無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ

桜井正宗

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幻影スキル・インセプション

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 依然としてイリュージョンの姿は分からない。
 手が不気味に浮かび上がり、それが襲ってきた。俺はヴェラチュールで対応し、身長を超える大きな右手の攻撃を防御。

 激烈すぎる衝撃に火花が散る。なんて馬鹿力だ。まるで魔法のブーストが掛かっているような。多分そうだ。


「……ぐっ!!」
「ラスティくん、私はイリュージョンの左手を対処します!」
「分かった。みんなも頼む!!」


 なんとかしてイリュージョンを引きずり出さないと!
 このままでは一方的にやられるだけだ。


「大変なのだ、兄上!」
「どうした、ハヴァマール?」
「あの手を分析してみたのだが、あれこそがイリュージョンなのだ!」
「なに!?」

 手の猛攻撃を受け流しながらも、俺は驚いた。この両手だけの存在がイリュージョンだというのか! まさかの本体。マジかよ。


『そうさ、この手の形こそが私そのものなのだ。幻影に相応しいだろう?』


 不気味に笑うイリュージョンは、更に手を加速させて攻撃を何度も加えてきた。な、なんてスピードだ。これを受け続けなければならないとは……。しかも、反撃ができない! ルドミラも防御で精一杯だ。

「なるほど、イリュージョンの由縁はこれか」
『ああ、そうとも。ところで少年、お前は何者だ? この私の攻撃を防御するとは、並みの人間ではなさそうだな』

「俺はラスティだ。覚えなくていいぞ!!」

 無人島開発スキルを使い、余った材料で足場を拡張させた。これでもっと動けるようになった。


『な、なんだ……足場が増えただと? なんだこのスキルは……見たことも聞いたこともないぞ』

「これが俺の十八番でね。こんなこともできるッ!」


 更にスキルを発動し、鉄製チェーンを生成。それを手に巻き付けた。


『……ぐあぁッッ!!!』


 そうだ、最初からこうして縛ってしまえば良かったんだ。これで反撃ができる。そう思ったが、イリュージョンは無理矢理チェーンを破壊した。この馬鹿力……。


「ちっ……」

『この程度で私の自由を奪えると思うなよ。いやしかし、スキルには驚かされた。だが、それだけだ。我がスキルを上回るほどではない」

「なに?」

『幻影スキルの本当の怖さを知るがいい……!』


 両手が退いていくと、掌を広げた。これは嫌な予感がする。まずいな、一旦隠れた方がいい。そんな危機感をヒシヒシと感じた。


「みんな、退却だ!!」


 けれど、もう遅かった。


『永遠の幻を見るがいい……インセプション!』


 白い光に包まれ、俺たちは……俺は意識を失った。


 * * *


「――――ラスティ。いつまで寝ているのだ、この愚か者が!」

 声がした。
 どこかで聞き覚えのある低くて図太い声だ。
 男が俺の名前を何度も連呼して呼ぶ。
 怒りさえ滲ませて。
 なぜそんなに俺を呼ぶんだ?

 朦朧もうろうとする意識の中で、俺は視線をその人物に当てた。

 すると、そこには嘗ての親父・アントニンがいた。ドヴォルザーク帝国の皇帝陛下だけど、俺の親父でもあった。……あれ、なんだか若いな。

 てか、俺の背……縮んでね?

 って、俺なんか子供っぽいぞ!?

 驚いているとドラゴン族にして親父の専属護衛・ロイヤルガーディアンであるスケルツォが姿を現した。彼女は激昂する親父をなだめていた。


「陛下、恐れながらラスティ様はまだ十一歳であります。第三皇子ゆえ、力もご兄弟の中では非力……ですが、可能性は十分に秘めているかと」

「この甘ったれに可能性が? 困ればアルフレッドを頼る小僧に過ぎん。今のうちに皇子としての根性を叩き直さなければ、愚息は堕落する一方だ」


 ま、まてまて……スケルツォのヤツ、今なんて?
 俺が十一歳だって?

