみんなを嘲笑うかのようにグランツは笑う。
「聖戦に参加する意思がないのだろう? なら、貴様達に帝国をどうこう言う権利はないはずだ。覚えておけ、ラスティ。この私がきっと皇帝になってみせる」
背を向けるグランツ。
コイツ……帝国へ帰るつもりか。
ここまで言われてタダで帰すわけないだろ。
「グランツ、お前の数々の暴言は看過できない」
「ほう? ならば、この私と戦うか? ドヴォルザーク帝国元老院最高議長の息子である、この私とな!」
鷹のような鋭い目で俺を睨むグランツ。コイツ……凄まじい殺気だ。
確かに魔力は高そうだ。
けれど、俺も黙っていられない。
最大限に魔力を高め、殺気を押し返していく。
「……それがどうした」
「…………ッッ!!」
僅かに足をすくませるグランツは、顔を引きつらせていた。
「どうする、グランツ。決闘でもするか?」
「元第三皇子であり、島国ラルゴの主であるお前と戦えるとは光栄の極み。ここで“聖戦”をはじめようではないか……!」
グランツは、背中から剣を抜く。
ずっと気になってはいたけど……あれは長剣・バスタードソードか!
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