 そうか……この身長差、マジで俺は十一歳の頃のガキらしい。でも、なんで? どうして俺は子供になってしまったんだ?

 まったく思い出せない。
 重要な“なにか”があったはずなのに。


「陛下、どうかお時間を下さいませ。僭越せんえつながら、この私がラスティ様を鍛えてみせましょう」
「スケルツォ、お前の魔女の力は認めている。……出来るのか?」
「まずは可能性を探るところからです」
「良いだろう。お前ならきっとラスティの潜在能力を引き出せるはずだ。良い報告を期待しているぞ」

 親父は俺を睨むと、そのまま何処かへと消えた。相変わらず、子供にも容赦がない。厳しいクソ親父だった。ああ、そうだ……まともな愛情なんて受けたことがなかった。
 俺にとって本当の親父は専属執事のアルフレッドだけだ。

「で、俺はどうすればいい?」
「おや、ラスティ様にしてはやる気ですね」
「親父を見返したいんだ。なんでもいい、教えてくれ」
「分かりました。ではまずはテストします」
「テスト?」
「ラスティ様にどんな能力があり、どんなスキルと相性が良いのか。試すのです」

 それで俺の力を引き出してくれるってわけか。どうせ何も思い出せないし、スケルツォに付き合ってやるか。

 彼女に従い、俺は様々なテストを行った。
 低級魔法スキルを発動してみたり、身体能力を見せたりなど。

「――ふぅ、どうだ?」
「う~ん……これは酷いですね。基礎がなっていませんし、魔法も正確性がない。まるで泥団子を投げつけているようです」

 頭を抱え、青ざめるスケルツォ。おいおい、言いすぎだろ! でも、なんでだろう……上手くいかないや。俺には無人島開発スキルだとか、万能のつるはしである『ゲイルチュール』や『シグチュール』、それに『ヴェラチュール』があるはずなのにな。

 なぜか発動できなかった。


 そんな中、第一皇子であるワーグナーと第二皇子ブラームスの兄貴達がそばで笑っていたことに気づく。


「あはははは! ラスティのヤツ、また失敗してるぞ!」
「ゴミみたいな魔法しかできねぇんだな!」


 アイツ等……ガキの頃の兄貴だけど容赦なくブン殴るぞ。
 しかしその前に兄貴達はぶっ飛ばされていた。


「「ぎゃああああああああああ!?」」


 あれ、なんだ今の?
 スケルツォかと思ったが、さすがに兄貴達には手を出さないはずだ。だとすれば……いったい誰が?


「あ、俺だ!!」


 俺のゴミみたいなスキルが兄貴たちの近くで炸裂して、爆発したらしい。
 あんなクソみたいな魔法スキルでも、兄貴たちを吹き飛ばすくらいはできた。なんだ、やれば出来るじゃないか、俺。

 だけどその後、俺はスケルツォから怒られてしまい、しばらく部屋で反省するようにと閉じ込められてしまった。

 暗い部屋だ。
 真っ暗でなにもない場所。

 ……あれ、これが俺の部屋だっけ。

 心が壊れていくような不安に苛まれる。
 どうして。
 なぜ。

 ここは冷たい。
 冷たい。

 怖い。
 なにもかも失ってしまいそう。

 壊れる音。
 ガラスの亀裂音が響く。


『そうだ、ラスティ。幻に身を委ね、永遠を過ごすがいい……』


 声が聞こえた。
 そうだな、それがいいかもしれない。苦しみも悲しみもない、この平和なこの世界で。

「いけません、ラスティさん」
「……あれ、この声は」
「幻聴に耳を傾けてはいけません。あなたは今、幻を見せられているのですよ」
「スコル……!」

 壊れそうになる世界の中にスコルがいた。破壊されそうになる心を癒してくれる。……ああ、なんて温かい。
 そうか、思い出したぞ。

 俺はイリュージョンのスキルで幻を見ていたんだ。

 でも、スコルが助けてくれた。
 危うく幻の世界に取り込まれるところだった。これが幻影の恐ろしさか……。きっとみんなも幻の中にいるはずだ。

 全員を助けないと!
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